1972年の東京モーターショーに市販間近を予感させる詳細展示!

1972年の第19回東京モーターショーで、ヤマハ・ブースの目玉は新型ロータリーエンジンを搭載したRZ201だった。 当時は日本4メーカーとも、ロータリーエンジンの開発が噂されていて、ホンダとスズキが1ローター、ヤマハとカワサキが2ローターと囁かれていたほど情報も錯綜し、市販化間近な空気に包まれていた。

そんな折りの東京モーターショー出展は、ヤマハが独自に開発したロータリーエンジンの詳細な技術解説、そしてすぐにでも市販化がスタートしてもおかしくない完成度の高さで、詰めかけたファンから食い入るような視線を浴びていた。

ロータリーエンジンは、同じドイツのヴァンケル社の特許を取得した、農業機械や船舶エンジンのヤンマー・ディーゼル(現ヤンマーホールディングス)との共同開発と謳われていた。 おむすび形のピストンの役目をするローターが、長円の真ん中がくびれたハウジングの中を、吸気・圧縮・燃焼・排気を回転しながら行程する仕組みで、ローターがふたつ横に並んだ通常のエンジンだと2気筒と呼ぶロータリーハウジング構造。 ひとつのロータリーハウジングが330ccでふたつ合わせて660cc。

そして最大の特徴が、ペリフェラルポート方式とサイドポート方式の併用。 ロータリーエンジンは吸入方式がハウジングの周上にあるペリフェラルポート方式か、ハウジングの真横から吸入するサイドポート方式に分かれる。ヤマハはこの両方を併せ持つコンビネーションポートシステムを開発して、それぞれ高回転域で優位な面と低回転域で燃焼が安定するメリットを両得するのに成功していた。 発表された出力は、68PS/6,500rpm、7.8kgm/4,000rpmと750ccクラスに匹敵。

ふたつ並んだロータリーハウジング(点火プラグも2対見える)左側には、1次伝動用サイレントチェーンが収まり、クラッチ・ミッションを既存のバーチカルツインTX650を流用したエンジンユニットとなっている。

販売店では予約を受け付ける噂まで飛び交っていた!

他にも潤滑をヤマハ独自のCCR(Charge Cooled Rotor)という、キャブレターからの吸気にハウジング内のローターを潤滑するオイルを混合する、まさに2ストロークエンジンで培った分離給油方式(オートルーブ)のノウハウを活かし、それまで主流だったローター内側に潤滑を流しハウジングへ浸透させる必要がなく、高温となることからオイルクーラー必須だったのが不要となっていた。

そうした詳細までを東京モーターショーで発表、具体的な図解など解説を加えた販売店向けのヤマハ・ニュースにも「静かなる衝撃」と、レシプロエンジンの往復運動がない、回転だけで振動もなく低周波の排気音の静寂さを強調、この具体性の高さに一部では予約を開始するとアナウンスした販売店もでるほどだった。

しかし翌1973年になっても、販売開始のニュースリリースはなく、燃費の悪さなどクルマのロータリー評価にヤマハが嫌気したようで、TZ750のテストに駆り出されていたネモケンも、夕闇迫るヤマハテストコースで真っ赤に染まったエキゾーストと音もなく走り去る姿を目撃していたのだが、遂に幻のバイクとなって世間に姿を現すことはなかった。