恋愛もののドラマや映画のなかでも、“道ならぬ恋”を描く不倫ものは、ある時期から定番のテーマとなっている。家族や社会的立場をなげうってまで恋を貫く主人公たちに、ときに視聴者は心を動かされる──。ところが、近年はこの「不倫ドラマ」にある変化が起きているようだ。ドラマオタクを自称するエッセイストの小林久乃氏が、今夏放送中の「不倫もの」深夜ドラマ3作をきっかけに考察する。

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 ふとラテ欄を見返すと、夏ドラマには不倫ドラマが3作も放送されていることに気づいた。いくら夏が「恋の季節」だなんだと言われても、一挙に3作は稀なこと。ドラマ界だけではなくて、一般の恋愛観にも何か起きているのだろうか。

 その3作品を何話か視聴してみて、ひと昔前の不倫ドラマと比べてテーマが大きく変わっていることに気づいた。この現象をドラマオタクの視点と記憶を持って、分析してみたい。

“不倫をする私たち”を描いた平成まで

 過去作と現在作で圧倒的に違うのは、主演の役どころが不倫を“する側”から“される側”に変わったことだ。

“する側”で、みなさんの記憶にもまだ新しい作品といえば『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系、2014年)だろう。平凡な主婦だった笹本紗和(上戸彩)が、偶然出会った教師・北野裕一郎(斎藤工)と恋に落ちていく様子を描いていた。清純派だった上戸さんが不倫をする役というギャップも、「(彩風に)北野先生!」がギラギラしていないぼんやりとした役だったことなど、何かと見応えのある作品だった。

『あなたのことはそれほど』(TBS系、2017年)も同じだ。幸せな家庭の主婦だったはずの渡辺美都(波瑠)が、ただのクズ男の有島光軌(鈴木伸之)と不倫関係に。これも主演の波瑠さんのイメージを覆す、不倫妻の演技が印象に残った。

 他にも不倫ドラマはたくさんあるが、個人的には『セカンドバージン』(NHK総合、2010年)が衝撃的だった。前述の2作品と同様に、独身の編集者・中村るい(鈴木京香)と鈴木行(長谷川博己)のドロドロ不倫劇をドラマ化したものだったけれど、天下のNHKが不倫をテーマに扱うこと、ベッドシーンが放送されたことに驚いた。放送中、周囲の女友達とよくこの話題をしていたことを思い出す。

 この“する側”が定番だった不倫ドラマの風潮を変えたのが『ホリデイラブ』(テレビ朝日系、2018年)だ。ネイルサロンを自宅で営む、既婚の高森杏寿(仲里依紗)に突然夫の不貞が発覚……。さらにその不倫相手が暴走して夫を追いかける、自身も不倫の沼へ落ちそうになるなど、これまでのパターンを覆す形になっていた。“サレ妻”という言葉が流行したのも、ここからだ。

裏切られた側を主役に描く令和

 そして時代は令和に突入。不倫ドラマは“される側”にスポットライトが当たるようになった。不倫をテーマにした今夏の3本のドラマは次の通りだ。

『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京系、水曜深夜)は、浮気をされた妻・中山文(比嘉愛未)が主人公。まもなく最終回を迎えるこちらの作品だが、クライマックス目前で夫・和真(竹財輝之助)が妻の友達とデキていたことが発覚。一方の文には年下男子くんがアプローチをしてくるという、浮気には浮気で対抗するという現代らしい展開も見られた。

『サレタガワのブルー』(MBS・TBS系、火曜深夜)では、心底愛する妻に浮気をされてしまう田川暢(犬飼貴丈)がメインに。妻はいわゆるダブル不倫で、相手の男の妻と協力をすることに。この妻役は元乃木坂46の堀未央奈さんが演じているけれど、旦那も浮気相手も手玉に取って喜んでいる嫌な女がばっちりとハマっている。

『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系、水曜深夜)は、夫・柿野正隆(北山宏光)の不貞によって起きた事件を、妻の雪映(中村ゆり)も一緒に解決していく……というサスペンス。毎回、冒頭で不倫相手の殺害シーン(?)が出てくるので、夫婦で共犯ということになる。この作品は他に比べるとやや方向性が変わるけど、“される側”の妻が物語の主軸になっている。

 こんなにも不倫ドラマが百花繚乱となっているのは、昨今の著名人による不倫騒動が背景にあると思う。2016年にベッキーが起こした“ゲス不倫”騒動を皮切りに、あまりにも不倫が身近なものになってしまった。

 それまでの不倫はドラマだと、特別扱いのような風潮があった。ドラマの中だけのことであって、一般人には関係のない世界。そう思っていたのに、時代の変遷によって不倫が身近になっていく。「あの著名人がしているなら、私も」そんな空気が、不倫ドラマの豊作化を生んだ気がしてならないのだ。この原稿も私が過去の不倫に対するイメージを知らない若い世代だったら、書くことはなかったかもしれない。「あれ? 3作も不倫ドラマを放送している……?」という現象に気づくことはなかったはず。

 これから不倫ドラマはどんな視点へと変わっていくのだろうか。青少年の健全な育成のためにも、なるべく刺激控えめでお願いしたい。

【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。