平均視聴率2ケタを維持し、無事最終回を迎えたドラマ『ナイト・ドクター』(フジテレビ系)。主演の波瑠(30才)や田中圭(37才)など錚々たる人気キャストが集結した本作だが、その中でも演技経験が少ない岸優太(25才)の演技に驚かされた人が多かったようだ。最終回後には、「岸くんの演技力がやっぱり凄い」「これを機に俳優として大活躍してほしい」といった声が多く上がった。岸の魅力について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。

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 ドラマ『ナイト・ドクター』での岸優太の“演技派”の一面に注目が集まっている。バラエティ番組などで見せる“天然キャラ”の印象が強い彼だが、本作で演じた新米医師・深澤新役では、普段のイメージを大きく覆してくれた。

 本作は、ドラマ『グッド・ドクター』(フジテレビ系)や『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(フジテレビ系)などの医療ドラマを手掛けてきた気鋭の脚本家・大北はるかによる完全オリジナル作品。夜間救急専門の「ナイト・ドクター」結成のために集められた医師たちが、人々の人生に向き合いながら成長していく姿を描いた。5人の医師の交差する思惑が丁寧に描かれた青春群像劇とも言えるだろう。

 舞台はとある夜間の病院。ここで夜間勤務専門の救急医が募集され、主人公・朝倉美月(波留)らが「ナイト・ドクター」として働くことになる。だが、そこで彼女たちを待ち受けていたのは、夜間ならではの過酷な医療現場のリアル。年齢も性格も価値観もすべてが異なる5人の若き医師たちは、仲間や患者との交流を通して、それぞれに何かを得て、少しずつ成長していく。

 本作で岸が扮したのは、医師4年目の深澤新というキャラクター。両親を早くに亡くした彼は、「病気がちの妹を元気にする」ことを目標に医者になったが、重篤な状態で患者が運ばれてくることも多いハードな現場に立ち続けることに覚悟や自信を持てないでいた。だが、「いつ、どんな患者でも絶対に受け入れる」という強い信念を持つ朝倉や、冷静沈着で経験豊富な成瀬(田中圭)らと関わるうちに、少しずつ成長していく。

 こうした深澤の変化を垣間見れるのが本作の見どころの一つだ。「成長」が一つのテーマである本作において、登場人物の中で最も成長の幅が大きい深澤は最重要人物でもあった。このポジションに岸が配された事実に、製作陣の期待度の高さが伺える。

 岸といえば、大人気アイドルグループ・King & Princeのメンバーの一人である。これまでにも、ドラマ『仮面ティーチャー』(日本テレビ系)や『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ系)などで俳優業に挑んではきたものの、これらは2018年の本格的なグループ活動前であったことや、昨夏放送された『24時間テレビ43』(日本テレビ系)でメインパーソナリティを務めるなど、バラエティで目にすることの方が多かった岸だけに、俳優というよりはタレントというイメージが強くあった。特に、お笑い芸人も太鼓判を押す天然っぷりはよく話題になるほどだ。

 そんな岸が、久しぶりのドラマ作品への挑戦で本格派医療ドラマへの出演を選んだというのが頼もしい。共演者である岡崎紗絵(25才)や北村匠海(23才)は岸と世代の近い存在だが、俳優としてのキャリアには大きな差がある。しかも本作は、複雑な医療現場のリアルを描いた作品であるため、それ相応の演技力が求められるが、岸はそうした経験豊富な俳優陣の中でも存在感を発揮し、上手く自身の役割を演じていたと思う。

 その理由の一つとして、彼のポジショニングの上手さがあるのではないだろうかと感じた。岸が演じた深澤は、もともとは救急医という仕事に対して自信が無かった。目まぐるしい展開が続く医療の現場でアタフタとうろたえる姿を、セリフの語調や絶えず泳ぐ視線によって器用に表現していたと思う。コメディシーンにもシリアスなシーンにもナチュラルにフィットする姿は、岸の演じ手としての柔軟性の高さが感じられた。集団で活動するアイドルグループに籍を置いていることも、ここに上手く反映されたのかもしれない。

 特に、気の小さな深澤の“小物感”が、最終話では完全に拭い去られていたのが印象深い。声にも表情にも鬼気迫るものがあった。しかしこれは、最終話でいきなり彼が成長したのではなく、そこに至るまでの小さなエピソードに対する岸の演技の積み重ねの結果だ。一話一話、着実に前進している深澤の姿を誰もが感じていたことだろう。岸が先輩俳優たちの中で揉まれながら発揮した“演技派”の一面を目にしている間、彼が“天然キャラ”であることを忘れていたのは、筆者だけではないはずだ。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。