障害当事者が明かすコツ

 私たちの多くは、義務教育で、勉強の仕方の基本パターンを身に着ける。

 登校した教室で先生の説明を聴き、教科書に目を通し、板書内容をノートにとり、家に帰れば復習を兼ねた宿題をする。とくに予習はしない。長期休暇では、休み中の課題をさっさと済ませたり、日々計画的に課題をこなしたりという人は、少数である。大多数は、休暇の終了間際に、あわてて突貫工事で頑張り、やっつけで提出期限に間に合わす。だから、日々の天気欄や日記欄には泣かされる。

 子供は「よく遊びよく学べ」だが、年齢が上がると「遊び」から「学び」に比重が移り、高校や大学ではさらに、アルバイトという名の「仕事そのもの」が生活の中心になったりする。こうして社会に出る準備をする。

 本格的に社会へ出ると、同年輩や初心者のどっこいどっこいばかりとコミュニケーションや初歩の業務処理をするだけでは済まされない。

 学校は知育、体育、徳育の三育を目標とするが、一般的な知力、体力、徳力さえも覚束ないまま、馴れない仕事現場の業務処理に直面すると、新人の誰もが戸惑う。ひどく大変と感じてしまう人もいる。

 本書は、要領が悪いとレッテルを貼られてしまったり、注意欠如・多動症(ADHD)であったりして、しくじりの連続や休職、退職などに苦しんできた2人の著者が、自分らの体験から工夫を凝らし、安心して会社勤めできるようになったり、「要領が良いねぇ」といわれるまでになったりした「仕事術」を公開したものである。

 大多数のビジネス啓発書のように、それなりに仕事ができる読者に、さらに一頭地抜け出すための最新知識や特別の技法を伝授するというものではない。職場のお荷物と後ろ指さされかねなかった存在を抜け出し、普通に仕事を任され、こなせるようになるために苦心して身に着けていった、大切だけれどもコツとしてはちょっとしたものを、具体的に図示し、分かりやすく体系立てて説明する。コラム「しくじり体験記」を挟んだ読み物としても面白い。

 要領の悪さを自覚する人ばかりでなく、ごく普通の若手社員や在宅勤務者にとっても、肩の凝らない仕事マニュアルとして、必ず学べるところがあろう。スイスイと仕事をしてくれない部下の指導で悩んでいる上司にとっても、仕事術を指導する際の勘どころを再確認する役に立つに違いない。

 部課長級を含む中堅どころ社会人の大学院生たちを論文指導した際、作業を先送りする人や時間だけ徒過させてしまう人、テーマに集中できない人、記載ミスの多い人などが結構いることに気付いた。論文執筆法の立派な教科書を示すだけでは足りなかった、と本書を読んで痛感する。ごく基礎の基礎を、なるほどと納得させる仕方で、手法導入のカベを取り除けるように配慮した本こそが、必要だったのである。

選者:法政大学 名誉教授 諏訪 康雄(すわ やすお)
 厚労省・労政審会長などを歴任。現職としてNPO法人キャリア権推進ネットワーク理事長。

 同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。