緊急事態宣言下、東京五輪開幕まで70日に迫る。観客を入れるのか、無観客での開催か、それとも中止なのか。感染対策とワクチン接種はいかなる手順で進むのか。前のめりに突き進む政府、東京都、そしてIOC。頂を目指すアスリートたちは、言葉を選びながら本番に備えて牙を研ぎつづける。代表選手たちの言葉を振り返ろう。

桐生祥秀(陸上・男子100メートル候補)

「どういう発言をすればいいのか迷っている自分がいる。1戦、1戦、やるしかない」

 5月8日、五輪テスト大会に向けた記者会見での発言。五輪選手にワクチンが提供されることについて、「アスリートが特別だと思われてしまうのは残念」と複雑な気持ちをにじませた。

玉井陸斗(飛び込み・男子高飛び込み)

「ニュースを見て感染者が増えていると、(五輪開催は)怪しいなと思ったが、あると信じてモチベーションを保ってきた」

 自身初の代表が決まった5月3日に発言。五輪最終予選を兼ねた国際大会で緊張によるミスが相次ぐも、最後は見事な演技を披露し、土壇場で代表入りを果たした。14歳のアスリートはメダルへの意欲を燃やす。

一山麻緒(陸上・女子マラソン)

「残り3か月で少しずつ状態を上げていって、五輪本番では皆さんに私らしい元気な走りをお見せできたらいいと思います」

 5月5日、北海道で行なわれた五輪マラソンのテストイベントでの発言。代表に内定している一山(左から2人目)はこの日、1時間8分28秒のハーフマラソン自己ベストで優勝。本番に向けて順調ぶりをアピールした。

服部勇馬(陸上・男子マラソン)

「他の環境というか、医療従事者の皆さんだったり、本当に苦しい状況の中で仕事をされていることを考えると……。僕自身は仕事が走ることであるので、そのことを止めるべきか」

 5月5日、一山と同じくテストイベント「札幌チャレンジハーフマラソン2021」に出場。議論が噛み合わない五輪に戸惑いを感じつつも、「しっかりと準備をしていきたい」と話した。

新谷仁美(陸上・女子1万メートル)

「アスリートだけが特別という形で聞こえてしまっているのが非常に残念。どの命にも大きい、小さいは全くない。アスリート、五輪選手だけはおかしな話。優先順位をつけること自体おかしな話だと思う。どの命も平等に守らないといけない」

 5月8日、五輪テスト大会に向けた記者会見でワクチンをアスリートに優先接種することについての発言。接種自体についてはに前向きな意向を示す一方、副反応を心配していることも口にした。

市川友美(パラリンピック・ボート・女子シングルスカル)

「20代や30代の仕事をしている人に打った方がいいんじゃないかなとは思っている。ただ、海外から来る人が打っているのに、こっちの人は打っていないというのは、おかしいといえばおかしいかな」

 5月7日の「アジア・オセアニア大陸予選」PR1女子シングルスカルで優勝、パラ五輪代表に内定。前日、五輪パラリンピック選手へのワクチン確保が発表されたことを受けて。

大坂なおみ(女子テニス候補)

「特にこの1年は重大なことがたくさん起こっていて、多くの予想外のことが起きた。人々を危険にさらす可能性があるのならば、絶対に議論すべきだと私は思う」

 5月9日、イタリア国際出場を前にオンライン記者会見での発言。日本に五輪反対の声が根強いことを受け、選手として五輪開催の希望を表明するも、日本の世論にも理解を示した。

錦織圭(男子テニス候補)

「選手村で100例、1000例の感染者が出るかもしれない。コロナはとても容易に拡大してしまうから。だから(大坂)なおみが言ったのと同じようなことを言いたい。どう安全にプレーできるか、議論する必要がある」

 5月10日、イタリア国際男子シングルスに出場し、1回戦を勝利した後の記者会見で答えた。さらに「簡単ではない。特に今、日本で起きている状況はうまくいっていない」とも。

池江璃花子(競泳・女子400メートルリレー、400メートルメドレーリレー)

「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいてる方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。(中略)この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」

 5月7日、自らのTwitterで発言。白血病の療養生活を経て五輪代表入りを決めたにもかかわらず、出場辞退や五輪への反対を求めるメッセージがSNSに寄せられた。匿名の圧力に、自身の心境を吐露した。

※週刊ポスト2021年5月28日号