NEWSポストセブンで2021年上半期(1月1日〜6月22日)に公開した記事の中から、大きな話題を呼んだ記事トップ10を発表します。第10位は、4月16日に配信した『 「目と鼻のない娘」が18才になり、母が感じたエンタメの可能性』です。(年齢などは掲載当時のまま)

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 ニューヨークでビジネスコンサルティング会社を主宰する元客室乗務員の倉本美香さん。2003年、美香さんの長女としてニューヨークで生まれた千璃(せり)ちゃんは、眼球と鼻梁がない重度の障害をもっていた。

 トンネルの中を模索し続けるようだったという美香さんだが、千璃ちゃんにたくさんの勇気をもらったから、同じ困難に向き合っている人、またそうでない人達にも伝えたい、と書き綴っていた日記をまとめた著書『未完の贈り物 娘には目も鼻もありません』(産経新聞出版/文庫版・小学館)を2012年に刊行。続編『生まれてくれてありがとう 目と鼻のない娘は14歳になりました』(小学館)もあわせ、多くの人々の心を揺さぶるベストセラーとなった。

 そして、千璃ちゃんが18才の誕生日を迎えたこの春、この著書が原案となるリーディングミュージカル『DUSK』の公演が東京で行われている(※再配信にあたり補足/公演は4月25日で終了しています)。「刊行してから9年が経過して、今でもこうして作品から繋がるメッセージを、第三者が伝えようとしてくださることに、大いなる意義を感じています」と美香さんは話す。

 差別や偏見とたたかいながらも必死に生きていく美香さん家族の軌跡を読んだプロデューサー、演出家をはじめスタッフが一丸となり、その思いを伝え、道に迷っている人の心に明かりを灯す機会になれば、とメッセージをこめられたこの舞台。

 決してミュージカル劇に仕立てやすい題材ではないはずだが、それでも美香さんと家族の物語には、向き合いたい、向き合わなければ、と引き寄せる強い力がある。

「現在千璃は、ニューヨークアップステートにあるスペシャルスクールで過ごしています。今でも言葉を発することはなく、全てに介助が必要ですが、干支が一回りしてようやく歩けるようになった後、今は白杖を使って歩く練習をしています」(美香さん)

 現実の物語は続いていて、このミュージカルも安直なハッピーエンドでは終わらない。それでも、見終わった後、生きていくことに光が見えるような、清々しい前向きなエネルギーが沸いてくる。

 ニューヨーク在住の美香さんは、ワクチン接種も行い万全の感染防止対策でこのたび来日し、初日から観劇した。

「世に伝えた時点で作品は一人歩きしていくものですが、2019年秋に舞台化された時とは、まったく別の制作チームが、まったく違う目線で作り上げてくれました。その姿を見て、本を読まない人たちに伝える手段としてのエンタメの可能性を感じる機会にもなりました」(美香さん)

 また、千璃ちゃんが成人する(アメリカでは18才)までに形にしたい、と美香さんが進めてきた英訳本『Born(e)』も完成した。このタイトルは「born(誕生)」と「borne(背負う、耐える、実る)」の意味からつけられたという。(カッコ)は、「ほんとうは必要のない・重要な意味をもたない」もの。不自由や障がいを背負い、耐えて、そこから実りを得ていくこと(borne)より、すべての人がありのまま(born)受け入れられる社会になってほしいという願いが込められている。

「完成した英訳本を読み、ようやく下の3人の子供たち(長男・次男・次女)が我が家のストーリーを理解したことで、彼らの意識もまた新しい方向に進んでいくのでしょう。終わりのないストーリーが続いていますが、今回のように第三者が感じたことを、また次の第三者に伝えていってくれたら、少しでも優しい社会の実現に近づけるのではと思っています」と美香さんの視点はさらに先にある。