[北京/香港 5日 ロイター] - 米軍の戦闘機が4日、中国の偵察気球をサウスカロライナ州沖の領海内で撃墜した後、専門家や外交関係者らは中国が今後、どう反応するか注視している。

足元まで米中双方とも関係改善を模索し続けており、中国側としては今回の件でそうした流れが壊れないよう配慮しながら冷静に行動する公算が大きい、というのが専門家の見立てだ。

気球はあくまで気象研究用で、不可抗力によって米国に迷い込んだと主張している中国政府は5日、米軍による撃墜について「過剰な反応だ」と非難。同様の状況には、必要な手段で対抗する権利があると述べた。

米国も気球侵入を受け、予定していたブリンケン国務長官の中国訪問を延期した。この訪問は、昨年11月のバイデン大統領と習近平国家主席との会談で決まっていた。

ただ、両国とも数年にわたって非常に険悪となっていた外交関係を安定化させることに積極的だとの見方が広がっている。バイデン政権は緊張を招くような各種事態が実際の軍事衝突にならないよう細心の注意を払っている。また、習氏も米国との対決よりも新型コロナウイルスのパンデミックで大きく悪化した経済の立て直しに目を向けているからだ。

カーネギー国際平和財団の中国事務所シニアフェローで、プリンストン大学の客員研究員を務めるチャオ・トン氏は、米中関係の再構築に向けた道のりは、今後も軌道を外れそうにはないと予想。「両国は依然として二国間関係を安定させ、責任を持って管理運営していくという面で、強い利益を共有している」と述べた。

<対話復活に期待>

シンガポールのラジャラトナム国際学院の安全保障問題フェロー、コリン・コー氏は、中国が米国の軍事偵察行動に対して、なお精力的に対抗していくだろうが「正面衝突」は自制するとみている。

各国駐在武官によると、中国軍は現在ほど米国との緊張が高まっていなかった時期でさえ、特に台湾周辺や南シナ海では偵察行動をしている米軍を積極的に追尾していた。

中国は米軍の有人機や有人艦艇には手出しを控えるかもしれない半面、無人機と無人艦艇については、その後の紛糾を収められると確信した場合、どう動くかは読みにくくなる、とコー氏は説明した。

同氏が過去の例として挙げたのは、2016年12月にフィリピン・ルソン島沖の南シナ海で、中国海軍が米軍の無人潜水探査機を奪取し、その後に米軍へ返還した事件だ。

一方、米海軍大学院で安全保障問題を研究しているクリストファー・トゥーミー氏は「中国はそれほど強くない調子で抗議するだろうが、結局、この問題にふたをして、数カ月以内には高官レベルで訪問を行う外交活動を再び進めたいと思っているだろう」と語る。

南京大学国際関係学院の朱鋒執行院長は、米政府が中国に以前求めていた正常な対話路線に戻る道筋を確保するには、彼らが1つ1つの事象を「大げさに騒ぎ立てる」のをやめるべきだと強調。その上で、できるだけ早期に米中関係を機構化された対話へと戻せるように、両政府が新たな外交の1ページを開けると期待していると述べた。

何人かの専門家は、今のところ中国政府の声明文から一歩もはみ出していない国営メディアの報道や、インターネット上の書き込み内容がどうなるかによって、中国がより強硬な態度になるかどうかを探ろうとしている。

中国のソーシャルメディアの投稿を見る限り、気球の米国侵入と撃墜を巡って愛国的な怒りが高まっている兆しはほとんど認められず、多くの利用者は、気球1つでなぜこれほどの騒動になっているのか疑問を投げかけている。

(Ryan Woo記者、Greg Torode記者)