中国では大学生など若者の間で、1980年代初頭に登場した軍服式の深緑色のコートの人気が“爆発的”人気という。ファッション性や機能性、着心地がよい各種防寒着があふれる現在、なぜ旧式のコートに飛びつく若者が増えているのだろうか。

中国語で古い軍服式の深緑色のコートは「軍大衣(ジュンダーイー)」と呼ばれる。広く出回るようになったのは1980年代初頭だった。当時の中国ではすでに改革開放政策が採用されていたが、さまざまな種類の商品について「多くのブランドが売り出されて競争する状況は、完全には成立していなかった。生活必需品でも、1商品種については、購入できるブランドは1種類だけといった場合が珍しくなかった。代替品のない「軍大衣」は冬の必需品となり、街を歩けば男性も女性も着用している光景が出現した。

その後、市場経済が浸透するにつれて、革ジャンパーやダウンジャケットなどが出回るようになり、「軍大衣」は旧式の“ダサいコート”の見方が広まった。まず、「軍大衣」は綿入れだ。保温性は確かによいが、布団を着用して歩いているようなもので、かなり重い。しかもデザインは単一で、色合いは深緑色のものばかりだった。そのため「ファッション性が欠如」と見なされるようにもなった。そのため街では、屋外で労働する人が古びた「軍大衣」を着用しているぐらい、といった状況になった。

では、今なぜ、若者の間で「軍大衣」が爆発的な人気なのか。

若者の間の「軍大衣」ブームの“起爆剤”は瀋陽農業大学学生によるネット投稿だったとされる。「軍大衣」を着た男子学生8人ほどが次々に教室に入り、周囲の学生が見物している様子の動画が投稿されると、200万人近くが「いいね」を押した。それ以外にも、同様の動画が次々に投稿されるようになった。投稿場所は河北省、遼寧省、山東省などの中国北部に集中している。

中国メディアの毎日経済新聞が、「軍大衣」着用の動画を投稿した瀋陽農業大学の学生に話を聞いたところ、「思いつきでした。冬用の服を買おうと考え、『軍大衣』がよいと思ったので、同級生数人で相談して一緒に買いました」と説明した。動画が大ヒットするとは思っていなかったという。同学生は、「軍大衣」を買ったので、しばらくはダウンジャケットなどを買う気はありません。ただし、どんな場面で『軍大衣』が適しているわけではないので、ダウンジャケットはやはり、持っている必要があります」と説明した。

河北大学学生のYさんによると、1週間前にネット通販を利用して「軍大衣」を78元(約1600円)で購入した。「軍大衣」を着て街を歩くと注目されてしまうので気まずい思いをする。ただしYさんは屋外で自然写真を撮影するため、防寒着は必須だ。ダウンジャケットは木の枝で傷つくことが多いので不向きだ。「軍大衣」ならずっと丈夫だし、仮に傷ついても、価格を考えればさほど「痛く」はないという。

瀋陽農業大学学生が投稿した動画にも「ダウンジャケットを買えないわけではないが、『軍大衣』の方が、費用対効果がずっとよい」といったコメントが寄せられた。一方で、防寒着として普及したダウンジャケットは値上がりが続いてきた。中華全国商業情報センターのまとめによると、2015年には438元(約9000円)だったダウンジャケットの価格は、20年には656元(約1万4000円)に達した。防寒性に優れたすその長いジャケットの場合、価格は1000元(約2万1000円)を突破し、うち7割近くのジャケットが2000元(約4万2000円)になった。

中国のネット通販プラットフォームは11月11日を中心に、こぞって販促キャンペーンを実施する。いわゆる「ダブルイレブン」だ。ある調査によると、今年(23年)の「ダブルイレブン」期間中の「軍大衣」の販売額は前年同期比181%増だったという。

「軍大衣」ブームの背景には若者の遊び心もあるとされる。ネット通販では、数着分のまとめ買いをするケースが目立つという。ルームメートやクラスメートが皆でおそろいの「軍大衣」を着用して楽しむという趣向だ。安価で実用性があり、皆で着用して目立つとなれば、若者が飛びつくことも納得できる。「寮生全員で買いました」などとするコメントも目立つ状態だ。

ただし、「軍大衣」ブームには地域差が大きいとされる。四川省成都市の労働関連用品を販売する店の経営者によると、「軍大衣」の近年の顧客は、工事を請け負う会社などによる集団購入や高原地域に行く観光客ぐらいで、年間の販売数は500着ほどだ。今年も状況に変化はない。

同経営者は「中国北部は寒いので需要がある、としか言えません。何しろ暖かくて安価な商品ですから。でも中国南部では、若者や一般市民が『軍大衣』を購入することは、ほとんどありません」と説明した。一方で、山東省で同様の商品を扱う店の経営者によると、11月ごろから「軍大衣」関連の問い合わせが連日入るようになった。今年はダウンジャケットが売れなくなり、「軍大衣」の売り上げが例年の3倍になったという。

「軍大衣」を巡る状況については、かつてと現在では本質的な違いがある。かつては防寒着として「軍大衣」以外の選択肢はほぼなかったが、今では数多い商品種の一つとして「軍大衣」を選ぶ人が増えている点だ。毎日経済新聞は「現在の『軍大衣』の爆発ぶりを見ると、ブームをリードするには若者の力が必要だと痛感するばかりだ」と論評した。(翻訳・編集/如月隼人)