向田邦子との共通点多し

 西川美和は類まれなる才能の持ち主だと思う。映画監督、脚本家が本業だが、彼女の小説やエッセイも飛び切り素晴らしい。2009年は『きのうの神さま』で、15年には『永い言い訳』で、直木賞候補となった。恐らく受賞するまでに、それほど時間はかかるまい。直木賞の選考委員でもある浅田次郎は、かつて西川の作品を「はっきりと文学である」と讃えた。

 私だけだろうか、西川の文章を読むと、向田邦子を想起する。向田が飛行機事故のため51歳の若さで亡くなって今年で40年ということもあり、関連書籍の刊行やメディアで特集が組まれることもめだつ。脚本家として卓越した活躍をし続けた彼女が、初めてのエッセイ集『父の詫び状』を出したのが78年のこと。それからわずか2年後に、短篇の連作『思い出トランプ』収録の『花の名前』などで直木賞を受賞した。山本夏彦が向田のことを「突然あらわれてほとんど名人である」と絶賛したことは広く知られている。両者の作品の共通点は、人間に対する鋭い観察眼と慈しみだろう。

 本書は、18年より小説誌『STORY BOX』に西川が連載したエッセイを中心にまとめたものだ。今年2月に公開された『すばらしき世界』(西川監督6作目の長編映画)の制作過程でのエピソードが紡がれている。『すばらしき世界』は役所広司主演で、佐木隆三の小説『身分帳』を原案とする人生の大半を刑務所で過ごした男の再生の物語だ。私は、公開早々劇場に足を運んだが、読者が未見であっても全く支障はない。むしろ、その方がこの本を読む楽しみが増すかもしれない。10月にはDVD・ブルーレイが発売された。

 私は、大阪に本社がある放送局におよそ16年勤務していた。テレビ・ラジオの番組制作に従事し、現在は将来メディアの世界を志す大学生たちと過ごしている。エンターテインメントが専門だ。本書を読むと、西川がいかに真摯に映画というエンターテインメントと向き合っているかが分かる。かつては難なく撮影できていたロケのひとつをとっても、現在では許可を取ることさえままならない。映画の黄金時代には潤沢にあった資金も、どんどん減らされる一方だ。お金がなければ人も集まりにくい。決して別れたくないスタッフとの別れもある。それでも、西川のように映画を愛する人は変わらずいる。「スクリーンが待っている」と信じている。

 師匠である是枝裕和監督の横顔、憧れの役所広司との緻密な脚本打合せ、コロナ禍による作品完成直前での作業ストップ、八千草薫との切なき思い出などの濃厚な旨味が凝縮されている上に、「蕎麦屋ケンちゃん失踪事件」という短篇小説まで収められているのだから、贅沢極まりない。この小説、ビターな人間愛に満ちてとても面白い。きっと西川はこの短篇も映画にしてしまうだろう。溢れんばかりの才能が、西川の頭の中で順番待ちしているようにさえ感じる。そのあたりも向田邦子に似ている。

(西川美和著、小学館刊、1870円税込み)

選者:同志社女子大学 メディア創造学科 教授 影山 貴彦(かげやま たかひこ)