現在放送中の中村倫也(34才)主演のドラマ『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)。放送時間が深夜帯でありながらも評判は上々で、中村演じる主人公の名前「青山さん」がTwitterのトレンド入りするなど話題を集めている。SNSには、「番組が始まってからよく眠れるようになった」「青山の柔らかい雰囲気と甘くて優しい声色に癒やされる」といった声が溢れ、多くの視聴者が“癒やし”を感じているようだ。その理由について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。

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 放送開始早々、ネットを中心に話題を呼んでいるドラマ『珈琲いかがでしょう』。本作は、中村扮する珈琲屋の店主・青山が、さまざまな悩みや問題を抱える人々に極上の一杯を提供し、癒しを与えるというもの。その一方で、青山には過去かなりの“ワル”だったというギャップがあり、一つのドラマ内で、いくつもの中村の表情を堪能できる作品となっている。

 本作は、2019年にドラマ化された『凪のお暇』(秋田書店)で知られるコナリミサトによる同名漫画を実写化したもの。テレビ東京系列が新たに展開する連続ドラマ枠「ドラマプレミア23」の第1弾で、映画『かもめ食堂』(2006年)や『彼らが本気で編むときは、』(2017年)などの荻上直子(49才)が脚本を担当し、彼女のほか、『聖の青春』(2016年)の森義隆(42才)、『ケンとカズ』(2016年)の小路紘史(43才)らが監督を務めている。さらに、小沢健二(53才)がオープニング曲を手がけており、小沢がドラマのテーマ曲を担当するのは25年ぶりとなるだけに、非常に贅沢なスタッフ陣が終結したドラマである。

 物語のあらすじはこうだ。車で街から街を渡り歩き、移動珈琲店「たこ珈琲」を営む店主の青山一の元には、珈琲の良い香りに誘われて、人生に疲れた人々がやって来る。いつも微笑を浮かべ、物腰柔らかな青山は、そっと寄り添うような言葉を添えて人々に極上の一杯で癒しを与えている。時には、人々に新たな“発見”や、生きる上での“気付き”を与えることもある。しかし青山には、現在の彼からは想像もつかない壮絶な過去を持つ男だった。

 一話完結の本作は、基本的に一話あたり2つのエピソードが収録されている。そこで繰り広げられるのは、豊かで複雑な人間模様。各エピソードに登場するゲストには、貫地谷しほり(35才)や山田杏奈(20才)、臼田あさ美(36才)、戸次重幸(47才)、滝藤賢一(44才)ら豪華俳優陣が出演し、物語を彩っている。さらに、青山と強い関わりを持つ人物として夏帆(29才)、磯村勇斗(28才)、光石研(59才)がレギュラー的に登場し、物語に深みを与えている。これを率いているのが、主演の中村だ。

 中村といえばこれまでに、名バイプレイヤーとして、そして主演俳優として数多くの作品に出演しては、硬軟自在な演技を披露し「カメレオン俳優」ぶりを評価されてきた存在だ。“硬”でいえば『孤狼の血』(2018年)のチンピラ役が、“軟”でいえば当たり役となった『半分、青い。』(2018年/NHK総合)の“マア君”役や、『凪のお暇』のゴン役などの“癒しキャラ”が思い浮かぶ。これらのいずれも脇役ではあったものの、強い印象を残すとともに、作品をより豊かなものに仕上げる“スパイス”的な役割を担っていたように思う。

 今回の主演作『珈琲いかがでしょう』は、中村が一人の人物の明と暗を演じるということで、振れ幅の大きい彼ならではの魅力を一度に楽しめる作品となっている。しかし中村の優れている点は、表現の幅だけではなく、軟と硬の間の“揺れ”を繊細に表現できるところにあると思う。本作では、青山のワルだった「過去」は“硬”で、珈琲に出会って改心し、人々を癒やすようになった「現在」が“軟”に当たる。硬も軟も、すでに中村がこれまでの作品で見せてきたものだ。主演映画『水曜日が消えた』(2020年)では、一人七役という偉業も成し遂げている。

 今作で本当にすごいのが、ワルだった「過去」において、改心しそうな片鱗をわずかにのぞかせる表情や、改心した「現在」で垣間見せる、過去を懐かしみ悔いる表情だ。この心情の“揺れ”が伝わるからこそ、多くの視聴者が癒され、惹きつけられるのだと思う。青山というキャラクターについて、原作ファンからは「主人公の見た目や仕草、佇まいが中村倫也にしか見えない」といった声がかねてより上がっていた。ルックスや雰囲気はもちろんだが、人間のリアルを巧みに表現した中村を見て、原作ファンはさらに「中村しかいない」と感じたのではないだろうか。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。