脳科学者の茂木健一郎さんは著書『5歳までにやっておきたい 本当にかしこい脳の育て方』の中で、「子どもの『やりたい』を決して邪魔しないのが親の務め」と主張します。部屋を散らかしたり、物を投げたり...ついつい、注意したくなる子どもの行動も、実は脳の成長にとっては重要なのです。

これからの時代を生き抜くための「脳の土台」を作るために、親はどのように子どもをサポートすれば良いのでしょうか? 同書の中から少し、ご紹介いたします。

※本稿は日本実業出版社WEBサイトに掲載されたものを一部編集したものです。

【筆者紹介】茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年東京生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。脳科学者。


子どもの「安全基地」になってあげよう

子どもは、親の膝に座り体に寄りかかって絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりしたがります。これは、親に体を預けることで心を安定させる行動で、「安全基地」と呼ばれる子どもの愛着行動のひとつだそうです。

「安全基地」はアメリカの発達心理学者であるメアリー・エインスワースなどが提唱する概念で、子どもは親との関係によって育まれる「心の安全基地」の存在があってはじめて、外の知らない世界を探索できるというもの。

子どもにとって、心のよりどころは親そのものです。親という、困ったときにいつでも帰ることができる「安全基地」があるから、子どもは外の世界のいろいろなことに興味を持ち、夢中になれるんですね。

茂木さんによれば、認知科学の実験で乳幼児を観察するとき、お母さんの膝の上に乗って何かをしているときの子どもの脳がもっとも活発に働くそうです。いそがしい毎日ですが、できるだけ「基地」を提供してあげたいものです。


脳の成長のためには家は散らかってもいい?

本棚の本を全部出して積み木のように重ねたり、ティッシュペーパーを次々と引っ張り出したり。親からすると「もう散らかさないで!」と言いたくなる子どもの行動ですが、これらは、自分が置かれた環境を探索しようとする意味のある行動です。

「アフォーダンス」という言葉を聞いたことはありますか? これはアメリカの知覚心理学者、ジェームス・J・ギブソンによる造語で、与えられた環境のさまざまな要素から人間の新しい行動や感情が生まれる、物と人との関係性を意味しています。

赤ちゃんの行動で言えば、手に取ったものはなんでも口に入れるという行動もアフォーダンスの一種です。また、歩きはじめたばかりの子どもが椅子やテーブルによじ登ろうとするのも、椅子やテーブルの形や環境にアフォーダンスを感じているからです。

「引っ張り出せる」「口に入れられる」「よじ登れる」。子どもは置かれた環境でこれらの可能性を感じて、試しているんですね。これはまさしく、脳がぐんぐん発達している瞬間なのです。

子どもの危なっかしい行動にはいつもヒヤヒヤさせられます。でもそれが脳の発達に必要なことなら、「危ないからやめなさい!」「汚いからだめ!」と叱ることも我慢できそうです。ティッシュペーパーをひと箱全部まき散らかしても、「いま、この子の脳はすごく成長しているんだ」と考えればイライラしなくなる、かもしれません(?)。