<<「世界一清潔な空港」として国際的な格付けランキングで4年連続1位に輝く羽田空港。その立役者と言えるのが新津春子さん。1997年に(当時)最年少で全国ビルクリーニング技能競技会一位に輝き、清掃の指導者としても活躍。

しかし、その人生は決して順風満帆なものではなく、中国残留日本人孤児二世として生まれ、中国でも日本でもいじめに苦しんだ。そして、言葉がわからなくてもできるという理由で清掃の仕事を始めて以来、今日まで清掃の仕事を続けている。

そんな苦難を乗り越え日本一の清掃職人になるまでを語った新津さんの著書『清掃はやさしさ』より、清掃において最も大切にしていることに触れた一節をここで紹介する。>>

※本記事は、新津春子著『清掃はやさしさ』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。


空港はおもてなしの場

皆さんは、羽田空港の屋上に出たことがありますか。

私は、「ストレスがたまっているな」「ちょっと疲れたな」と感じたとき、いつも屋上にやって来ます。空港でいちばん気持ちのいい大好きな場所だからです。

海や港まで見渡せる、見晴らしのよさ。どこまでも広がる、大きな空。
思わず、深呼吸したくなる、すがすがしさにあふれています。

そして、飛行機!

たくさんの人を乗せて、滑走路から飛び立つ姿をながめていると、いま自分が悩んでいることがちっぽけに思え、疲れが吹き飛んでしまうのです。
この羽田空港で働いていることに、誇りを感じずにはいられません。

私は25歳の時から20年以上、羽田空港の清掃員として働いてきました。その前も含めると約30年以上、「清掃」という仕事にかかわっています。

オフィスでも、商業施設でも、清掃はなくてはならないものです。

ふだんは気づかないかもしれませんが、皆さんが働いたり、遊びに行ったりする場所には、ゴミを捨て、床や窓を磨き、洗面所やトイレをきれいにしている人たちが必ずいます。地味で陽の当たらない仕事ですが、快適な毎日に欠かせないのが清掃という仕事です。

空港は、国内外のお客さまをお出迎えする場所です。

飛行機の中ではキャビンアテンダントの皆さんが、食事やドリンク、雑誌やブランケットなどを用意して、お客さまに少しでも心地よく過ごしていただこうと心をくだいています。

清掃員である私たちは、飛行機を利用する方、お見送りやお出迎えの皆さまが空港を気持ちよく利用していただくために働いています。
ビジネスにしろ、観光にしろ、清潔感のない空港ではお客様は不愉快な気分になります。旅の時間は、空港からすでにはじまっているのです。

羽田空港のエントランスに、次のような言葉をしるしたモニュメントがあるのをご存じでしょうか。

訪れる人に安らぎを、去り行く人にしあわせを
(PAX INTRANTIBVS SALVS EXEVNTIBVS)

これは、「中世の宝石箱」と呼ばれるドイツの街、ローテンブルグを囲む城門、シュピタール門に刻まれているもので、私が所属する日本空港ビルグループの理念を象徴する言葉になっています。

このモニュメントを見ると、思わず背筋を伸ばしたくなります。清掃に向き合う気持ちをあらためて思い出します。


清掃と掃除はまったく違うもの

清掃と掃除、似ている言葉です。そのため、同じような意味で使っている方も多いのではないでしょうか。

しかし、私は清掃と掃除はまったく違うものと考えています。

たとえば、家のなかをきれいにする作業は「掃除」です。年末などに大「掃除」と言いますが、大清掃とはなぜか言いません。また、「清掃」員は掃除員とは言いませんし、業界の呼び方も、「清掃」業界であり、掃除業界とは言わないものです。

違いに気づいていなくても、多くの人は清掃と掃除を知らないうちに使い分けています。

では、2つの違いはなんでしょうか。私は、

掃除……自分や家族、会社の仲間などのために行う無償の作業
清掃……技術や知識をもつプロが、お金をいただいて行う作業

だと考えています。

私にとって、掃除は「家事」ですが、清掃は「仕事」です。掃除は自分や家族が満足すればOKなのに対して、清掃は「品質」が要求されます。

さまざまな道具や機械、洗剤などを使い分け、すみずみに気を配り、清潔な環境を維持するのが清掃員の仕事です。

そのため、掃除にくらべて、ワンランク上の仕上がりにしなければなりません。おもてなしの心でお客さまの視点に立って作業すること。これが「清掃」です。

私は、「清掃員」である以上、プロの仕事をしなければならないと思っています。