山口貴也、梅川崇

[東京 14日 ロイター] - 東芝の外部弁護士がまとめた調査報告書が波紋を広げている。改正外為法の運用を巡る経済産業省の主張と食い違う部分も多く、運用面での不透明さが解消できなければ対日直接投資に響きそうだ。政府が近く決定する経済財政運営の指針(骨太方針)では、中国などへの先端技術流出を念頭に「投資審査・事後モニタリング(監視)」の体制強化もうたうが、今後の議論にも影響が出かねない。

報告書を作成した弁護士らは、東芝の筆頭株主でシンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントが選任した。報告書は東芝が2020年7月末に開いた定時株主総会について「公正に運営されたものとは言えない」と結論づけ、経産省とのやり取りは「少なくとも改正外為法の趣旨を逸脱する目的で、不当に株主提案権の行使を制約しようとするものだった」とも指摘した。

改正外為法は19年11月の臨時国会で成立し、20年5月から施行された。問題となった東芝の株主総会は施行直後に行われた。

自国への直接投資に関する審査体制では、主要7カ国(G7)の多くが指定業種への事前届け出や審査を義務付けている。17年にイタリアが法改正で指定業種を拡大したほか、18年には米国が事前届け出制度を導入。ドイツは18年の政令改正で、事前審査の対象割合を従来の25%から10%に引き下げた。

事後介入では、フランスが19年に法改正を行ったことで全てのG7各国が株式売却を命令できる体制を取っている。米国のトランプ前大統領が中国を念頭に外資規制を強化して以降、米欧で規制の見直しが相次ぎ「日本が抜け穴になる状況を是正するためにも法改正の必要があると、最初に持ち掛けたのが経産省だった」と、当時を知る政府関係者の1人は振り返る。

この関係者によると、安倍官邸(当時)は「株価に影響しかねない。外資の締め付けに見える」との懸念から一度は退けたが、海外からの対日投資の影響を考慮し財務省が草案作成を引き取った。改正法では10%以上とする従来の基準を1%とし届け出が必要となる範囲を一気に広げた一方、政省令などで証券会社の自己売買や経営に関与しない外国運用会社を対象外とする特例も設けた。

改正法案の国会審議では、麻生太郎財務相が「株主による企業との建設的な対話は非常に重要。今回の法改正(の目的)はアクティビスト排除ではない」と繰り返し答弁した経緯がある。

今回、東芝の調査報告書が浮かび上がらせたのは「外為法による関与がどこまで正当化されるのかが不透明なことだ」と、在京の市場関係者は言う。報告書は経産省元参与の水野弘道氏の関与に言及したが、経産省幹部による「元参与に投資家への働きかけを依頼した事実はない」とする5月の国会答弁とは食い違う。

梶山弘志経産相は11日の閣議後会見で「外為法の執行に当たっては国の安全などを確保する観点から規制対象となる株主の行為を審査する上で、事業者から情報を得ることもある。こうした対応が直ちに問題になるとは考えていない」と述べた。ただ、事実認識の異なる現状では「(報告書を受けた)東芝と、経産省が今後どう説明するかで日本市場への疑念が深まりかねない」と、前出の市場関係者は語る。

懸念されるのが対日投資への影響だ。日本への海外からの投資はただでさえ少なく、実質国内総生産(GDP)に対する直接投資残高の比率は20年末時点で7.4%と、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の56.4%からも大きく差を付けられ、G7では最も低い。

政府は18日に閣議決定する骨太方針で、20年末に39.4兆円まで積み上げた対日直接投資残高を「2030年に80兆円、GDP比で12%とする」ことを新たな目標に掲げるが、筋書きどおり達成できるかが焦点となる。

骨太では、外為法上の投資審査・事後監査について「関係府省庁の連携強化を進めつつ、執行体制の強化を図るとともに、指定業種の在り方にかかわる検討を行う」との考えも打ち出す。

重点審査対象となる「コア業種」に指定されている楽天グループや日立金属などに対する海外企業の出資、買収案件が今年に入って相次ぎ、複数の政府関係者によると、改正外為法に基づく手続きに入っているとみられる。別の関係者は「安全保障の観点から意見交換は重要。改正外為法があるからこそ、こうした議論も生まれ、世界の潮流に照らし合わせても法律自体は意義深い」と体制強化の狙いを語る。

しかし、外為法の恣意(しい)的な運用が疑われ、米資産運用会社ブラックロックなど海外勢の疑念が再燃するようだと、対日投資拡大の政策に反して目標が遠退くだけでなく、「監視強化の議論に飛び火しかねない」(前出の関係者)と懸念する声も出ている。

(山口貴也、梅川崇 編集:田中志保)