公開初日から3日間で、興行収入3億円を突破する好発進をしたのは岡田准一主演の映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』だ。岡田が見せるアクションシーンも話題になっているが、コメディ要素も秀逸だ。存在感を発揮しているベテラン俳優もいるようだ。コラムニストのペリー荻野さんが見どころについて解説する。

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 公開中の映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』。岡田准一が演じる主人公のファブルは、どんな相手も6秒以内に仕留める伝説の殺し屋だが、超猫舌でどこかズレてる変わり者。

 彼はボス(佐藤浩市)に「一年間、誰も殺すな。一般人として普通に生きろ」と命令され、相棒のヨウコ(木村文乃)と兄妹と偽って、大阪で休業中の身だ。2019年の第一作に続き、新作では、かつて自分が殺せなかった残忍な偽善者・宇津帆(堤真一)の手から、誰も殺さずに車椅子の少女ヒナコ(平手友梨奈)を救い出そうとする。

 激しいカーアクション、爆破、崩れ落ちる足場を走り抜けながら敵を倒すシーンなど、岡田自身がファイトコレオグラファーとして関わったバトルシーンは「日本映画の限界突破!」と謳うだけにすさまじい。憎むべき腹黒男を演じる堤真一の怪演も黒光りしている。だが、それと同時に忘れてはいけないのが「オクトパス」の場面である。

「オクトパス」とは、佐藤アキラと名乗るファブルが、バイトしている小さなデザイン会社。前作で窮地を救ったミサキ(山本美月)の紹介でバイトが決まったのだが、そこで繰り広げられる通称“タコ社長”田高田(佐藤二朗)とファブルとのやりとりは、見ものだ。チリチリ頭にチョビヒゲのタコ社長は、「ボーナスないで」「そんで時給800円」とぼそぼそと悪条件を言う。

 ファブルは平然と「やらせていただきます」と受け入れ、とっくに冷めてるだろうというお茶に口をつけて「熱―っ!!」とのけぞった瞬間、社長に「採用」と言われる。社長、いったいどこをどう見て採用に!? その後、試しにファブルに動物の絵を描かせてみると、謎の模様だらけの奇怪なキリンやシマウマが。なのにそれが「いい!!」とチラシに採用されるのだ。

 殺伐とした場面も多いこのシリーズで、「オクトパス」のシーンはどんどん底が抜けていく脱力ムード。岡田はこの場面を「オアシス」と表現し、江口カン監督も「やっとオクトパスのシーン来たか」と言ったという。みんな好きなんですな。その源はやっぱりタコ社長である。

 佐藤といえば、『勇者ヨシヒコ』シリーズの仏など、テキトーなことを言うおとぼけの達人、アドリブの面白さでも知られる。今や、佐藤が出てくるだけで「何かアドリブやるんじゃ?」と期待する。みんなが「佐藤二朗のアドリブ待ち」状態と言ってもいい。

 今回の新作では、アドリブだけでなく、もうひとつ佐藤二朗の「特技」が発見できた。ミサキに「サンタクロースは知ってるよね」と聞かれて、ファブルは「いや、知り合いじゃない」と大真面目に返答する。そのファブルをなんとも言えない顔で見つめるタコ社長。この「なんとも言えない顔」があるかないかで、この場面の面白さが格段に違ってくる。

 監督は、「オクトパス」のシーンでは、なかなかカットの声をかけず、佐藤にお任せした部分も多かったらしい。監督も佐藤のアドリブと「なんとも言えない顔」のファンなのだ。間違いない。