【プロレスコラム】「追悼 輪島さん」

【プロレスコラム】「追悼 輪島さん」

第54代横綱そしてプロレスラーとしても活躍した輪島大士(本名・輪島博)さんが亡くなった。

1986年、プロレス界に転身した天下の大横綱とのお付き合いが始まった。デビュー前の米修行に同行取材した。米マット界の名伯楽たちに基礎の基礎から教わる日々。「転んだら負け」の丸い土俵から「転び方が大切」な四角いリングに戦場を移すのは、想像以上に厳しかったはずだ。

「頑張るだけです」が口癖になった。練習に取り組む姿勢は、他の練習生たちと変わらなかった。

ただ練習を終えると「横綱」を感じさせることもあった。米滞在中も「日本は何時だ?」と、日本時間を気にしていた。「柴田クン、日本にコレステロール(コレクトコール)頼むよ」と、モーテルの自室に呼ばれた。

横綱時代には、何人もの付き人に囲まれていたせいか、周囲に人がいるのが当たり前のこと。「お〜い、柴田クン」と、館内電話ではなくモーテル中に響き渡る大声で呼ばれた。こちらは翌朝早くからの仕事も控えている。連日のコールに正直、キツイ時もあった。

部屋にお邪魔すると、日本から持ち込んだ炊飯器で炊いたお米で、自ら握ったおにぎりをふるまってくれた。「食べなよ」と優しい一言。多少の軋轢は、その瞬間に消え去っていった。

海外修行を終え、日本でのデビュー戦に向け帰国した輪島さんを成田空港で出迎えた。「おお、柴田クン。元気だったか?」と、声をかえられた途端、カバンを受け取っていた。自分でも不思議だった。「アレ、俺、付き人じゃないのにな」…周りの人を動かす天才だった。

普段は「記者の目」で試合を見るのに、輪島さんの時には「身内の目」になってしまった。人気を集め、努力もしていたが「転がされたら負け」の相撲の鉄則が体に染みついていたせいか、動きが止まってしまうこともしばしばだった。

プロレスデビューして2年。「プロレスの壁」にぶち当たっていたのは間違いない。輪島さんの何気ない言葉が、気になりだした。山梨県の病院に極秘入院したという。お見舞いを兼ね、話を聞きに行った。話し好きの輪島さんが、いつになく寡黙だった。翌日「輪島 引退」のスクープ見出しが躍った。

思えば、10歳しか違わないのに「おやじ」の様な人だった。記者が結婚するとき、女房と二人で食事に誘ってくれた。「しゃぶしゃぶが美味いんだ」と、何度もいう輪島さんを制して、ステーキをお願いしてしまった。きっと、しゃぶしゃぶが食べたかったのに、すいません…。

また、輪島さんの故郷・石川県和倉温泉の「日本一の名旅館」加賀屋には、何度か一緒に訪れたが、天皇・皇后両陛下がお泊りになった部屋で、なんやかやと話をする内に、二人してうたた寝してしまった。

引退後には、輪島さんの華麗な人脈を頼って「輪島の対談シリーズ」を連載した。プロ野球、プロゴルフ、プロボクシング、芸能界、財界…超一流の人たちとの楽しいひとときだった。食通だった輪島さんが選んだ対談場所の食事のおいしさも忘れられない。

「キャットフードを食べたって、本当なの?」「うん、あまりおいしくなかった」
「卒論は名前だけ書いたって?」「名前だけは入試のとき。卒論は少し書いたよ」
なんとも失礼な質問にもまじめに答えてくれた。

輪島さん、いや「わ〜さん」。天国の土俵で北の湖さんや貴ノ花さんとお相撲とっていますか? 天国のリングで馬場さんや鶴田さん、三沢さんとコンビを結成していますか? 阿修羅・原さんとぶちかまし合戦していますか? 

「俺が死んだら、三途の川で鬼を集めて相撲を取る」というダンチョネ節がありましたが、本当にやっているんでしょうね。丸い土俵でも四角いリングでも、きっと大活躍しているでしょうね。

もちろん、一番強い横綱でしょう。

わ〜さんとの楽しい思い出は星の数ほどありますが、本当に星になってしまうなんて…。まだ信じられません。信じたくありません。

もっと話したかった。もっと会いたかった。

悲しすぎるから「さよなら」は言いません。でも「ありがとうございました」と言いたいです。

本当にありがとうございました。


プロレスTODAY編集長 柴田惣一


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