孫正義氏、横尾忠則氏、宮崎駿氏ほか 偉人の人生変えた1冊

孫正義氏、横尾忠則氏、宮崎駿氏ほか 偉人の人生変えた1冊

 各界の成功者たちは、ある共通体験をしている。子供の頃に読んだ本が、その後の人生に大きな影響を与えたというのだ。ソフトバンクグループを率いる孫正義・会長は、歴史上の偉人に影響を受けた。

「15歳で司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読んで人生観が変わり、16歳で脱藩するように高校を中退して渡米した」──2017年、坂本龍馬に関するイベント会場でそう語った孫氏。

「その後も創業時や入院時など人生の節目で読み返し、龍馬の考え方や精神が私の指針になっている」と語ったこともある。

 クリエイティブな分野で才能を発揮する芸術家はどうか。

 1960年代から第一線で活動する美術家・横尾忠則氏は、本を読まない少年時代を過ごしたという。しかし、中学生時代に例外的に読んだのが、江戸川乱歩の「少年探偵」シリーズの『青銅の魔人』、南洋一郎の『バルーバの冒険』だった。『SAPIO』(2017年11・12月号)で、どちらも挿絵に惹かれて読んだことを明かしている。

〈僕の中では、小林少年たちが閉じ込められるお屋敷の地下室と、南洋の密林の洞窟がつながっているんです……その2つの世界を何度も作品のモチーフにしてきました〉

 日本のみならず、世界をリードする建築家・安藤忠雄氏が建築家を志す若い世代に求めるのは、読書を通じて「人間を学ぶ」ということだ。その教材として20世紀を代表する米文学者・ヘミングウェイの『老人と海』を勧めている。

 書評家の杉江松恋氏によると、同作が描くのは「人生の厳しさ」だという。杉江氏が語る。

「短編『老人と海』は緊密な文体で獲物と真摯に向き合う老人を通して、人生の厳しさを教えてくれる。小説の最後、ようやく釣り上げたカジキはサメに食われてしまうのですが、行為に打ち込む姿、報酬を顧みない努力が描かれています」

 安藤氏が若い世代に勧める理由もそこにある。

〈ヘミングウェイが言いたかったのは、結局人生とは“挑戦”であり、だからこそ生きることは面白い、ということだったのじゃないかな……。大海原に乗り出していっても、収穫があるかないかわからない。それが人生の真理なのだと〉(『Casa BRUTUS 特別編集 安藤忠雄 ザ・ベスト』)

 アニメ監督の宮崎駿氏は、中学生の頃に出会ったある本についてこう語っている。

〈アニメーターは、いや応なく自分の記憶を引っ張り出してきて絵を描く。机を持ち上げる描写ひとつでも「この机ならこれくらいの重さだ」と、必ず覚えがあるものを描く。記憶の総量の中に埋もれていた配線にパッと電気が通る、そんな感じです。そういう体験を、中学生の頃、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』という本でしました。中の挿絵を見た瞬間に、なぜか「懐かしい」という配線に電気が通った〉(朝日新聞2009年10月11日付)

 2018年に同作の漫画版が発行されると、たちまち250万部を突破し、社会現象にまでなった。宮崎氏は、引退撤回後の第1作となるスタジオジブリの新作長編アニメ(2022年夏公開)のタイトルに、本と同じ『君たちはどう生きるか』と名付けたという。

 子供の頃の読書という原体験がいくつになっても偉人たちを動かし続けているのだ。

※週刊ポスト2019年11月22日号


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