竹本能文

[東京 18日 ロイター] - 一転して緊急事態宣言の発出に舵を切った14日の政府の対応は、すでに新型コロナウイルス対策を巡って後手後手の印象が強まっていた菅義偉首相の求心力に影を落としつつある。歯止めがかからない支持率低下と相まって、急な方針変更は政策の信認を揺るがしかねないとの声が与党内から聞こえ始めた。

北海道、広島県、岡山県に緊急事態宣言を出す方針に転換した14日朝の政府の決定について、政権・与党関係者は表向き静観している。公明党の石井啓一幹事長は同日の記者会見で、「政府も『完全無謬』ではないから、専門家の意見をしっかり受け止めてより良い方向にしたことは、別に批判されることではない」と擁護した。

菅義偉首相は14日の記者会見で、「北海道は感染者の7割が札幌に集中しているため、(エリアを限定して営業時間短縮を発令できる)まん延防止(等重点措置)で適切と考えていた」と釈明。「岡山・広島も、まん延防止でも酒提供禁止など強力な措置ができると考えいてた」と語った。

ある政府関係者は「首相に変異株の脅威が十分事前に伝わっていなかったのでないか」と話す。

しかし、いったん固めた方針を一転させるという異例の事態が起きたことで、首相の求心力への影響を懸念する声は少なくない。ある自民党中堅幹部は、「首相の政策や方針が今後信認を失うことはあるだろう」と話す。

政府案はそもそも、専門家とすり合わせたうえで練り上げるものだ。時事通信の元解説委員で、政治評論家の原野城治氏は「感染対策を厚生労働省と政権与党が進める中で、専門家はこれまで政権側についていたが、変異株や五輪に対する政権の対処の仕方が悪いため、官僚側につきはじめた」と解説する。

複数の関係者によると、5月11日の期限が31日まで延長された現在の緊急事態宣言についても、経済への影響を注視する菅首相は早期解除にこだわっていた。しかし、感染状況の推移から、政権内では延長は不可避との見方が大型連休前にすでに支配的だったという。1カ月以上実施した過去2回と比べ、2週間と期間が短く「首相以外は誰も11日で解除できると思っていなかった」と、政府・与党関係者は語る。

昨年は観光需要喚起策GОTОキャンペーンに固執し、内閣支持率の急落を経て12月に全国停止に踏み切ったこともあった。14日の一件で「首相の孤立が更に深まるかもしれない」と、別の自民党幹部は指摘する。

朝日新聞が5月15、16日に実施した世論調査で、菅内閣の不支持率は47%と4月の39%から8ポイント上昇した。一方、支持率は40%から33%へ7ポイント低下した。

10月21日に任期満了となる衆議院は、遅くとも同月24日までに解散・総選挙が行われる見通し。世論からの支持率が低下する中で、「解散前に(自民党の)総裁選が必要との声が高まる契機になるかもしれない」と、別の自民党幹部は話す。

菅首相は9月末に自民党総裁の任期を迎える。菅氏は4月23日の記者会見で、自身の任期までに総選挙を行う考えを示している。

政治評論家の原野氏は「菅首相は昨年GОTОキャンペーンと感染予防の二兎を追い失敗した。今も五輪開催とワクチン接種を同時に進めようとしている」と指摘。五輪開催とワクチン接種の早期完了に不透明感が漂う中で、解散・総選挙が迫る与党内の関心は、自民党総裁選にシフトする可能性があると予測する。