J2第24節モンテディオ山形vsいわきFCの東北対決が14日に山形・天童市内で行われ、いわきが2-1で山形を下して4試合ぶりの白星を飾った。特別指定選手として今季20試合に出場していたJ2いわきDF五十嵐聖己(せな、桐蔭横浜大4年)が今月12日にプロ契約を締結し、プロデビュー戦で先制弾をアシストする活躍で勝利を引き寄せた。

特別指定選手として加入してから主力に定着した背番号32は、この試合も優れたクオリティーを見せた。前半42分に鋭い軌道を描くロングスローを相手ゴール前に投げ込み、新加入選手のDF堂鼻起暉(どうはな・かずき)の先制ヘディング弾をアシスト。守れば早い寄せと、パワフルな球際の守備で山形の攻撃を食い止めた。

この日プロ契約締結後初の公式戦に臨んだ五十嵐(左)


「自分の感覚としては特別指定選手で熊本戦から出させてもらったときから、いわきのエンブレムを背負っている以上、プロという自覚を持ってプレーしていました。きょうは自分にとって『プロ第1戦だな』という特別な思いはなく、チームとしてリーグ3連敗している中で『チームが勝たなくちゃいけない』ということだけを考えてプレーしました」

何年もいわきでプレーしているようなフィット感で主力に定着し、取材の受け答え、ピッチ上での振る舞いは他のプロ選手と比べてもそん色がない風格を身にまとっていた。桐蔭横浜大1年次からいわきの練習に参加しており、新加入選手の大半が悲鳴をあげるほどの過酷なフィジカルトレーニングにも適応しており、いわきのサッカーにしっかり順応している。

この試合はアシストも記録して優れた対人守備も見せたが、後半は山形の気迫の攻めに押し込まれる展開があった。試合終了間際の後半48分に痛恨の失点を喫するなど、無失点勝利を挙げられなかった。

桐蔭横浜大の先輩である山形MFイサカ(左)と対峙する五十嵐


「チームとして勝てたことは、本当に良かったです。だけど自分の出来としてはちょっとマイナス点が付くくらい良くなかった感じですね」と上々の出来に思えたプロデビュー戦だったが、五十嵐はきびしい表情を見せた。

高い向上心を持って試合に挑むルーキーは自分に厳しく、浮かれた様子を一切見せない。何年もいわきでプレーしているベテランの選手のような矜持(きょうじ)を抱く姿勢は頼もしく見えた。

異例の長期帯同とプロ契約の経緯



特別指定選手としてJ2で20試合に出場した五十嵐だが、このケースは非常に珍しい。過去に特別指定選手でプロ公式戦20試合以上に出場した選手は同制度が始まって1998年以来2選手しか存在しなかった。

東北学生1部仙台大に在籍していたMF松尾佑介(現・J1浦和レッズ)がJ2横浜FCでリーグ戦21試合に出場し、昨季に特別指定選手史上最多出場記録を更新した東海学生1部名古屋学院大に所属していたFW近藤慶一(よしひと)がJ2いわきでリーグ戦26試合に出場した。

昨季特別指定選手の最多出場記録を更新したFW近藤(右)


ただこの2選手は地方の学生リーグ出身であるため大学サッカー部も協力的であったが、リーグ戦を重要視する傾向がある関東学生リーグの大学所属選手が長期に渡ってプロチームに帯同するケースは極めて異例だ。

過去にJ1北海道コンサドーレ札幌でJ1に6試合、リーグ杯に8試合出場した当時日本大MF金子拓郎(現・ベルギー1部コルトレイク)や、J2レノファ山口で2季合計でリーグ戦18試合に出場した当時慶応義塾大DF橋本健人が二桁試合に出場したが、五十嵐が現れるまでプロ公式戦に20試合以上出場した関東学生リーグの大学所属の特別指定選手は存在しなかった。

優れた跳躍力で山形の浮き球パスを頭でクリアする五十嵐(右、32番)


「本当は最初の春休み中に行われた熊本戦、甲府戦、その次のもう1戦(合計)3節くらいで、関東リーグ開幕1週間前に大学へ戻れと言われていました。自分は海外でプレーしたいという思いがずっとあって、少しでも早くプロのピッチでやることで自分の可能性を広げられるし、仕事として自分の価値を高められるんじゃないかと思いました。

ましてやいわきという素晴らしいクラブで自分の能力を高められるんじゃないかというところで大学の監督、いわきの大倉社長にもお願いして、話し合って許しをもらいました。

今回退部という形で夏の移籍期間でサッカー部を辞めさせてもらっていわきに加入しました。あまり大学ではない事例ですけど、本当にいろんな人に支えられて感謝の気持ちでいっぱいですね」と異例の長期帯同とプロ契約の経緯を丁寧に説明した。

屈指の強豪校で受けた刺激、プロで受けた衝撃



五十嵐が所属する桐蔭横浜大は2022年に大学日本一を決する全日本学生選手権(インカレ)で初優勝を飾った屈指の強豪校だ。J1川崎フロンターレで活躍するFW山田新、MF山内日向汰やJ1サンフレッチェ広島の主力DF中野就斗ら偉大な先輩と切磋琢磨してきた。

「新くんも、サンフレにいる中野くんも、日向汰くんもそうですけど、みんな日本のトップレベルのJ1で、大卒スタメンで出て活躍されています。常に先輩たちの試合を見ていますし、すごく刺激を受けていますね」

桐蔭横浜大時代に五十嵐と汗を流した川崎FW山田


ただ一方で優れた学生選手が集う関東学生1部で傑出したプレーを見せていた五十嵐だったが、プロの舞台は想像以上のレベルを見せつけられたという。

「(大学サッカーとは)まったく違いますね。なんというか『人生がかかってる』じゃないですけど、ピッチの雰囲気もサポーターさんがかける思いも。やるのは自分ですし、一戦一戦にかける思いが大学とは全然違うと思いました」とプロの舞台に魅せられて一足早いプロ挑戦を決意したようだ。

山形MF氣田と激しい攻防を見せた五十嵐(中央)


既に大学3年の内にすべての単位を取り終えた五十嵐は卒業だけを控えており、思い残すことなく残りのシーズンをいわきで奮闘する構えだ。山形戦を振り返って「きょうやったことはもう戻せないので、しっかり振り返ってこういう試合がなくなるように、自分の個人レベルを高めてしっかりやっていければと思います」と未来を見据えた。

異例の長期帯同を終えて正式にいわきに加わったスーパールーキーは、チームの主力として攻守に存在感を見せている。中断期間明けの後半戦に向けて五十嵐を筆頭にチーム一丸でいわき旋風を巻き起こしてみせる。