ABA(応用行動分析学)とは、行動の原因を「個人の心の中」ではなく、「個人と環境との関わり」から分析し解決していく心理学です。この考えを取り入れることで、お子さんのよい行動を引き出し、増やす、よい循環が自然と生まれます。

本記事では、発達障害の特徴の1つである「負けると癇癪を起こす子」への接し方を紹介します。

※本稿は、熊仁美、竹内弓乃著『「できる」が増える!「困った行動」が減る! 発達障害の子への言葉かけ事典』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

熊仁美
特定非営利活動法人ADDS共同代表/博士(心理学)/公認心理師/日本女子大学講師/慶應義塾大学非常勤講師/法政大学兼任講師ほか
慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了、博士(心理学)。2009年ADDSを設立。保護者支援や発達支援プログラムの開発と効果検証を行う。近年は、国立研究開発法人科学技術振興機構採択の研究プロジェクト代表者として、ABAに基づく早期発達支援の社会実装や科学技術の活用研究に取り組むなど、精力的に活動している。

竹内弓乃
特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師
慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了、横浜国立大学大学院学校教育臨床専攻臨床心理学コース修士課程修了。2009年ADDS設立。親子向け療育プログラムや支援者研修プログラム、事業者向けカリキュラム構成システムの開発などに携わる。国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発事業(JST-RISTEX)「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」プログラムアドバイザー。NHK「でこぼこポン!」番組委員。


負けるのが苦手で、癇癪を起こす

「うちの子、勝ちへのこだわりが強くて......」「なんでも1番じゃないとパニックを起こすんです」

こういった悩みをもつ親御さんは多いと思います。「負けず嫌い」は、決して悪いことではありませんが、度を越してしまうと、周囲が困るだけでなく、本人の生きづらさや社会参加の機会が減ってしまうことにもつながります。

これにはいくつかの理由が考えられます。

1つ目は、「負け」と嫌なことはセットになりやすいことです。

たとえば、最後の1つのお菓子をかけてじゃんけんし、負けたらもらえなかった......とか、赤チームがよかったのに負けたら黄色チームになってしまった......など、基本的には「負け」は嫌なこととのセットです。

負けた後に癇癪やパニックを起こすことで、そういった「嫌な出来事」を回避していることがあります。また、時折、癇癪を起こしたら勝たせてもらえた、という経験をしている可能性もありますね。

もう1つは、ルールが固定化して、「こだわり」のようになってしまうことです。そもそも「勝ったり負けたりする」という見通しが立ちにくい状況は、発達障害の特性があるお子さんは苦手なことが多いです。

加えて、生活のいろいろな場面で「勝つ」ことはよいこと、素晴らしいこと、という価値観を学ぶ機会が、たくさんあります。それらが積み重なって、こだわりのようになってしまうことがあります。

以下に、「負け」に関する行動の分析をしていきましょう。