孤独はずっとは続かない

孤独には二通りの場面があるのではないかと思います。一つ目は、まさに物理的に一人でいる時。もう一つは、誰かと一緒にいる中で襲ってくる孤独です。

いちばん分かりやすいのは、たとえば言葉の通じない外国に一人でいると、そこには孤独感が生まれるでしょう。誰も知り合いがいないという状態です。コミュニケーションを取りたくても言葉が分からない。その国の生活習慣も分からない状態であれば、どのように行動すればいいかも分かりません。そこにはたくさんの人がいるのにもかかわらず、自分だけが異質なもののように感じてしまうことでしょう。

海外でのこのような経験はまだしも、同じ日本人の中で起きてしまうとなればどうでしょう。同じ会社で働いていても、自分だけが浮いた存在になっているように感じる。あるいは、たくさんの友達がそこにいても、誰も自分に目を向けてくれない。他者の中に身を置くことで生まれる孤独。これがいちばん苦しいものではないかと思います。

集団の中から生まれる孤独感。その最たるものがいじめでしょう。小学校や中学校でいじめに悩んでいる子供たちはたくさんいます。これは大人の社会でも同じことではないでしょうか。

いじめの問題は子供の世界だけではありません。大人となった社会人の中でもいじめは進行していると言えましょう。しかし、やはりいじめによって孤独を生み出しては絶対にいけないのです。ある精神科医は、小学生でいじめを受けている生徒に向かって、このような話をするそうです。

「今、君は○○小学校という電車に乗っているんだよ。でもね、その電車は各駅停車なんだ。4年生になれば、電車の中の友達の半分くらいは別の電車に乗り換えていく。5年生の駅に着けば、今度は君が別の電車に乗り換えるかもしれない。そしてその次は、君が行きたいと思う中学という駅に向かえばいい。今、同じ電車に乗っている友達のほとんどは、終点まで一緒じゃないよ」というものです。

これはとても分かりやすい話だと思います。いじめや人間関係で苦しんでいる人たちはたくさんいるでしょう。そしてそのほとんどの人は、今の人間関係が永遠に続くと誤解をしています。

自分のことをいじめる友達と一生付き合わなくてはいけない。自分と合わない同僚や友人が、自分の目の前から消えることはないと思い込んでしまうのです。それはまったく違います。いつでも電車を降りても構いません。次の駅で下車し、別の電車に乗り換えてもいいのです。


嫌な相手から逃れられない時の対処法

人間関係とは、移り変わっていくものなのです。付き合う人間が変わることもあるでしょうし、同じ相手でも互いに変化することもあります。良い人間関係も、そして悪い人間関係も、永遠には続くことはないでしょう。一つの人間関係だけに閉じ込められることなどないのです。まずは自分の心を解き放つことです。

嫌な相手の存在があるのだとしたら、そんな相手からは目を背けていればいいのです。最低限の会話だけで済ませればいいのではないでしょうか。放っておいても、その人間はいずれあなたの前から姿を消すことになるでしょう。

それでも、次の駅まで待てない。せっかく次の駅に着いたのにもかかわらず、嫌な人間は降りてはくれなかった。またしばらく同じ電車に乗らなくてはならない。まいったなと。そう思うのでしたら、少し視点を変えてみてはいかがでしょう。

どうせ同じ電車に乗っているのであれば、少しだけその関係を変えてみる努力をしてみてください。ここで大事なことは、相手をあなたの思うように変えることはできないということです。

関係性を変えたいと思うのであれば、まずはあなた自身を変えることです。いじめっ子に対して、いじめっ子でなくなることを望むのは無理なことです。そうであるならば、自分自身がいじめられないように変わっていくしかありません。

他人に対して期待するのは所詮無理なことです。期待すべきは自分自身なのです。もっと自分に期待してください。どうせ自分なんてと思わずに、自分を変える努力をしてください。その力は誰にでも備わっています。すべての人間は、自分の意思で変わることができるのではないでしょうか。その強さが人間には備わっているのです。

【枡野俊明(ますの・しゅんみょう)】
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授

1953年神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。「禅の庭」の創作活動により、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。2006年には『ニューズウィーク』日本版にて、「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。庭園デザイナーとしての主な作品に、カナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル日本庭園など。