阿部寛、初の刑事役に対し「挑戦しないと自分が腐っていく」

阿部寛、初の刑事役に対し「挑戦しないと自分が腐っていく」

 ここ10年ほどの阿部寛(53)の活躍はめざましい。『TRICK』、『坂の上の雲』、『テルマエ・ロマエ』、『下町ロケット』と次々と代表作となる作品に出演してきた。

 2010年にTBSドラマとして始まった東野圭吾原作の「新参者シリーズ」もまた、阿部にとっては、代表作品となった。そのシリーズが、1月27日に公開される映画『祈りの幕が下りる時』(福澤克雄監督 東宝系)をもって完結する。

 実は、阿部はこのシリーズで初めて刑事役に挑戦している。それまでは依頼を断わり続けてきていたのだ。

「刑事ものは色がつくので避けているようなところがあったんです。でも、44、45歳になって、自分の人生経験も含めてそろそろやってみようかなと思った。この作品は、派手なアクションはなくて静の芝居だから心が必要になるし、自分にそれが出せるか怖かったんですけどね。一歩間違えば、地味になっちゃうし、格好いいだけで終わっちゃうし、どう人間味を出し、映像に耐えうるものとするか、そこに腐心しました」

 日本橋署の刑事・加賀恭一郎を演じ続ける間に阿部は50代を迎えた。40代とは何が変わったのだろうか。

「やっぱり、どこかでサボろう、エネルギーをセーブしようとするんです。だから、今回は過去の作品を最初から全部一度見直しました。シリーズものはどうしても馴れ合いみたいなものが生まれがちなんで。『下町ロケット』で一緒だった福澤監督にお願いしたのも、新しいエネルギーをもらって、最初から叩き直したかったからでした」

 今回のヒロイン役は、松嶋菜々子。意外にも阿部とは初共演だった。

「てっきりクールな人だと思っていたんです。『家政婦のミタ』のイメージがあって(笑い)。でも、現場で会ってみると、変な気負いもなくソフトで、心から芝居をしてくださる方だった。刑事ものは、直に見合ってやるからウソのお芝居は見えちゃうんです。中にはいるんです、自分が映ってないときに力を抜く人が。でも、松嶋さんは、演技中に心が動いていく様が見えていく女優さんで、本当にやりやすかった」

◆“挫折”もあった若き日々と飛躍まで

 本作をはじめ、いまでは途切れなく主演作に恵まれる阿部だが、もちろん順風満帆なだけではなかった。雑誌『メンズノンノ』のモデルとして人気を得ていた阿部が俳優デビューしたのは1987年。が、20代前半の青年は、すぐに挫折を味わう。

「モデルの世界から勘違いしてこっちの世界へ来て、仕事がどんどんなくなり、なんで俺にはオファーがないのかと悩むけど理由がわからない。役者のこだわり、とか言われても、その“こだわり”が何かわからなかったんです」

 そんなとき阿部は、ベテラン俳優の大滝秀治が芝居で使う酒瓶に入れる水の量を真剣に考える姿を見る。大滝は、「若い人はこういうこと、面白いと感じるかな」と阿部に相談に来たりもした。その真摯さに心打たれた阿部は、この頃から見えないものも意識し始める。たとえば、映ることのない靴下に穴をあけ、役作りをしたりするようになるのだ。

「地味にやっていることが映像になるとちゃんと出てくるということに、恥ずかしいけれど、30歳ぐらいで気づいたんですよ。で、なるほどね、と思ったら仕事が面白くなって、もっとそれを映像で見せたいなという野心が芽生えたんです。オファーをくださる方って、そういう空気が敏感にわかるんです」

 さらに阿部に刺激を与えたのは、希代の演出家つかこうへいだった。舞台『熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン』に出演したことで、モデル阿部寛は役者へと完全に脱皮していくのだ。

「自分を変えたいというモードのときに、ちょうど、つか先生から声をかけていただいた。それより前に先生の芝居を見たときに出てたのが酒井敏也さん。それが狂気の芝居で、テレビと舞台では役者はこんなに変わるんだとびっくりした。先生の芝居をやるのはもの凄い恐怖だったけど、自分の中には飢えがあったし、やるしかないと飛び込んだんです」

 いまトップを走り続けているのは、そんな崖っぷちの時代があり、危機感を持ち続けてきたからだ。

 建築家、教授、クライマー、侍、軍人、そして刑事……。ありとあらゆる役を演じてきた役者は60代にどう向かっていくのか。

「守りには入りたくない。だから、いろんな役のオファーを極力断わらないでやっていきたい。2011年に蜷川幸雄さんの演出で、常連の大竹しのぶさんとシェイクスピアを主演でやったときは、これ以上の恐怖はなかった。だけど、そういうのに挑戦しないとたぶん自分が腐っていくと思うんですよ」

「攻める阿部寛」は、脇役さえも受け入れていきたいと言う。

「若い俳優さんたちが凄い芝居をしているので、そういう人たちの主演作品にもぜひ出させていただきたい。30代のときは、主役の人の胸を借りていろんな役をやっていた。思えばあそこに戻るだけなんです。還暦ともなれば年齢的には凄みが出ちゃうかもしれないけど、そこをうまく料理しながら、いい作品を残したい。俺はこれでいいんだ、と安泰の場所には絶対に立ちたくないんです」

【PROFILE】あべ・ひろし/1964年、神奈川県生まれ。モデルを経て、1987年に俳優デビュー。1993年、つかこうへい作・演出の舞台で俳優として脚光を浴び、テレビドラマ、映画に多数出演。2008年に『歩いても歩いても』などで毎日映画コンクール主演男優賞受賞。2012年に『テルマエ・ロマエ』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。『祈りの幕が下りる時』の後に、『空海―KU-KAI―』『北の桜守』『のみとり侍』の映画公開が控えている

●撮影/二石友希 ●取材・文/一志治夫

※週刊ポスト2018年2月2日号


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