米『WIRED』の創刊編集長を務め、テック界のビジョナリーと称されるケヴィン・ケリー。シリコンバレーで約40年間にわたり数多くの企業の盛衰を見つめてきた著者が注目する、「これから来る産業」とは何か。(聞き手・大野和基、訳・服部桂)

※本稿は、ケヴィン・ケリー著『5000日後の世界―すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。


クリーンミートが「食」の概念を変える

私が現在最も注目しているテクノロジーのひとつが、バイオテックです。先日、バイオ関連に特化した、あるインキュベーターに会いに行きました。サンフランシスコにあるインディーバイオ(IndieBio)という会社です。

そこを通して、かなりの数のクリーンミート(培養肉)の会社が立ち上がっています。そこではスタートアップ企業がひしめいていました。1年の間に15社ずつ2回、つまりこのインキュベーターだけで毎年30社も新規起業しているんです。

その中の1社であるニューエージミーツ(NewAgeMeats)とかなり長い時間話しました。他にもインポッシブルフーズ(ImpossibleFoods)、ビヨンドミート(BeyondMeat)、メンフィスミーツ(MemphisMeats:のちに社名をUPSIDEFoodsに変更)といった同じような会社があります。

それらの会社は、植物由来の成分や動物の細胞を使って、デスレスミート(動物を殺さない肉)とも呼ばれている人工肉を作っているんです。

培養肉の豚肉は、豚の細胞や脂肪、筋肉を備えていますが、豚を育てて取ったものではありません。動物を殺さないうえ、もっと健康にいい肉にしたり、味を変えてみたり、肉質を高めたりすることもできます。いろんな手を加えられるんですよ。そしてその効率性たるや大変なもので、骨などの不要な部分は作らず、肉だけを作るんです。

それに与える栄養は基本的に豚に与えるものと同じ大豆とトウモロコシなんです。まるでSF映画みたいな話ですが、望めばどんなものにでもできます。クリーンミートの産業は大きく成長して、重要な産業になると思います。私のように15年も豚も牛も食べていない人も食べられる肉を作るのです。

私の食生活は「テキサス式菜食主義」というもので、魚や鳥は食べるが、豚、牛、羊、馬などの哺乳類は食べません。自分で殺したとしても罪悪感を覚えないものしか食べないのです。私は家の庭で鶏を飼っていて、食べることになれば殺しますし魚も大丈夫です。

しかし豚は非常に賢い動物ですから食べません。とはいえ、殺す必要がないなら喜んで食べると思います。そこで人工肉を受け入れるのです。他にも、人工肉であれば、宗教上の理由から豚を食べないユダヤ教徒でも食べられますよね。

バイオテックのスタートアップは、他にチーズも作っています。例えば、乳糖やコレステロールの入っていないモッツァレラチーズなどです。味はまるで同じですが、牛から直接作ったものではないのです。

アジアでは乳糖アレルギーの人も多いですが、乳糖やコレステロールを含まないどんなチーズも作れて、味は同じなのです。これは大きく成長する予感がします。こうした手法はバイオテックの応用です。

私が訪れた企業には醸造タンクのような装置があって、まるでマイクロブルワリー(小規模醸造所)のようでした。醸造と同じようなテクノロジーを使っており、ブルワリーと同じような機械が揃っています。ですからこうした企業はかなり大きく成長すると思います。

新しいバイオテックにより、いままでと違う種類の肉を作れたり、栄養価の高い食品ができたり、味も良くなったり、個人の好みに合わせることもできるなど、新しい価値が加わります。

デジタルで起きたように、バイオテックでも速度が上がり、選択しやすくなり、種類が増え、個人に合わせられる、という変化が起きます。これがX-バイオロジーです。