ダイエット外来医として肥満に悩む多くの人々と接し続けてきた医師の工藤孝文氏は、我慢をするだけではダイエットはかえって失敗してしまうと指摘する。

工藤医師が実際に患者さんに行っている「行動療法」を記した同氏の新著『身体ミニマリスト』より、ダイエットを失敗させる「ニセ食欲」の正体について言及した一節を紹介する。

※本稿は工藤孝文著『身体ミニマリスト 空腹感の近くで暮らす』(インプレス刊)より一部抜粋・編集したものです。


身体に必要ないのに食欲が抑えられない理由

炭水化物抜き、糖質制限、置き換え、プチ断食など、巷では様々なダイエット法が登場しています。

しかし、いっとき体重を落とすことができても、一生続けることができないのであれば、有効なダイエット法とは言えません。

本当の意味でのダイエットの成功とは、一時的な減量ではなく、その後の"継続"こそが鍵になるからです。

ところが多くのダイエット法は「食べたいものを我慢する」という前提の上に成り立っています。「ダイエット=我慢」が一般常識になっているのです。

しかし一度でも体験した方は理解できると思いますが、一生我慢を続けることは非常に難しいのです。

リバウンドを繰り返してしまう原因はここにあります。

過食を引き起こしているのは、脳内ホルモンの乱れです。

人間の脳はストレスを感じると、甘いものを欲します。これは糖質が、脳内で幸福ホルモンと呼ばれる「セロトニン」の分泌を増やしてくれるためです。

さらにストレスは、過食ホルモンも分泌させて食欲を増進させます。

こうして生まれた食欲は、すべて本来体に必要のない「ニセの食欲」です。

ダイエットのために強い我慢を強いれば、ストレスが増えてニセの食欲が増大し、痩せるどころか食欲は増すばかり。つらいだけで、すぐに限界が来ることは目に見えています。

我慢はダイエットの味方ではなく、むしろ天敵なのです。

ではどうしたらいいのか?というところは後ほど説明していきますが、まずは「ダイエット=我慢」は間違った知識であると理解してください。

また、ダイエットでは「飽き」にも注意が必要です。

たとえば、カカオ含有量70%以上のハイカカオチョコレートは、ダイエットに最適な食材のひとつであるとよく耳にしますよね。

でも、ミルクチョコレートが大好きな人が、妥協してハイカカオチョコレートを食べても、結局は満たされません。まったく食べないよりはいいと思いますが、続けているうちに「飽き」が訪れて、長続きしないのです。

また、りんごダイエットやプロテインダイエットなど、特定の食品をたくさん食べるダイエットも当然飽きがきます。置き換えダイエットなども、1〜2食置き換えるだけとはいえ、やがて飽きてしまい、そのダイエット法は続けられなくなります。

つまり飽きないため、続けるためには、そもそも食べたいものを食べた方がいいのです。これについても後ほど詳しく解説していきます。


運動をしなくても体型をキープできる人の原動力

私のダイエット外来では、毎日測定した体重を折れ線グラフにして記録してもらっています。するとグラフの形は必ずギザギザになります。下がって少し上がってまた下がる、という動きが繰り返されるのです。

減量中はこうした小さなリバウンドが必ず起こるため、思い通りに行かないと感じて挫折してしまう人も多くいます。

しかし、一直線にどんどん体重が落ちていくということはあり得ませんので、まずそこを認識してください。

そして目標体重に到達できたとしても、長い目で見れば多少のリバウンドは必ず起こります。

人が生活していく中で、仕事での難題や人間関係の悩み、家族の心配事など、自分ではコントロールできないストレスや変化が必ず生じます。状況は常に移り変わっているので、今はよい状態で体重を維持できていたとしても、明日急に大きなストレスが襲ってきて、メンタルが一気に崩れてしまうかもしれません。

会社の飲み会や年末年始の家族会など、意志に反してつい食べすぎてしまう機会が訪れることもあるでしょう。

女性であれば、月経など体調による過食のリスクも避けられません。

それに私たちの基礎代謝は加齢とともに日々低下し続けていて、同じ食生活を続けているだけでも太っていくのです。

こうした条件の中で、すべてを完璧にコントロールして、その都度過食を抑えこむのは非常に難しいことです。

つまり減量に成功しても、生活していればまた体重が増えるのは当然のこと。多少のリバウンドは基本的に起こるものだと思ってください。

それなのに、失敗(リバウンド)のたびに自分を責めて、強いストレスを感じていたら、さらなる悪循環に陥ってしまいます。「長い人生、体重が増えることもある。そしたらまた落とせばいい」ぐらいに考えて、あらかじめ想定しておくことでストレスを感じにくくなります。

ダイエットは、成功と失敗を繰り返しながら「3歩進んで2歩下がるのが常」ということをしっかり覚えておいてください。

こうした考え方を持つことは、「ダイエット力」を身につけることにつながります。

スリムな体型をキープしている人は、たとえ体重が増えても、その都度動揺せずに身体を戻すことができる、ダイエット力が高い人なのです。


我慢よりも食行動の見直しを

過食は、脳内ホルモンの乱れによって引き起こされる「ニセの食欲」がおもな原因とお話ししました。

脳はストレスを感じると、幸福ホルモンである「セロトニン」の分泌を増やす糖質を欲します。ストレスは交感神経を活発にするので、副交感神経優位に戻すために、食べて胃腸の働きを活発にしたいという欲求が生まれるのです。

つまり痩せられない人は、脳内ホルモンが常に乱れている状態=心の問題を抱えている可能性が非常に高いのです。

ですからダイエットをはじめる前にまず、自分が抱えている問題を分析する必要があります。

ここで有効なのが、「行動療法」です。

厚生労働省のガイドラインでは、肥満症の治療として、食事療法、運動療法、行動療法という3つ治療方針が定められています。

このうち食事療法と運動療法は、一般的なダイエット法として広く知られています。みなさんがよく実施されているダイエットも、食事療法か運動療法、どちらも同時に行っていることも多いかもしれません。しかし、3つ目の行動療法を知る人は少ないのではないでしょうか。

行動療法とは、自分の食行動を見直すことです。

具体的には、まず体重や食事などを毎日記録してグラフ化し、ライフスタイルや食生活を客観的に把握・分析します。そして「食べ過ぎてしまうのはなぜか?」「どう対処すればよいのか?」というニセの食欲が起こる原因を探ります。

たとえば、「食べてないのに痩せない」と思っている患者さんに記録をつけてもらうと、自分が思っている以上に食べていたことが判明し、実行動と、自己認識がずれていたことに気づきます。

また、「会議がある月曜の前の晩は、ストレスでドカ食いしていた」「机の上にお菓子があると無意識に食べてしまう」などの食べ方のクセも見えてきます。

行動療法では、こうした「認識のズレ」や「食べ方のクセ」を把握することがポイントになります。

自分の食行動を知ると、ライフスタイルの中でどういう時に注意すべきかが見えてきます。「日曜の夜は食べ過ぎる傾向があるから、月曜の食事は軽めに済ませよう」とか、「机の上にお菓子があると無意識に手が伸びてしまうから、お菓子は机に置かない」など、対策をとれるのです。

こうして自分自身の食行動を客観的に把握して正しい対処をしていくことで、ダイエットは一気に成功へ近づきます。