2022年1月に開幕を予定しているラグビー新リーグが混迷している。ディビジョンの振り分けをめぐるリーグとクラブの平行線、開幕まで1年を切ったタイミングでのかじ取り役の交代……。改革の真っただ中にあるラグビー界に今、何が起きているのか? 混迷の背景を探る――。

(文=向風見也、写真=KyodoNews)

ディビジョン1参入をめぐる混乱。ラグビー界の足並みは…

もめて何が悪いのだ。国内ラグビートップリーグに所属するチームの関係者は言う。

「すったもんだをして、いいものができればいい」

2019年のラグビーワールドカップ日本大会を活況で終えた日本ラグビー界はいま、2022年1月の新リーグ開幕へ準備を進めている。

「誤解や臆測を生む可能性」? 突然の新リーグ準備室長交代

一筋縄ではいかない点も含め、想定内なのだろうか。

2021年3月まで新リーグ創設へかじを取ってきた準備室では、今年2月中旬までに室長が交代。谷口真由美・日本ラグビー協会(日本協会)理事から岩渕健輔・同専務理事にそのバトンが渡され、谷口氏が兼務していた同リーグの審査委員長に専念することとなった経緯は、公式発表でなく報道で伝わった。

「谷口理事が審査委員長の業務に専念するに際しての変更となります。谷口理事が室長と審査委員長を兼務していたところ、岩渕専務理事が室長として対チームとの調整を行うことで、(本格稼働する)6月に向け準備を加速させる目的です。本交代については、2月17日の(日本協会の)理事会にて新リーグ準備室からの報告がありました。2月18日にチームに(経緯を)説明してからは公表可能な状態でありましたが、特に公表、発信していない理由は、2月18日以降に取材や会見の予定、機会がなかったからです。そのことで誤解や臆測を生む可能性があるというご指摘はおっしゃる通りと存じます。今後適切な情報公開についてあらためて検討いたします」

日本協会の広報部がこう反省した背景では、審査の明確性が争点になった。

今度の新リーグへ参戦するのは現在のトップリーグ16チームを含む計25チーム。上から順に12、7、6チームずつの計3ディビジョンに分かれる。審査委員が、ホームスタジアムの有無および使用回数の見込み、地域との関わり方、若年層向けのアカデミーの有無や運用ぶりを重視して振り分ける。

各クラブが収益を出して責任企業への一方的な依存から脱却するのが、今度の新リーグ発足の狙いの一つだ。競技成績以外の審査項目が全体のうち「8割」程度の比重を占めるといわれ、その「8割」の審査は昨年のうちに済んだ。

新リーグのディビジョン1は多彩な顔ぶれに?

各クラブの暫定順位は2021年からのトップリーグの開幕前に個別に伝えられ、某クラブの首脳いわく「それ以外のチームの順位は、それぞれでお互いに話し合って知った」。関係者の話を総合すると、上位層の「ディビジョン1」は多彩な顔触れになりそうだとうかがえる。

今季初の8強入りを果たしたNTTドコモ レッドハリケーンズは、過去には大阪府内のラグビースクールが競い合う「ドコモカップ」という大会を11回、実施。グラウンド内ではずっと2ケタ台の順位に苦しんできた中、大方の審査が済んだ段階では高評価を受けているとみられる。

会場でのベースボールシャツの配布やSNSでの情報発信に意欲的なクボタ スピアーズ、近隣のラグビースクールや地元小学校との連携に自信を持つリコー ブラックラムズの関係者も、具体的な暫定順位こそ明かさないが「ディビジョン1でやるつもりで準備しなければ」「(ディビジョン1入りは)最低限の責任」と述べている。果たして今季のトップリーグでは、いずれも8強入りした。

今度の選考方法は、早い段階で各部へ通達済みとのこと。もしも強豪クラブがディビジョン1に入れそうになかったとしても、この段階までくれば異論を挟む余地は少なそうだ。

男子15人制日本代表の藤井雄一郎ナショナルチームディレクターも、事情を察してか、新リーグ発足時の所属先のディビジョンは代表選考にさほど影響しないのではとの見方を示す。

リーグとクラブの間で起きる平行線の背景

一方で、新リーグの理念に沿った働きを重ねてきたにもかかわらず暫定順位が満足のいく結果ではなかったと漏らすクラブもある。

地元で大規模な国際大会を開いてきた地方の星は「ディビジョン1」から遠ざかっている可能性が高く、広大な練習施設を地域交流の場とする新興勢力も「ディビジョン1だが誇れる順位ではない」と漏らす。

自軍の順位に釈然としないクラブの関係者は「ホームスタジアムが新リーグの一丁目一番地だと聞いていたが、順位の背景に納得できないでいるとホームスタジアム以外の点を指摘された」「新リーグ側はその時々で言っていることが違う」と首をかしげる。

これまでの新リーグの順位付けで議論が起きたのは、リーグ側とクラブ側との間で着眼点のずれがあったからだろう。

審査結果の背景や具体的な数値が明らかであればより平和的に着地もできそうだが、新リーグ側も、透明性の担保のために詳細は明かせないという。

人権感覚に長け、「プロセスの丁寧さは担保しないと」「(2022年1月の開幕までに時間がない中でも)急がば回れ」とする谷口元準備室長の見解には、賛意を示すクラブもあった。一方、過去の成績と新リーグでの暫定順位がアンバランスかもしれぬ老舗企業の要職者は、「岩渕さんがいなかったら(話が)進まないということ」と述べる。

かくして谷口氏が引き続き審査業務に専念する一方、クラブとの直接的な対話をする役目は岩渕氏に委ねられた。岩渕氏は男子15人制日本代表のマッチメークや男女7人制日本代表の管理や指導にも従事。協会の要として知られる。

二転三転してきた新リーグの議論。現状の構想は折衷案

2019年のワールドカップ日本大会以後のラグビー界の形をめぐっては、新リーグの議論が始まるよりも前から二転三転してきた。

まずはかねてより、トップリーグクラブの若手スタッフがサッカーのような「ホーム&アウェー」の発想を採り入れた「トップリーグネクスト」の構想を温めてきた。

ところが2019年7月、就任したてだった清宮克幸副会長がバスケットのBリーグの立ち上げにも携わった理事も携えプロリーグ構想を打ち出す。

このプランでは、参加クラブの法人化が義務付けられた。ここで運営形態を変えづらいチームが間もなく難色を示したことが、トップリーグネクストとプロリーグの折衷案のような新リーグ案の浮上、谷口氏の準備室長就任につながったのである。

「すったもんだ」が重なりながらも、物事は前へ進む。

日本協会は2021年4月1日付で、新リーグの試合や大会の興行権を一般社団法人ジャパンラグビートップリーグ(JRTL)へ委譲した。JRTLが本格的に稼働する 2021 年 6 月までの期間は、トップリーグの「新リーグ共同検討委員会(検討委員会)」が収益の配分や外国人枠の設置などについて週に1度のペースで議論する。

検討委員会のメンバーにはトヨタ自動車ヴェルブリッツや東芝ブレイブルーパスなどの新リーグ参加チームの首脳、岩渕氏ら協会幹部が並び、共同委員長には岩渕に加え、JRTL理事にもなる玉塚元一・デジタルハーツホールディングス代表取締役社長CEOが就く。

4月29日、同法人代表理事で現トップリーグチェアマンの太田治がオンライン会見に登壇。ディビジョンの振り分けについては「審査委員会がやられていると思います」とあらためて強調し、その決定を受け入れる旨を了承した。

「(共同検討委員会のメンバーは、新リーグに参加する)25社から自薦他薦をしていただいて、投票で決まりました。(立候補者は)15くらいです。ラグビー界全体の価値を高めるのが(新リーグの)前提です」

昨今の状況の変化に伴い、強化規模の縮小や参加申請の取り下げを申し出るクラブもゼロではない。検討委員会には、業界の先細りを防ぎながらの説明責任の遂行が求められよう。

なおこの会見の翌日、コカ・コーラ レッドスパークスが活動停止を発表した。太田氏は書面で同社への謝辞、各部が「持続的かつ成長を伴った運営を実現し得る」ことを目指すと回答した。

森喜朗氏の最近の動向。先祖返りは「ない」

改革のただ中とあって、問題が起こるのは必然と取れなくもない。ここで問題の収束以上に期待されるのは、問題すら起こらない閉塞的な状況の回避である。

過去のラグビー界へ強い影響を残した一人に、元総理大臣の森喜朗氏がいる。日本協会の会長や名誉会長を歴任し、2019年6月に当時の日本協会幹部へ一喝。若返りを促して自らその隊列を去り、間もなく清宮氏が副会長、岩渕氏が専務理事、谷口氏が理事にそれぞれ就いた。

その森氏は最近、観客席と異なる場所でのラグビー観戦をするなど従前にない動きを示す。2021年2月、それまで務めていた東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の会長を自らの舌禍で辞していた。

一部で報じられる、森氏の辞任と森氏の発言へ多くのコメントを出した谷口氏の人事との関係性はなきに等しかろう。現在の日本協会の幹部も、「先祖返り」のリスクについて「それはないでしょう」と断言する。

ただし現体制発足の経緯を踏まえ、歪曲(わいきょく)的に危機感をにおわせる協会理事がいるのも事実だ。2021年6月には役員の改選がある。候補者選考委員会は選定済みで、その顔ぶれは非公表だ。

岩渕氏は2月、定例理事会後にこう述べている。

「森元会長のラグビー界への多大な貢献については言うまでもなく、感謝をしています。オリンピック(・パラリンピック)の組織委員会会長を辞任されたことの影響でいうと――どのような形になるのかはわかりませんが――ラグビー協会としてはオリンピック種目の一つの団体として貢献しなければなりませんし、ラグビーワールドカップ(日本大会)でいろいろな皆さまに支えられたことに対し、未来のためにやっていかなければいけないと思っています」

問われるのは、歴史に学ぶ力

さかのぼって2019年3月、日本唯一のプロクラブだったサンウルブズが参戦していたスーパーラグビーからの2020年3月限りでの撤退が決まった。

現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、スーパーラグビーそのものがニュージーランドとオーストラリアでの国内戦が主体となってはいる。ただしサンウルブズがスーパーラグビーの輪から外れると決まったのは、時代が変わるよりも1年ほど前のことだ。

リーグの運営団体へ推定約10億円の参加費が払えなかったのが原因と説明されたが、それをうのみにする関係者はどれほどいるか。

岩渕が専務理事になる前だった当時の日本協会は、スーパーラグビーの事業へやや消極的に映っていた。名誉会長だった森氏が競技の発展とは異なる理由でサンウルブズを好んでいなかったことは、周知の事実である。

2016年からのサンウルブズのスーパーラグビー入りへ尽力しながら、2019年までに日本協会を去ることとなった元幹部の一人は、サンウルブズの離脱の背景についてこう漏らしたものだ。

「皆、忖度(そんたく)しちゃうんだから」

ワールドカップという名の歓喜の直前に悲劇が起きてから、2年がたった。いま本当に問われているのは、歴史に学ぶ力である。

<了>