近年、SNSなどを通じて急激に注目を集める“バズり”現象によって、音楽チャートのトップに躍り出るミュージシャンが相次いでいる。昨年のJ-POPシーンを振り返ってみると、日本レコード大賞の優秀作品賞を受賞したシンガーソングライター・瑛人がその象徴的な存在だと言えるだろう。

 瑛人は2019年4月にオリジナル曲「香水」を配信限定シングルとして発表。それから約1年が経過してからTikTokをはじめとしたSNSでバズりはじめて一気にブレイク。楽曲タイトルが2020年の新語・流行語大賞にノミネートされたほか、年末にはNHK紅白歌合戦にも出演した。

 ビルボードジャパンが発表した2020年の総合ソングチャート「HOT 100」で第1位に輝いた音楽ユニット・YOASOBIも象徴的な存在だと言える。TikTokやYouTubeといったSNSで人気を集めたYOASOBIは、CDをリリースすることなく年間総合首位を獲得するに至ったのである。

 同チャートには他にもyama「春を告げる」やヨルシカ「ただ君に晴れ」、ずっと真夜中でいいのに。「秒針を噛む」、DISH//「猫」など、インターネットを通じて話題になった楽曲が多数ランクインしている。

 J-POPの音楽チャートといえば、一昔前はAKB48と嵐の二大アイドル・グループが上位を席巻するのが常態化していた。実際にビルボードジャパンの「HOT 100」を遡ってみると、国内の集計がスタートした2008年から2016年にかけてはトップ10に必ずAKB48または嵐が複数の楽曲でランクインしている。ここ数年でシーンの様相がガラリと変化したのだ。

 もちろん、近年の上位には米津玄師や星野源、あいみょん 、King Gnuといったアーティストもランクインしており、必ずしもSNSでバズった音楽だけが全てというわけではない。とはいえSNSをめぐる状況はチャートの顔ぶれが変化した大きな要因の一つであると指摘することはできそうだ。

SNSで“バズった”ミュージシャンの本音

 その傾向は2021年も変わらない。2月11日、現役高校生2人組によるニューウェーブ/テクノ・バンドLAUSBUB(ラウスバブ)が、世界的に人気のK-POPアイドル・グループBTSを抑えて音楽共有サービスSoundCloudの週間チャートのトップの座に輝いたことが話題を呼んだ。

 LAUSBUBは昨年末、SoundCloudでオリジナル曲「Telefon」を公開。知る人ぞ知る存在だったが、今年1月にSNSで「すごく良いバンド」と噂が広まると一気に人気に火がつき、現在ではバンド・メンバーだけでは対応しきれないほど仕事のオファーが殺到しているという。

 SNSを通じて急激に脚光を浴びてしまうことについて、ミュージシャン側はどのように受け止めているのだろうか。

 TikTokを中心に活動し、昨年6月に公開された楽曲「ポケットからきゅんです!」がわずか1ヶ月で数億回の再生と瞬く間にブレイクしたシンガーソングライター・ひらめは、バズることのメリットについて次のように語る。

「SNSでバズって良かったことは、1番大きいのは自分を知ってくれる人が増えたことです。“ファン”という存在が自分にもできて、その方たちのおかげで、これからもっと頑張ろうって気持ちになります」

 また、2018年に発表した楽曲「魔法の絨毯」が昨年8月になってTikTokでブレイクし、今年1月には人気音楽番組『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)への出演も果たしたシンガーソングライターの川崎鷹也はこう語る。

「コロナが流行する前は、毎月3〜4本ぐらいライブをやってきたんですけど、それがぴたりとなくなってしまい、不安でしかなかったです。

 ただ、僕自身『ステージがすべて』『ライブがすべて』とは思っているのですが、活動を始める原点にもなったTikTokやYouTubeなど、よく考えるとコロナ禍でも活動するためのプラットフォームや方法はきちんとあるなぁと思いました。そのプラットフォームを利用する事で、結果多くの方々に僕の歌を届けられる事が出来て良かったです」

 一方、バズることの不安点もやはりあるようだ。前出・ひらめは「ポケットからきゅんです!」がバズったことでプレッシャーを感じてしまったという。

「また、バズりたいと思う謎のプレッシャー……。前よりいいものを作らないとって勝手に焦ってしまいます。でも、バズるために曲を作るのではなく、自分がみんなに聞いてほしいと思う曲を届けられる様に、これからも頑張ります」(ひらめ)

 前出の川崎鷹也はリスナーがライブに来なくなってしまうのでは、と不安をこう語る。

「現在無料で音楽を聴ける事があたり前になり、僕は『ステージがすべて』『ライブがすべて』と思っているので、SNSで聴いて頂いている方々がライブに足を運んで頂けるか不安な部分はあります。僕のライブでなかったとしても、是非一度ライブというものに足を運んで頂き、体全体で音を感じて頂きたいですね。必ずライブならではの魅力を感じて頂けるはずです」

 前述したLAUSBUBの岩井莉子は、2月17日のツイートで〈今までほとんど誰にも評価されなかったのに急に大人が数百人単位で押し寄せて来たら普通全員信じられなくないスか…頼るに頼れん〉と率直な心境を語っている。

 SNSがインフラとして整備されることで音楽シーンも変化し、才能をより発揮しやすい時代が到来したと言うことはできる。一方で、バズることがミュージシャンに様々な不安をもたらしている点も見落としてはならないだろう。こうしたSNSの負の側面ともしっかりと向き合っていくことが、これからの時代、ミュージシャンとリスナーの双方にとってよりよく音楽を楽しむために必要なことになってくるのではないか。

◆取材・文/細田成嗣(HEW)