5月26日、2024年シーズンの天皇杯1回戦が全国各地で開催された。J3を戦う大宮アルディージャは、埼玉県代表として本大会に出場。この日は福井県にあるテクノポート福井で、北信越フットボールリーグを戦っている福井ユナイテッドFCと対戦した。

2つカテゴリが違うという立場の対戦であったが、試合の序盤でペースを握ったのはいわゆる「格下」である福井だった。

コイントスで風上のエンドを選択できたこともあり、カテゴリの差を感じさせないほどのハードな勢いあるプレーでキックオフ直後から攻撃的に戦い、プレッシングでボールを奪って、青いユニフォームの選手たちがゴール間に迫っていく。

大宮がなかなか前線にボールを運べない状態の中、福井は左サイドの“ディエゴ”こと高橋勇太の突破などを中心に攻め込む。そして10分までに押谷祐樹や高貝樹幹、前述の高橋が決定機を迎えた。





また、そのあとにも押谷祐樹のボール奪取からのショートカウンターでチャンスを作り出したものの、これもネットを揺らすことができなかった。

これらのピンチを大宮のディフェンスが防いだことにより、試合の展開は大きく変わった。31分に大宮の杉本健勇から左サイドの泉澤仁にパスが繋がり、さらにそこから裏に飛び出した小島幹敏が角度のないところからシュート。これが大宮に先制点をもたらした。





0-1というスコアで迎えた後半、その立ち上がりにも福井はいい入り方をして押谷と野中魁が大きなチャンスを迎える。

ところが60分には大宮が中野克哉のグラウンダークロスから泉澤仁のシュートで追加点を奪取し、リードを広げるという結果に。福井にとってはペースを握りかけた時間に得点できず、逆にその後に失点するという厳しい流れとなった。







さらに88分には中野克哉のシュートのこぼれ球から大澤朋也がヘディングで合わせ、大宮に3点目をもたらす。

敵地に乗り込んだ大宮アルディージャがJリーグクラブのプライドを見せ、押される時間もありながらも大きなリードを奪って勝利するという結果となった。

「勝負は紙一重、紙一重をどれだけ制するか」



昨季まで京都サンガF.C.でコーチを務め、今季から大宮アルディージャを監督として率いている長澤徹氏は、試合後の記者会見で以下のように話していた。



「環境的には少し長い芝生で、それも乾燥した状況でやるのはなかなか普段経験できないシチュエーションでした。ただ選手はとてもよく対応してくれて、しっかり点を獲って、勝てたと思います。

この強い風についてはお互い同じ環境なんですけれども、その中でもたくましく3点を獲って、そして0失点に抑えた。それは素晴らしいことだと思います。

試合は本当に紙一重だったと思います。立ち上がりにゴールキーパーの志村がピンチを防いでくれた。もしあれが決まっていたら逆の展開になってくる。それも含めて勝負ですし、トーナメントは上に上がることだけが目標なので、本当によくやってくれました。

序盤の失点を防いで「紙一重」を勝利に持ち込んだGK志村


違ったカテゴリの相手と戦うと、立場として受ける形にどうしてもならざるを得ない。世界中どこでもジャイアントキリングは起こることですし、天皇杯でも常に生まれます。

そのような事実も含めてどう勝ち切るか。我々はプロフェッショナルなので、毎回それが問われる戦いになりますね。

(次は長澤監督が昨年までいらっしゃった京都サンガとの対戦です)今度はこちらがカテゴリが上の相手に挑む立場になります。そのようなメンタリティで準備して、次に勝ち上がれるようにしたいです。

相手については、実はまだあまり見ていないんです。そして、僕個人のことはあまり関係ないと思っています。大宮アルディージャと京都サンガの戦いになるので、そこからシビアに勝負をかけていかなければならないですね」

昨年まで京都サンガで指導していた長澤監督であるが、今年に関してはあまり見ておらず、自分個人ではなくチーム同士の対戦としてシビアに戦いに行くと話していた。非常に冷静な目で2回戦の戦いを見ているようだ。

また、大宮アルディージャでプレーしている福井県出身のDF下口稚葉は以下のように試合を振り返っていた。

福井凱旋で歓迎を受けた大宮DF下口稚葉


「天皇杯は一発勝負なので難しい試合になると思っていました。前半に1点取れたので、それによって少しずつ自分たちのリズムを出せるようになりました。

入り方の点については難しい部分もあったので、勝負は紙一重でしたけど、しっかり次に進むことができたという点が良かったと思います。

下のカテゴリからジャイアントキリングを狙ってくる相手というのは勢いがあります。それを理解した上でみんな戦っていました。押し込まれる時間もありましたけど、みんなでそれを跳ね除けて3ゴールを決めて、0失点で抑えたということが一番の収穫ですね。

僕個人としては、福井ユナイテッドのサポーターの方から自分のコールもしていただいて、とても幸せでした。在籍したわけでもないのに福井の方に愛されて。そのような実感はなかなか得られないので、すごく嬉しかったです。

(天皇杯2回戦では京都サンガとの対戦になりますが)試合は自分たちが攻める時間もあれば、守る時間もあるもので、チャンスもあればピンチもある。

そのような紙一重のところをどれだけ制するか。それが今僕たちが取り組んでいることです。今までは立ち向かってくる相手に戦ってきましたが、次はカテゴリが上の相手にチャレンジする立場。それは僕自身もすごく楽しみですし、次に駒を進めるという意味で京都に勝って上に行きたいです」

長澤徹監督と同じく「紙一重」という言葉を口にした下口稚葉。今回はそれで勝利することができ、そして京都との試合でもその「紙一重」を制する試合にしたいと語っていた。

「JFLで戦えるチームを作るための基準に」



一方、福井ユナイテッドFCを率いている藤吉信次監督も以下のように振り返り、個人の力がある相手に対してはもっと自分たちに厳しくプレーしないといけないと語っていた。



「大宮さんと公式戦ができる機会はなかなかない。そこで自分たちの力を試そうと、最初からいい形で入って、チャンスも多く作れていて、いい戦いができたんですけど…。それで0-3で負けたのは、まだまだ僕たちに足りないものがあるということ。

福井で開催できるということで、地元の皆さんも大宮のサポーターの方もたくさん見に来てくれました。福井のサポーターのみなさんも最後まで応援してくれて本当に励みになりました。

選手たちも0-3で負けていても最後まで諦めずにやってくれたのが良かったと思いますし、誇りを感じます。

足りなかったところは、最初の失点の部分でも見えた球際の部分や戦うところ、そして決めきる力ですね。個人の能力がある相手にそれを許してはいけないですし、もっと自分たちが厳しくやっていかないといけない。

やっぱり最終的にサッカーは結果が全て。いくらボールを保持しても、0-3で負けたら意味がない。天皇杯はこれで負けてしまったので、次は北信越リーグでJFLに上がれるようにこだわってやっていきたいと思います。

勝ち切るという勝負どころの部分はとてもいい勉強になりました。JFLに上がるだけではなく、JFLで戦えるチームを作ろうとしているので、それを基準にして求めていきたいと思います」

そして福井ユナイテッドFCの社長を務めている服部順一氏は自身のSNSで「暑い中たくさんの応援ありがとうございました。完敗です。学ぶことしかありません。更に高い緊張感で毎日の精進です」と投稿するとともに、福井まで観戦に駆けつけた多くの大宮アルディージャのサポーターにお礼を述べていた。

福井まで駆けつけた大宮アルディージャのサポーター


福井に勝利した大宮アルディージャは、このあと6月1日に長野パルセイロとのホームゲーム、6月9日にツエーゲン金沢とのアウェイゲームに臨み、そして6月12日にたけびしスタジアム京都で京都サンガF.C.との天皇杯2回戦を迎える。

J3では10勝3分け1敗という好成績で首位に立っている大宮。2カテゴリ上の京都サンガを相手にどのような戦いを見せるのか。長澤徹監督が述べる「シビアに勝負をかけていく」試合はどのようなものになるのか。改めて注目の試合になりそうだ。