日本を含めてアジアは、欧米ほどの強硬で広範なワクチン反対運動がないおかげで、出遅れた新型コロナウイルス感染症対策で大きく巻き返したと海外紙では報じられている。とはいえ、ワクチン接種をめぐる人々の動揺は今も大きく、とくに未成年者への影響が極端な形であらわれている。ライターの森鷹久氏が、12歳以上の未成年、特に親の同意書が必要な16歳未満の小中学生とその周辺で起きている、ワクチン接種をめぐる混乱についてレポートする。

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「自宅に子供用ワクチンの接種券が届き、ギョッとしました。そうか、12歳から打てるのかと。しかし、子供にどう説明したらいいのか、わかりません。子供だって日々のニュースを見ているし、インターネットを使って情報を得ているんですよ」

 千葉県在住の会社員、中田俊哉さん(仮名・40代)の家に、小学6年生の娘(12)用の「ワクチン接種券」が自治体から送られてきたのは夏の終わり頃だった。医療従事者である妻は6月には2度のワクチン接種を終え、自身も「職域接種」でやはり接種を終えていた。

 妻はファイザー製のワクチンを、中田さんはモデルナ社製のワクチンをそれぞれ接種し、2度目を終えた時点で、高熱や頭痛などの強烈な「副反応」が出たのは、中田さんだけだった。

「正直、ワクチン接種については色々と言われてますから、接種前は不安もありました。それでも、仕事を続けるためには摂取は避けて通れないと感じ、妻と二人で相談し、思い切って打ったんです。副反応もかなりキツかった。だから、これを娘になんて、到底考えられなかったんです」(中田さん)

 ワクチンに関して、接種後に軽度の「心筋症」の恐れがあるなどとも報じられていて、いわゆる「反ワクチン」ではなくとも、接種自体に不安を感じている人は少なくない。今が良くても、例えば5年後、10年後に、何らかの「弊害」が出るのではないか、などと、ネット上のあらゆるところで「議論」されている。

 大人でも躊躇するワクチン接種である。子供に打たせて良いものなのか。これは、今まさに多くの親たちが密かに抱いている悩みだ。

「夏休み明けごろから、保護者の皆さんからこっそり相談される事例が相次ぎました。打たせた方がいいのか、みんな打っているのか、そして『先生は打ったのか』と。子供達の間でも『ワクチン』は話題になっていて、学校としても、正しく対処すべきだと話し合いを続けているんです」

 関東某県の公立小学校教師・村井沙織さん(仮名・30代)は、小学6年生クラスの担任。6年生といえば、ちょうど11歳から12歳になる年齢。ワクチンは12歳以上が接種対象になっていて、クラスには接種できる児童とできない児童が混在している状態だ。

「早く打たせたいが問題ないか、心配もあるが先生はどう思うかなど、保護者の皆さんからの相談はさまざまです。学校として、接種を強制してくれないかとか、子供にワクチンの有効性をしっかり説明してほしい、そうお願いされる方もいます」(村井さん)

 一方、やはりというか「反ワクチン」的な考え方で「絶対に子供に打たせない」と頑なな親も少数存在しているというが、結局、そんな大人たちに翻弄されっぱなしなのは子供達だ。12〜15歳の子供達は接種に親の同意書が必要なため、打つか打たないかの決定権は事実上ない。

「ある児童が『接種券が届いた』と言って、別の児童が『私も、僕も』とクラスが大騒ぎになりました。また別の児童が『実はもう打った』と打ち明けると、クラス中が大騒ぎに。もう遊びに行けるじゃん、と羨む声もあれば、体が磁石みたいになるなど、ネットで知ったらしい誤情報を得意げに話す子もいました」(村井さん)

 その日の放課後、村井さんを訪ね職員室にやってきたのは、ある女子児童だった。

「言い出しにくそうに『先生、私は赤ちゃんを産んだらダメなんだって』と目に涙を浮かべていました。別の女子児童から、ワクチンを打った人は子供が産めない、もしくは産まれてきても重い障害が出る、と言われたと話し、すでに1度目の接種を受けたと明かしました。そんなことないよ、先生も打ったんだよと話しましたが『先生はすでに子供がいる』と言われ、言葉に詰まりました」(村井さん)

 もちろん、その女子児童が聞かされた、コロナワクチンが妊娠と出産に悪影響を必ず及ぼすという話は科学的根拠のないものなので、信用する必要はない。だが、テレビや新聞といったメディアでも、少なからず「ワクチンの危険性」について言及する報道があり、大人たちですら翻弄されて荒唐無稽な話にも不安な気持ちになってしまう。そんな状態では、子供の間に動揺が広がっていることも想像に難くなく、深刻なトラブルにも発展している。東京都内の公立中学教頭・西島徹さん(仮名・50代)が肩を落とす。

「春の修学旅行が中止になり、生徒の多くが落胆していましたが、感染者が減り、急遽秋に近隣県への修学旅行が計画されていました。しかし、3年生のクラスで『ワクチンを打った者だけが行くべき』と主張する生徒が出てきた。実はまだ、ワクチン接種済みの生徒の方が少数なのですが、教師がどんなに説明したところで、生徒全員が納得できる解決策は見出せず、保護者の同意も取れない。結局旅行計画は棚上げになり、このまま中止では子供達がかわいそうすぎます」(西島さん)

 生徒たちの意見が「割れる」背景には、親はもちろん、教師の「考え方」も大いに影響しているという。

「親同士がラインなどのSNSコミュニティで『ワクチンは危ない』と話し合っていれば、それが生徒にも伝わります。近隣の中学では、教師自身が『ワクチン接種は見送りましょう』とクラス便りのプリントを生徒に配布し、問題になりました。中学生や高校生でも、打っている生徒と打っていない生徒が半々くらいの場合も多く、打っていても打っていなくても、さまざまな人からいろいろなことを言われていて、気の毒なくらい困惑している」(西島さん)

 親の同意が必要な小中学生だけでなく、ある程度の分別がつく年齢だとされ同意書が必要ない16歳以上でも、大人の意見や世論、ネット上の真偽不明な情報に敏感になり、子供達の間でも「分断」が起きているとも指摘する。前出の小学校教諭・村井さんは大きな危機感を抱いている。

「小学6年生ですから、中には中学受験を控えている子供もいます。ですが、ワクチンのことで頭がいっぱいになり、受験勉強どころではないという声が多く聞かれます。学校としては、厚労省や国の指導に従うしかありませんし、個人的には、早くみんなに打って欲しい。でも、私もワクチンの副反応が辛く、学校を2日ほどお休みした経緯があり、生徒もそれを知っているんですね。打ちたくないと考える生徒からは『大人でもきついのに、子供はもっと危なくないか』と詰め寄られ、自信を持って自分の意見が言えなくなってしまっている」(村井さん)

 すでに国民の過半数が2度のワクチン接種を終え、日々の感染者数は減る一方である。居酒屋では酒類提供の条件緩和も進み、間も無くすると「Go Toキャンペーン」も再開される見込みだと報じられている。やはりワクチン接種は一定の効果がみられたと考えるのが妥当なように思われるのだが、それでも、ワクチンの危険性を指摘する極端な声は今なお存在し、繁華街では「反ワクチンデモ」も開催されている。

 大人たちは、自分自身の考え方、責任の範囲内において判断すれば良いかもしれない。だが、子供たちはそうはいかない。基本的には、大人や世論に逆らうことができず、その影響で辛い目にあわざるを得ず、悲劇に見舞われている。私たち大人がヒステリックになっている様子を、子供達がしっかり見ているのだという現実を、そろそろ皆が自覚すべきだろう。こうした混乱こそが、デマや陰謀論が生まれる温床となっていることも明らかである。子供達が大人を信用しなければ、家庭も学校も会社も、そして国家自体が「成立」しないのだ。