PRESIDENT Online 掲載

JR赤羽駅(東京都北区)では、エレファントカシマシの「俺たちの明日」(2008年発表)と「今宵の月のように」(1997年発表)が発車メロディになっている。なぜ赤羽駅でエレカシの楽曲が採用されたのか。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員・藤澤志穂子さんの新著『駅メロものがたり』(交通新聞社新書)から紹介する――。

■あらゆる人を受け入れてくれる街・赤羽

JR赤羽駅東口に降りると、バスターミナルの屋根の上に「AKABANE」の赤いネオンが光っていた。駅前にはレトロな昭和感も漂う赤羽は、荒川河川敷に近いターミナル駅で、周辺には大型商業施設から商店街、歴史を刻んだ個人商店、居酒屋、はては風俗エリアまで「何でもアリ」的な街並みが広がる。

商店街にはアート作品も配置され、“よそ者”の私が歩いてみても、不思議と居心地は悪くない。誰をも寛容に受け入れる、「『猥雑なごちゃごちゃ感』が赤羽の魅力」と東京北区観光協会事務局長の杉山徳卓さんは言う。全てを受け入れ、包み込んでくれる優しさは、エレファントカシマシ(通称エレカシ)の音楽にも通じるだろうか。

ほぼ全ての歌の作詞・作曲とボーカルを担当する宮本浩次さんはじめ、メンバー三人が赤羽の出身。2018(平成30)年11月から宇都宮線・高崎線・湘南新宿ラインのホームで二つの代表曲が流れている。

池袋・東京方面に向かうホームでは『俺たちの明日』で2007(平成19)年発表。がんばろう、と自分と仲間を鼓舞するように始まる歌詞は、不器用でも生きていこうという内容で、都心に向かうビジネスパーソンを励まして送りだそうというメッセージが込められている。

■駅メロになったエレカシのヒット曲

「俺たちがやってきた音楽や、人生観とか、姿勢とか、そういうものが凝縮された」「一つの総決算だった」(『俺たちの明日 下巻―エレファントカシマシの軌跡』2017 ロッキング・オン)とのちに宮本さんは語っている。2023(令和5)年12月末の紅白歌合戦でも披露された。

高崎・宇都宮方面に向かうホームでは『今宵の月のように』で、1997(平成9)年発表。ドラマの主題歌として制作され、どんなに辛いことがあっても、再び今日の月のように輝ける日は来る、という内容で、都会での仕事に疲れて家路に急ぐ人々を、横からそっと励ます選曲だ。

2017(平成29)年12月末、エレカシが紅白歌合戦に初出場した際に披露したヒット曲でもある。二曲とも発表当時は「エレカシを等身大に表現した歌」と評され、多くのファンの支持を得た。

メロディを流すにあたっては、赤羽駅では比較的、発着本数の少ない湘南新宿ラインなど三つのホームが選ばれた。京浜東北線では、電車の発着が頻繁過ぎて流せるメロディが短くなってしまい、曲の良さが堪能できない、という理由だった。ホームに立つと、そんな曲のエッセンスが詰め込まれたメロディを、じっくり味わうことができる。