PRESIDENT Online 掲載

台湾のTSMC(台湾積体電路製造)はなぜ半導体製造で世界一になれたのか。京都大学イノベーション・マネジメント・サイエンス特定教授・木谷哲夫さんの著書『イノベーション全史』(BOW BOOKS)より、創業者モリス・チャンのイノベーションを紹介する――。

■「中国人のもう一つの道を切り開いてやる」

モリス・チャンは、世界初で世界最大の半導体製造ファンドリーであるTSMCの創業者であり、元会長兼CEOとして、台湾の半導体産業の創始者として知られています。

モリス・チャンは1931年に中国の浙江省に生まれました。

第二次世界大戦で中国が戦場となり、戦後に一家は香港に引っ越しました。18歳の時、一念発起して渡米し、ハーバード大学に入学、2年生でMITに編入し、機械工学を専攻し学士号、修士号を取得し、1964年にはスタンフォード大学で博士号を取得します。

しかしモリス・チャンは就職の際、一流大学を卒業しても、アメリカでは中国人には職がないことを知り愕然としました。その時の心境を、モリス・チャンは、次のように自伝に書き残しています。

「中国人のアメリカでの道が教師か研究者しかないなら、私が先鞭をつけ、もう一つの道を切り開いてやろうではないか」(※)

※湯之上隆.(2013).「台湾TSMCを創業したモリス・チャンの驚きの物語」.朝日新聞WEBRONZA.2023年11月5日閲覧

■下請けでも大手企業と対等の立場に立てる

モリス・チャンはテキサス・インスツルメンツ(TI)で働き、IBMの下請けとして製造をしていましたが、試行錯誤を繰り返し、見事に良品の製造に成功します。

IBMの幹部が訪ねてきて「大変驚いています。一体どうやったのですか?」と質問したところ、モリス・チャンが「朝から晩までトランジスタのことを考えて試行錯誤を繰り返しました。だからできたのです」と答えると、IBMの幹部は「我々大手では、こんなリスクの高い製品について製造ラインを組むことはできません。助かりました」と言ったということです。

このとき以降、IBMの態度が一変し、「下請けでもその技術を極めれば大手企業と対等の立場に立てる」ことに気づいたことが、その後ファンドリーを立ち上げる基本思想になったと言われています。