PRESIDENT Online 掲載

円安で外国人観光客が増える中、かつて日本で爆買いをしていた中国人観光客は減った。なぜなのか。評論家の宮崎正弘さんは「不動産バブルが破綻し、若者が大量に失業している。海外旅行に出かける余裕がなくなり、中国国内の旅行が主流となっている」という――。

※本稿は、宮崎正弘『悪のススメ 国際政治、普遍の論理』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■中国の経済繁栄は「去った」

「中国経済は繁栄を続ける」などと多くのエコノミストや某経済新聞が煽ったが、やっぱり嘘だった。

マーガレット・ミッチェルの名作『風と共に去りぬ』。英語はGone With The Windである。

「去った」(Gone)と『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』が皮肉を込めて報じた(2024年2月16日)。中国の経済繁栄が終わり、不動産バブルが破綻し、贅沢を楽しんだ時代が去ったと多くの中国人が認識している実態を正直に伝えたのだ。

香港は2024年3月に「安全保障条例」を改定し、外国企業、報道機関にも規制を加えた。

このためVOA(ボイス・オブ・アメリカ)は香港オフィスを閉鎖する。当該『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』とて、いつまで自由な報道が可能だろうか?

この老舗英字紙は1987年にルパート・マードックのニューズ・コープに買収され、1993年にはマレーシアの華僑・ロバート・クオック(郭鶴年)のケリー・メディア社の傘下に入った。2015年には馬雲(ばうん)のアリババグループに買収された。英国植民地時代は香港政庁の御用新聞と言われた。アリババは中国共産党と対立し、馬雲が事実上、海外へ逃亡しているため、新聞経営の継続が危ぶまれている。

■中国人の旅は「安い、近い、短い」

中国の旧正月といえば獅子舞ならぬ龍舞が練り歩く。世界中にあるチャイナタウンの名物で、凄まじい人出がある。

コロナ禍があけて、旅行ブームが再開、旧正月の8日間の連休には90億人が移動すると当局が薔薇色の予測を出していた。旧正月休みがあけ、職場に戻ったところ会社が閉鎖されていたというケースも頻発した。失業者は職探しの連続である。

2024年2月14日の一日だけの中国新幹線乗客は1425万人だった。上海から杭州、蘇州などの名勝見学が圧倒的で短距離が特徴だ。1月14日から1月26日までに中国の国内新幹線を利用した人は2億3000万人だった。

合い言葉は「安い、近い、短い」(安近短)。杭州から香港への「日帰り」ツアーも新記録となり、また、日頃地方の庶民とは無縁の北京、上海、哈爾浜(ハルビン)への国内旅行も盛況だった。海外旅行には出かける余裕がなくなり国内旅行ですませたのだ。