PRESIDENT Online 掲載

4月16日、民法改正案が衆議院で可決された。離婚後の親権を父母どちらかに限る「単独親権」を見直し、「共同親権」にできる内容を含む。参議院を経て今国会での成立が見込まれる。この法案について、コラムニストの藤井セイラさんが、可決前の法務委員会で答弁に立った弁護士に取材。「わたしのようにDVや虐待が原因で別居し、配偶者との話し合いが困難なシングルペアレントにとっては、リスクしかない法律だといわれた」という――。

■「連れ去り」「虚偽DV」は共同親権推進運動で造られた

共同親権が成立しかけている。これまで離婚後の子どもの親権は、父母の「どちらかが単独で」持つものだった。それが、父母の「両方が共同で」持つことを選べるようになる。「共同」とつくので一見よさそうだが、この民法改正は社会にとってリスクがあり、また個人的にもおそろしく感じている。

というのは、わたしは児童相談所から、DVと虐待を理由に「父親とお子さんを離すように」とアドバイスを受け、子どもを連れて家を出ているからだ。別居前、夫とは話し合いが成立しなかった。いまはワンルームに母子3人で暮らしている。

別居された側が「子どもを連れ去られた」と弁護士事務所に駆け込むケースは少なくない。「共同親権の導入を待ってから離婚したい」と相談する例も出ているらしい。だが、実は「連れ去り」「虚偽DV」「実子誘拐」などは共同親権運動の推進者たちが広めてきた造語だ。

わたしのような当事者からすると、子連れ別居はしたくてするものではない。勧告を無視して夫との同居を続ければ、児童相談所による一時保護(調査のため子どもを親元から離して施設に入れる)の可能性もあった。それだけは避けたいと考えると、家を出ざるをえなかった。

引っ越しの完了を伝えると、児相の担当職員たちは本当に喜んで「よかった、よかった」と拍手してくれた。それくらい虐待から無傷で逃げることが困難だと知っているからだろう(児相では父母の和解を強く勧められることも多いと聞く。ケースによる)。

■家庭裁判所はキャパ不足、DVの知識のない調停委員も

子連れ別居はつらい。経済的に不安定、24時間ワンオペ、仕事がしたくても時間の確保も困難。現にいまも子どもにアニメを見せながら、なんとかこの原稿を書いている。狭い部屋では隔離もできず、コロナもインフルエンザも一人がかかれば全員感染する。

家庭裁判所は慢性的なキャパシティ不足で、離婚調停はなかなか進まず、時間ばかりが過ぎる。ただ、父親と別居したことで子どもの笑顔は増え、食欲も回復、すくすくと育っている。学校や園の先生方からは「本当に家を出てよかったですね」といわれる。

家裁の調停委員の7割近くは60代以上だ。現代のDVや虐待について知識が十分でない場合もある。調停委員はDV加害者のウソも平等に受けとめて、面会交流(子に会わせる)や和解案(例えば、育児は母親、子は休日を父親と過ごす、離婚話は二度としない、塾や習い事の費用は払わないなどの一方的内容)の受け入れを提案してくることもある。