人生100年時代、セカンドキャリアに向けて資格でも取りたいけれど、若い頃と比べて記憶力も衰えてきたし、勉強に身が入らない――そんな悩みを抱えている40代・50代のビジネスパーソンは多い。しかし、脳科学者の西剛志氏によると、実は記憶力そのものは年齢を重ねても低下しないという。

※本稿は、『THE21』2023年1月号特集「40代・50代から衰える脳 伸びる脳」より、内容を一部抜粋・編集したものです。


“記憶力”と“集中力”の密接な関係

意外に思われる方も多いかもしれませんが、実は脳科学の研究では、記憶力そのものは歳を重ねてもたいして低下しないとされています。

これは、アメリカのタフツ大学の研究グループが、18歳〜22歳の若者と、60歳〜74歳の年配者を集めて行なった実験です。

実験の内容は、(1)リストに書かれた単語を記憶してもらい、(2)別の単語リストを見せて、先に見た単語リストにあった単語を尋ねる、というものでした。

すると、興味深い結果が出ました。「これはただの心理学実験です」と伝えてからテストを行なった際には、若者グループと年配者グループの正答率はどちらもほぼ50%と差はありませんでした。

ところが、「これは記憶力のテストです。通常年配の方の成績が悪くなります」と伝えてからテストを行なったところ、年配者グループのみ、正答率が約30%と大幅に下がってしまったのです。

この実験結果から、「歳を重ねれば記憶力が落ちる」というのは、思い込みであると言えます。「若い頃と比べて、物覚えが悪くなった」と感じる人が多いのは、実は記憶力ではなく、学習意欲や集中力が衰えているからなのです。

集中力は43歳でピークを迎え、それ以降は落ちていくことがわかっています。記憶力は情報をインプットするときの意欲や集中力と密接に関係しているので、意欲や集中力が低下すると、記憶力も自ずと低下することになります。

つまり、40代、50代の人たちが何かを学ぶ際には、意欲や集中力を高めることが必要不可欠なのです。

意欲・集中力から記憶力を高めるために大切なのが、学習内容を自分の目標やなりたい姿と関連づけること。脳は、自分に関係のあることを覚えようとする性質があります。

逆に、「やらされ感」「他人事感」の強いことだと、脳はなかなか覚えようとしません。会社から資格取得を命じられたけれど勉強に身が入らない、という経験をしたことがある人もいるでしょう。

そういうときは、「この資格を取ったら会社を辞めても起業できるかもしれない」「ここで知識を得ておけば、人から信用されやすくなるかもしれない」などと、自分のキャリアへの影響を考えて取り組むと、学習効率が高まるはずです。



動き回る人ほど集中力が高い

とはいえ、どうしても「やらされ感」が拭えないなど、勉強に集中できないときもありますよね。そんなときに効果的な、しかもとても簡単な方法があります。

机に向かってもいまいち勉強に身が入らない、あるいは集中力が切れてきた。そんなときは、場所を移動してみましょう。

脳の中には「場所細胞」という、場所や空間を把握しようとする細胞があります。場所細胞は、今いる場所から違う場所に移動しただけで活性化し、それにつられるようにして脳全体も活性化するのです。

アメリカのミシガン大学の研究グループが記憶の定着率を調査した実験では、ずっと同じ場所で単語の暗記に取り組んだグループと、途中で場所を変えて取り組んだグループでは、後者が覚えた単語の平均個数が前者の約1.5倍になったという結果が報告されています。

私は、脳科学の見地から、仕事や学習がうまくいく人とうまくいかない人の研究を調査しているのですが、うまくいっている人ほど、よく移動しています。

仕事や勉強に行き詰まったら、会社のデスクを離れてカフェやシェアオフィスに移動したり、コーヒーを淹れるために席を立ったり、同僚が集まる場所に行っておしゃべりをしてみたり。一見遊んでいるように見えますが、実はその行為が、脳の活性化に一役買っているのです。

最近ではオフィス内に個人の固定席を設けずに、好きな場所でパソコンを開いて仕事をする「フリーアドレス」を導入している会社も増えていますが、脳科学的には、この働き方はお勧めと言えます。

自宅で仕事や勉強をするときも、集中力が切れてきたら、書斎、リビング、寝室などに移動してみてください。トイレや階段の踊り場など、意外な場所で学習すると記憶に定着しやすいという人もいます。

部屋数が少なくて移動が難しいときは、デスクの位置を数センチずらしたり、角度を変えたり、座る向きを変えたりするだけでも、見える風景が変わって場所細胞が活性化されます。部屋の片づけや模様替えも効果絶大です。


「30分で強制終了」が脳のやる気を高める 

学びたい意欲はあるのに忙しくてまとまった時間が取れない……。これは、仕事も責任も増える40代、50代のビジネスパーソンが抱える大きな悩みだと思います。

しかし、実は勉強にまとまった時間は必要ありません。集中力は、学習時間が長くなればなるほど低下していき、効率も悪くなっていきます。

「長時間学習を続けられる=集中力がある」というのは思い込みです。5分、10分、15分といった短い時間を見つけてはこまめに勉強をしたほうが、脳は学んだことをしっかりと記憶してくれます。

脳は、インプットした情報のうち、最初と最後にインプットした情報を強く記憶します。これを、「初頭効果」「終末効果」と呼びます。

休憩なしで2時間勉強をした場合、最初の15分と、最後の15分でインプットしたことは記憶に残りやすいのですが、その間の記憶はほとんど残りません。せっかく2時間勉強しても、1時間半分の学習内容は、ほとんど記憶に定着していないのです。

初頭効果、終末効果は、時間の使い方を工夫することでうまく使えます。

例えば、勉強時間を2時間確保できそうなら、30分×4回に分けて取り組みましょう。30分で区切ると、初頭効果が持続する15分と、終末効果が持続する15分ですべての時間が構成されるので、記憶の定着率が高まります。

さらにこのとき、タイマーを使って、30分経ったらどんなにのっていたとしても勉強をいったん切り上げるようにしてみてください。勉強を続けたいのに途中でやめざるを得なくなると、脳は勉強がしたくてたまらなくなり、かえってやる気が持続するからです。

これを「ツァイガルニク効果」と言います。テレビ番組の途中にCMが入ると、続きが気になって仕方なくなりますよね。あの効果を学習にも利用するのです。

30分経って勉強を途中でやめたら、5分間程度、好きなことをして過ごしましょう。動画を見たり、気になる情報を検索したり、本を読んだり、軽食をとったり。

たった5分でも好きなことをすると、脳はドーパミンというやる気ホルモンを出します。そのドーパミンが出てきたところで、次の30分の学習時間に入ると、意欲が持続します。

気分がのっているときは、30分でアラームが鳴っても続けたくなるものですが、学習時間が長引くと、気がつかないうちに記憶力は低下し、意欲も薄れていきます。やる気がピークに達したときにあえてやめるのが絶対にお勧めです。