昇給・賞与がない欧米型労働の方が良い?「忙しい毎日」を生み出し続ける日本型の仕組み
PHPオンライン5/14(水)12:00

海老原嗣生氏は『静かな退職という働き方』にて、「忙しい毎日」を作り出した日本型労働の強固な仕組みについて解説している。
二重の意味で日本の残業代は安い
残業をすると、定時内で働く場合よりも、高い賃金をもらえます。この仕組みは、大恐慌時代(1930年代)のアメリカで生まれ、同国の公正労働基準法に規定されたことに始まります。
この時、制度導入の主旨として掲げられたのが、「雇用機会の増加、失業者の抑制」。残業させても定時と同じ賃金であれば、企業は多くの人を雇わず、少数の人に長時間労働をさせるでしょう。
対して、残業時の賃金が法的に高く設定されれば、企業は1人に残業させず、より多くの人を雇うようになります。それが、法制定の主旨だったわけです。そのため、多くの国では、残業代が法律や労使協定により、40〜50%程度に設定されています。
日本はそれが25%と低率であり、しかも、その少ない割り増し賃金さえ払わずサービス残業をさせる企業が多かったから、労働時間が少しも減りませんでした。
近年、ブラック企業という言葉が広まり、こうした風潮に対して世論が厳しくなりました。その煽りも受けて2019年には約70年ぶりに労働基準法が大幅改正され、長時間残業やサービス残業を取り締まる機運が高まりました。
ただ、日本にはもう一つ、残業を促す仕組みがあるのです。それが、前述した賞与制度――。
日本の場合、欧米に比べてヒラ社員でも賞与が多いと書きました。とすると、欧米と日本で同じ年収だった場合でも、賞与を除いた月給部分は、日本がかなり低く抑えられるのです。
残業時の賃金は、この低く設定された月給をもとに割り増しを行うため、欧米に比べてその額が抑制される。だから日本では、企業があまり残業を抑える気にならないともいわれるのです。
日本型の強固なシステムは、長年その外壁さえも揺るがなかった
いかがでしょう。日本型労働とは至る所に仕掛けを施した、水をも漏らさぬシステムなのだと、改めて認識いただけましたか?
そのうちの、ほんの小さな一部分を論って、「ここさえ直せば、一気に綻ぶ」というような話がよくなされます。
たとえば、退職金の優遇税制を廃止すれば長期勤続は少なくなるとか、残業割り増し率を引き上げれば...、配偶者控除を無くせば...といった話は枚挙にいとまがありません。
訳知り顔の識者がこうした一点突破型の政策を提言するのですが、それでは日本型労働の強固なシステムの外壁さえも揺るがないというのが、つい最近までの現実でしょう。
実は、こんな「忙しい毎日」についていけないという声は、古くからそれなりにあったのです。
今のように「過半数」とまではいきませんが、たとえば日本生産性本部が毎年行っている新社会人向けアンケートで、「役職に就きたくない」「役職などどうでもいい」という人の割合は、1985年で25%、1995年でも22%です。
さらに「係長まで」「主任・班長まで」を加えて非管理職に留まる志向を持つ人は1985年で33%、1995年は30%となります。今から30〜40年前でも、この数字です。
ところが就職後の現実は、日本型労働のコンベアに載って唯々諾々と働かざるを得ませんでした。結果、この精密なシステムに牛耳られ、結局、「忙しい毎日」を是とする大人になっていったのです。
ところが、昨今では本当にプライベートを重視して仕事を抑える「静かな退職者」が増えてきました。そして、かつてなら「甘い」と叱責された「静かな退職」志向者が、現在は少しずつ市民権を得ています。
振り返れば、2010年前後でさえ、緩い働き方を志向する若者はダウンシフターなどと揶揄されていました。ところが現在の「静かな退職者」という言葉には、そこまでのマイナスが感じられません。
どうしてこんな変化が起きたのか。鉄壁だった日本型労働の防御網は、どこからどう崩れたのでしょう。
次回それを解き明かすことにします。
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