欧州各国リーグを渡り歩き、国境や文化の違いを超えて選手としての評価と、人としてのリスペクトを勝ち取ってきた岡崎慎司。欧州でプレーする日本人として多くの理不尽や葛藤も経験しながら、岡崎がたどり着いた境地とは。幾多の経験を積んできた彼の言葉の数々には、日本サッカーが世界と伍するためのヒントが詰まっている。

(インタビュー・構成=中野吉之伴、写真=Getty Images)

「とにかく下ネタを連発」は本当に必須条件?

日本人選手が日本から外の世界に出る際、まずはそこに馴染んで、認められることが必須条件だとされている。馴染むためには「いじられキャラになったらいい」とか、「みんなの前で歌ったら仲間に入れてもらえる」とか、「とにかく下ネタを連発したら面白い奴だと思われる」とか。日本メディアもそうした話を面白おかしく取り上げ、「それができたらチーム内での居場所は確保できる!」というイメージが定説化しているかもしれない。

これらは本当に必須条件なんだろうか?

もともとこういったことが得意な選手はいい。でも、そういうタイプでもないのに無理してまでやらないと打ち解けられないものなのだろうか? プロレベルとは比べようがないかもしれないが、筆者はドイツに来て20年以上になるが、そういうアプローチをしたことは一度もない。それでも選手としても、指導者としても確かな信頼関係は築けている。

「そういうキャラづくりについて、ヨーロッパの人たちは別に何とも思ってないと僕も思うんですよね」

ドイツ、イングランド、スペインと渡り歩いてきた岡崎慎司はそう語る。

「日本でもある光景だと思うんですけど、無理して自分ができないことを最初にやっても、結局苦しむのは偽っている自分となってしまう。それと一緒で、ヨーロッパでも自分を偽ったキャラがついてしまったらあとで苦しくなる。

 サッカー面でも一緒なんです。例えば、最初に“ミスをしないプレー”を認められてしまったらどうするのか? シュツットガルト時代の最初に“献身的な守備”と“ミスをあまりしないでゲームをつくる”というところを認めてもらったんですよ、監督(ブルーノ・ラバディア)から。

 当然チームメートからもそういうふうに見られて、僕はうまい選手の部類に入ってしまったんですね。その先入観ってやっぱすごいんですよ。『こいつはこういう選手なんだ』ってなってしまうと、それこそたった1回ミスしただけですごい文句を言われる。あのころは試合で60分ぐらいになると、僕がミスするのを待っていたかのように監督がたった1回のミスで僕を交代させるんです。でもミスもたくさんするけど、活躍する選手がいるとするじゃないですか。彼らは交代させられずに90分間プレーしているわけです」

欧州でプレーして感じる理不尽、そしてやりがい

選手のタイプで使われ方が変わってくる例として、岡崎はシュツットガルト時代の同僚である元オーストリア代表マルティン・ハルニックを挙げた。右サイドからスピードとパワーを生かした突破が持ち味で、威力のあるシュートで意外性のあるゴールを何度も決めていた選手だ。

「僕が左サイドで右サイドがハルニック。彼は何回も同じミスをするんですよ。例えばサイドバックから縦パスもらったときに、ボールを自分の股の間を通して相手DFと入れ替わってというプレーを試合中に何度も狙うんです。『もうお前、それ無理だよ』と思うんですけど、何回、何十回かに1回成功するんです。で、褒められる。そういうのを見ると、『いや、ずるいやん!』って思ったりもするんですよ。これは一つの例ですけど、ミスのことなんか考えずにやって、その一発で結果を残すようなやつがヨーロッパにはいっぱいいる。だからその中で、どこで勝負するかっていうのが大事になってくる。

 やりがいを感じることもたくさんあります。僕もブンデスリーガに行ったばかりで、言葉もまったくしゃべれなくて、受け入れてもらえている感もほとんどなくて、でもUEFAヨーロッパリーグのベンフィカ戦で初めて使われて、試合後にバスに帰ってきたら、『お前今日良かったな!』みたいな感じで拍手されて。気持ちよかったですね。

 日本を離れる時点で、日本では守られていたものが一切なくなるじゃないですか。そんななか、何か一つ認められたときに、全部自分で乗り越えたという自信が湧いてくる。やっぱり楽しみとかやりがいがすごくあります」

欧州でチームから求められる要求に応えながら、自分の目指すべき姿も思い描き続け、どのようなキャリアパスを描くのかも難しい問題だ。

「監督が要求することに対して取り組むことが、自分が『選手としての成長のためにやりたい』ことだったら問題なくやれるし、自分もそれですごくうまくなった部分もあります。シュツットガルト時代だとサイドでのプレーであったり、タメをつくるプレーなどのクオリティは上がったと思いますし、仲間も苦しいときにボールを預けてくるようになったので。

 でもどこかでそのままでいいのかという段階がくるんです。『もう俺これは全然できるから次へ!』って欲求が出てくる。自分としてはこういうふうになりたいのに、でも『お前はそのままでいい』と監督からは考えられてしまう」

日本人選手が交代要員にされてしまうことが多い理由

監督から求められているプレーを高いレベルでこなし、そこを褒められて、でも選手として自分が求めているプレーイメージとはなかなかかみ合わずに我慢を続け、結果、交代要員になってしまうことがよくある。岡崎にも迷った時期がある。

「チームの調子が悪くなったりすると、僕が数字を出せていないことを理由にされるんですよ。ヨーロッパの人から見た日本人選手が持つ良さというのは、バランスを取ってくれたり、守備を頑張ってくれるところだと思うんですけど、ただそれだけだと試合中に交代要員にされてしまうことが多いんです。そこはわかっておいた方がいいですね。

 わかっておけば自分で気づけるし、途中交代となってもそれを誰かのせいにせず、ヨーロッパでサッカーをするってこういうものだと認識できる。ヨーロッパのサッカーにそろそろ慣れたかなとか思っているときにそこのギャップが出てきたりします。

 だからそうしたゾーンから脱却しようとするときには、ある程度ミスを繰り返したとしても、チャレンジする機会が絶対に必要なんです。FWとしてそこを怖がってしまうと、そういう選手として落ち着いていってしまう。だから、そういったときに言葉で伝えていくのは大事だと思いますね。『こういうチャレンジをしたいんだ!』という話を監督にしたら話せば話すほど理解はしてくれる。リスペクトはしてくれるって今だったら思うんです」

そうはいってもなかなか監督に直接アプローチするのは簡単なことではない。日本だとそうした習慣も環境もなかなかない。まして海外では母国語ではない言葉という壁もある。岡崎も海外初挑戦のクラブとなったシュツットガルトでは、あまり監督やコーチに自分の思いを伝えることができなかったと振り返る。

「通訳の人がいたので、その人を通して話していたんです。これは良くも悪くもなんですけど、通訳がついてしまうと通訳に選手も監督も頼ってしまうというのはあると思うんです。

 当時は監督が通訳を信頼しすぎて、監督が通訳に僕がいないところで相談したり、通訳が意見を言ったり、僕がいないところでそういうやりとりがあって。のちのち全部自分に矢印を向けるためにも、通訳は入れない方がいいなと思いました。今はほとんど通訳を使っていないですし、そっちの方が絶対いいと思います」

「チームプレーはできて当然。そのうえで…」

チームプレーと自分のプレー、どちらを優先すべきかという議論は絶えない。欧州では特にオフェンス陣は数字が大事だといわれる。とはいえ数字さえあげていれば後は何をしてもオッケーとはならない。ゴールが大事、アシストが大事とはいえ、それだけを求めてプレーしていたら監督としては使いにくい選手になるというのは事実だ。チームがどんなプレーを求めているのか、チームのために何をするべきなのかという理解を外すことはできない。

「もう本当にその通りだと思う。やるべきことはいっぱいある。日本でも点は取りたいけど、苦しいときにキープができなかったら、評価されなかったりしますよね。ただヨーロッパだと、日本みたいにチームのためのプレーさえやっていたら、ゴールはおまけみたいな感じにはならない。チームのためのプレーはできて当然という感じです。海外に来るってことはそれだけ厳しい場所だってことですね。チームプレーはできて当然で、もちろんそのうえで結果も求められる。

 だから点を取ることで勝負するんだったら、最初はある程度ミスをいっぱいしてもいいから逃げずにチャレンジして、そこを評価される形で勝負してもよかったんじゃないかなと思うところはあるんです。ただ、それがどの段階でなのかは正直、その人によると思います。僕は最初ドイツを知らない状態で入って、やっぱり慣れたかったというのはありました。でも、例えば一度レギュラーを外されてサブになったときはチャレンジができるようになるんですよ。

 そこで、自分がどういう選手かまた一から見せていくときに、『いや、俺はこうやりたいんだ!』と監督に直接言ってもいいと思うんです。あのころの僕は変なプライドもあって、監督とコミュニケーションをとって、そこでうまくやっていく考え方がなかった。ただ今になって、スペインに来て似たような環境にいるなと思ったとき、自分がすっきりするのであれば、当然監督とだっていっぱいしゃべってもいいと思うんです」

かつては監督一人がほとんどの権限を握っていて、「監督に起用法について意見したら干されてもうプレーなんてさせてもらえない」なんて話もあった。今もそうした監督がいないわけではない。だが昨今の欧州サッカー界において、監督のワンマンプレーはほぼ許されない時代になってきている。監督にはより選手、コーチングチーム、スタッフ全体の意見を集約し、マネジメントを円滑にする能力が求められるのだ。

だからこそ、選手サイドにも「ただ文句をぶつける」のではなく、自分がどんなプレーをしたいのか、どんなプレーでチームに貢献できるのか、自分がどこで失敗しているのか、をある程度理解しながら、監督やコーチと論理的に意見をぶつけ合うということも、互いに理解し合ううえで必要なことではないだろうか。

<了>






PROFILE
岡崎慎司(おかざき・しんじ)

1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。スペインリーグ2部・カルタヘナ所属。ポジションはフォワード。滝川第二高校を経て2005年にJリーグ・清水エスパルスに加入。2011年にドイツ・ブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍。2013年から同じくブンデスリーガのマインツでプレーし、2年連続2桁得点を挙げる。2015年にイングランド・プレミアリーグ、レスターに加入。加入初年度の2015-16シーズン、クラブ創設132年で初のプレミアリーグ優勝に貢献。2019年に活躍の地をスペインに移し、ラリーガ2部のウエスカに移籍。リーグ戦12得点を挙げてチーム得点王として優勝(1部昇格)に貢献。2021年8月より同じくラリーガ2部のカルタヘナでプレーする。日本代表としても、歴代3位の通算50得点を記録し、3度のワールドカップ出場を経験。2016年にはアジア国際最優秀選手賞を受賞している。