2010年代の音楽を語る上で、2010年代最後に頭角を現した、音楽家・常田大希率いるKing Gnuの存在を抜きにするわけにはいかないだろう。

星野源もceroもSuchmosもやってきた、ブラックミュージックをいかに日本語ポップスに昇華させて面白い音楽を作るかという試みにおいて、King Gnuはクラシックや現代音楽の要素などをも高次元で混ぜ合わせて文化をさらに前進させ、しかも「日本の大衆歌を作る」と高らかに宣言しながら、それをメジャーデビューからたった1年未満で見事に実現してしまったのだから、拍手を送らずにはいられない。

ただ、彼らの音楽が宣言通り大衆歌となった2019年、King Gnuは疲労困憊状態に陥っていたことを、このインタビューで知ることとなる。音楽シーンに限らず世の中全体を見渡しても、2010年代は「効率化」が進められた時代であったと言えるだろう。しかし、効率ばかりを求めていると、やはりこぼれ落ちてしまうものがある。そしてそれらが、実はとても大切だったりする。King Gnuはそのことに気づき、そして私たちにも教えてくれた。人と人のあいだに生まれる信頼、愛、熱量を大切にしてきた4人のミュージシャンたちは、2020年以降、どこへ行くのだろう。

※この記事は2019年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.09』に掲載されたものです。

大きくなる中で苦しさが溜まった2019年

ー2010年代最後の「NHK紅白歌合戦」への出場も決まりました。「紅白」というのは大衆歌として認められた証でもあって、ずっと「大衆歌を作る」という目的を掲げてきたKing Gnuにとってはひとつ大きな手応えでもあるのかなと思ったのですが、いかがですか?

新井和輝(Ba) まあ、僕らが実感している以上の事態になっているんだなとは感じていますね、本当に。

常田大希(Vo, Gt) びっくりはしたよね、実際に話が来て。

新井 うん。2019年メジャーデビューして、1年で本当に行くところまで行ったなあって感じはします。

常田 声がかかったら出ようとは、夏くらいから思っていたので、話が来た以上、出ないという選択肢はなかったですけど。

ーそこで演奏する「白日」への心情や愛着って、なにか変化はありますか? 本誌のvol.07で常田さんをインタビューさせてもらったとき、それまでKing GnuがJ-POPとしてやってきたことの中から食いつきがよかったものを詰め込んでヒットを狙って作った、ということを話してくれましたけど、1年通していろんな場で演奏し続けてきたことで、曲に対する気持ちの変化とか気づきはあったのかなと。



常田 うん、年末にかけてテレビとかでやることも多くなってきたし。……どうすか?

井口理(Vo, Key) (常田)大希は狙って作ったって言ったにせよ……アルバムの曲順を決めるときにみんなで聴き直したんですけど、やっぱりめちゃめちゃいい曲だなっていう、結局。

勢喜遊(Dr, Sampler) うん!

新井 ツアーでもずっとやってたので客観的に聴く時間があんまりなかったんですけど、改めて聴いて、「え、めちゃめちゃいい曲じゃん!」って。

ー間違いないです。あの曲は単純に歌モノのポップスとしても素晴らしいし、だからこそ日本人に対してあれだけ広まったし、でもそれだけじゃなくて、たとえばリズム隊2人はめちゃくちゃ歪なことをやってるっていう、それこそ1年聴き続けても飽きないくらい面白さが何層にもなってる曲で。

勢喜 うん。その辺のバランス含め、ですね。総合的に。「全方位型いい曲」です。

常田 ……ん?

新井 はははは(笑)。

常田 当時、それこそ「当ててやろう」という想いもあったし、Aメロ、Bメロ、サビの全部のセクションをサビになり得るくらいの強度でグッと来させるようにしたい、という意思が今より強くて。だから展開も多いし。……今「白日」を改めて聴くと、やっぱり1曲をあそこまでちゃんと作らなきゃなっていう風な身が引き締まる感覚にはなるんですよね。最近、スケジュール的にも精神的にもしんどくて、曲を作るときに1曲に対する想いが分散しがちだったので。

ーああ。この1年でどれだけ相手ありきの曲を書き下ろしたんだ、どれだけ締切と闘ってたんだ、っていうのは、ニューアルバム『CEREMONY』を聴いても明らかで。「Overflow」は家入レオさんへの提供曲で、あとはインストと「壇上」以外全部タイアップ曲っていう。

常田 そうですね。



ーそして唯一タイアップじゃない「壇上」は、常田さんがひとりでヴォーカルを取っていて、かなりパーソナルなことを吐き出していますね。”もう十分でしょう もう終わりにしよう”とまで。

常田 パーソナルっすね、はい。まあ、アルバム制作中は鬱状態みたいになってて。King Gnu、「紅白」も出るし、もうここらで解散しとこうかな、みたいな。そういうのもチラつくくらい精神的にキテたんですよね。

勢喜 (失笑)。そうだったんだ。

常田 まあ、メンバーの顔を見たら持ち直しましたけど。

ーそれは……どういう落ち方だったんですか?

常田 やっぱり、その……一つひとつの作品への愛情が薄まれば薄まるほど、プロジェクト自体に興味がなくなっていくというか。本来だったら俺はこんなの絶対にNGを出す、というものが世に出ていったりして、俺の中で「もうなんでもいいよ」って気持ちになっちゃう状況があったり。一個一個に対して、クリエイティブを全体的に考える余裕がなくなっていったし、取り巻く人たちがどんどん増えていろんな人が絡んでくる中で、ちょっとぼやけてきたものが間違いなくあって。

ーKing Gnuの存在があまりにも一気にデカくなりすぎて、関わる人も多くなるし、自分の思うクオリティをキープできない範疇にまで広がってしまったというか。

常田 音楽は誠意を持ってちゃんと作ったし、手を抜いたという話ではまったくないんですけど。クリエイティブの「歪み」みたいなものは気づかない内にあったなって、俺個人は感じていましたね。一回見つめ直すときがきてるのかな。

勢喜 そうですね。マジで、見つめ直したいですね。

ーこの特集の次のページにあるceroとSuchmosの対談で、売れるという波が自分たちのところへ来たときにどう乗りこなすのか、という話をしてくれていてるんですね。もちろんその波の頂上に乗り続けようとする人もいるけど、それって音楽家としてすり減らすこともめちゃくちゃあるから、両者は「乗り続けるのは危ない」という意識になった、と。今のKing Gnuも大きい波に乗ってるところで……。

常田 同じ……。ただSuchmosとかceroと違うのは、「ポップスをやろう」という意思が圧倒的に俺たちにはあるから、アンダーグラウンドな存在になりたいわけではないし、波から降りようとはならないと思うんだけど。

勢喜 うん。

常田 ただ、もうちょい、ポップスを作るにせよ、一発一発をもっと……。

勢喜 上質な、ね。

常田 そう、上質に魂を込めたものをやっていくペースにもう一回戻すっていう意味ですかね。あと、仕事に挑む姿勢っていうのかな。

勢喜 一個一個のやり甲斐とかね。

常田 そうそう。一つひとつ、もっと思い入れができるような形をね。選ぶ目は厳しくやっていった方がいいかなって。だから、「メジャーってなんか違うな」と思っているわけではなくて、そこをちゃんとしっくり来る形に落としたいなっていう。

ーメジャーでのやり方をもうちょっと考えよう、みたいな。

常田 うん。そういう気持ちが強いですね。


「アルバムはかなり苦戦した」4人の胸中

常田 そういう意味では、本当に必死に走ってきた結果がこのアルバムには入っているかなっていう。

井口 そうだね。

常田 ……めちゃくちゃ苦戦したね、このアルバム。

新井 苦戦したねえ。

勢喜 結構苦し紛れなところはありましたね。

ー新井さん、勢喜さんとしては、どういった苦しみがありました? それって、King Gnuにとって「歌」と同じくらい大事な個性である「アレンジ」の部分の話でもあると思うんですけど。

新井 今回の曲に関しては、特に制作の後半の方は、メロディや歌詞がまだどうなるか決まっていない状態とか、曲の完成形が完全に決まっていない状態で、ドラムやベースから録る、みたいなレコーディングの仕方をした曲もあって。そうすると、アプローチの仕方がどうしても限定的になってしまうんですよね。

勢喜 うん、そうだね。

新井 それでもここまでのクオリティのものができたのは、King Gnuの底力があるということだとも思うんですけど。

常田 まず、ドラムから録る、ベースから録るっていう構図の時点からして、もう先は見えてるからね。「別にそんな普通にドラム叩かなくてよくね?」という気持ちももちろん出てくるし。そういうスタンスでのレコーディングって、要はスケジュールの問題でしかなくて。なんとしてでも曲を形にしなきゃいけないサイクルがあったんです。その中で各々しっかり向き合ってきたなっていうのも、もちろんあるんですけど。俺は曲を作るだけの人で、各々歌・ベース・ドラムを入れて、というような……なんていうのかな……ファクトリーじゃないけど、工場的な作り方があまりにも強かった。

勢喜 そうしてると、やっぱり作りも似てくるしね。基本的なことを言うと。

新井 そうそう。既視感とまではいかなくても、要するに、同じ方法論の延長戦にはなるからなあ。

勢喜 そうなって来ちゃうよね。曲が悪いわけじゃない。全然そんなわけじゃないんだけど。

井口 やっぱり「壇上」が一番グッとくるんだよね。やっぱりあれは大希なりにパーソナルな部分を落とし込んで、愛情を持って作った曲だから。

常田 うん。

井口 だからやっぱり俺も聴いてて一番グッとくる曲だなって思ったし。

新井 うんうん。

常田 「壇上」はピアノも俺が弾いたし、弦も弾いたし。

勢喜 ドラムもあとから録ったし。

常田 そういうのって、昔は全然当たり前だったんだけど、最近は本当になくて。(江﨑)文武(WONK)とか優秀なやつらがいるから、俺も自分で楽器を触ることが減ったし。本当に、どんどん工場化していってたんです。効率よく上質なものを作るための座組みになってた。各々が各々の持ち場ですげえいい仕事をする、ちゃんと真面目なことをする、っていうのでやってきた。そうじゃなきゃ、締め切り上、回っていかなかったので。

勢喜 ライン作業、みたいだったよね。

常田 そうそう。

新井 最後に作って入れた「壇上」が録り方として一番いい順序だったから、「これこれ!」みたいな感じはあったなあ。

勢喜 うんうん。

常田 やっぱり、もう一回仕切り直すいい時期にきてると思う。各々が、King Gnuに対してもそうだし、人生に対しても、一回落ち着いて考えてもいいのかなって。

新井 そうだね。

常田 だから「紅白」とかこのアルバムが、いい区切りかなっていう風にはすごく感じていますね。

井口 すごく雑食に食って大きくなってきた感じはあるよね。

常田 本当にね。台風のように巻き込んできたから。

勢喜 俺たちはなにを食ってたんだ?っていう。

常田 そうそうそう(笑)。まあ、だから次はもっとゆっくり、というか着実にやっていこうかなと思っています。

勢喜 勉強になったね。

常田 怒涛さがすげえ入ってるアルバムです。

勢喜 満身創痍っす。

井口 いやあ、よくやったよ。

新井 本当、そういう感じですね。「よくやったね!」って。

常田 どうだった、アルバム聴いた? 俺、作り終えてからまだ一回も聴いてないんだよ。理が一番聴いてくれてたよね?

井口 うん、そうだね。……「壇上」じゃないすかね、このアルバム。いや、いいアルバムだけどね。

新井 いや、それはね、間違いなくそうだよ!

常田 うん、もちろんポジティブなことの方が多い。

勢喜 うん!

新井 ただ、アルバム一発目のインタビューなんでね。

常田 不満がスゲー出ちゃった(笑)。

勢喜 インタビュー始まったときは取り繕ってる感がすごかったけど、剥いじゃったね(笑)。


「世界とツアーは愛で回ってる」

ーライブの会場の熱狂を見ていても思うのは、King Gnuが率いるヌーの群れがもうかなり大きくなっていて、エネルギー溢れるデカい群衆ができている状態で、「King Gnu」という名前をつけたときの構想にはもう達している状態とも言えるわけじゃないですか。「さあ次はこの群れとどうする?」というステップに来ていると思うんですけど、そういうことってなにか今考えていたりしますか?

常田 そうですね、ストーリー的にはきれいにいってる感じ。……でもまあ、そこも含めてもう一回冷静に、という感じですかね。

新井 そうだね。

勢喜 うん。まったく冷静な時間なんてなかったですからね。

常田 本当に怒涛でしたね、この1年。

新井 だから「『紅白』どうですか?」って言われても、「どうなんだろう?」って感じになっちゃうんです。一番自分たちが他人事なんじゃないかなって。

ー一個一個の出来事に対して、冷静に考える時間もないし、みたいな。

勢喜 うんうん。

常田 そうそうそう。

ーちなみに、King Gnuってテレビ番組に出るときも生演奏にこだわっているじゃないですか? 当て振りではなく。それって「紅白」もですか?

常田 「紅白」もそんな感じです。

新井 各々のパートは生ですね。やっぱり熱量っていうものを大事にしたいんですよね。音楽番組ってもともとは普通にライブをするもののはずで、音がトラブったときのリスクを考えるのもわかるけど、俺たちは、今のところは熱量を大切にしたいというのがみんなの共通認識なので。

ーやっぱり、人と人から生まれる熱量というのは、King Gnuが大事にしてきたものですよね。だからこそ、愛のない人が関わってくることとか、効率重視に対して、虚しさを感じる。バンドがしんどい環境に陥ったときって、メンバー間でぶつかり合いが起きるか、もしくはメンバー同士の結束力が高まるか、どっちの方向に行く可能性もあると思うんですけど……King Gnuの場合はどうでした?

常田 結束力は相変わらず、いい感じではある。

新井 うん、そうだね。

井口 4人の強度でいうと、ツアー中に僕が歌えなくなったとき、3人がちゃんと演奏で魅せられるのがこのバンドの強みだと思ったし、そこにすごい支えられた。ああ、やっぱりいいバンドだなって、ツアーで声が出なくなったときに再確認できましたね。

新井 理が声出なくなって、マジでヤバイなって日があったんですけど(11月4日の高松公演)、結局その日が一番よかった。一番ライブ感があったよね。ライブのスタッフ周りに関しては、本当にみんなKing Gnuを好きでいてくれてるっていうのが伝わってくるんです。金のためにその仕事をやってるわけじゃないというか。あるライブスタッフさんと(勢喜)遊と3人で飯食ったときに、「俺らが一番近いところにいるファンだから、俺らが楽しくないことはしないでくれ。俺らがガックリくるようなことがあるとお客さんも絶対満足できないから」みたいなことを言われて。それってなかなか言ってもらえないことだなと思ったんですよね。

勢喜 うん、みんなKing Gnuのことを好きでいてくれる。

常田 愛で回ってる?

勢喜 愛で回ってる!

井口 世界がね。

勢喜 (笑)。世界とツアーは愛で回ってる。

井口 はははは!(笑)

ー今冗談交じりで「世界とツアーは愛で回ってる」って言ったけど……King Gnuって、頭脳と技術のある人らが集まった器用なインテリ集団みたいな見られ方を、それこそ全然詳しく知らない人からされたりもするけど、やっぱりそういう愛とか人間臭い感じをめちゃくちゃ大事にしてる集まりですよね。

新井 いやあ、本当にそうですね。そういう面が、他のバンドよりすごく強いと思いますね。


左から : 勢喜 ジャケット ¥24,800 Pigsty渋谷神宮前店(TEL:03-6427-3392) 井口 ジャケット ¥8,580 CORD(TEL:03-3313-5744) 新井 ジャケット ¥27,500 即興(TEL:03-6304-9421) そのほかスタイリスト私物(Photo by Ray Otabe, Styling by Shohei Kashima )



日本の音楽業界で「売れる」ということ

ー常田さんは、これまでのインタビューでもポップミュージックと時代性は切り離せないということを話してくださっていて。

常田 うん。

ーこれだけKing Gnuの音楽が今の人たちに刺さっていることに関して、King Gnuのどういうアティテュードが今のどういう時代性にハマっているのか、ご自身でどう捉えていますか?

常田 単純に音楽の強度が他のバンドより強いっていうのが……まあ、あるよね?

新井 ふふふふ、ウケる(笑)。

常田 音楽の強度というか、要するにメロディを取っても、アレンジを取っても……アレンジは、そんなに人は聴いていないんだろうけど。そういうところでの評価かなと。

ーアレンジは誰も聴いてない、という感覚、未だにありますか?

勢喜 全然ありますね。

常田 全然あるよ。100人中90人は聴いてないんじゃないかな。それは「広げる」というときにおいてですけどね。のど自慢大会みたいなものだからさ、日本の音楽業界は残念ながら。

新井 前のツアーで、理が「白日」の前のMCで、「噂の、超ゴキゲンなファンキーな曲いきます、『白日』」って言ったときに、笑いが起きて。俺はそのときに感じましたね。絶対ファンクだって、あのギターのリズムとかビートを聴いてたら。そうじゃない? 絶対ファンクじゃない?

勢喜 うん!

新井 笑いが起きるところじゃないでしょ?ってそのとき俺は思っちゃって。

常田 でもそれは、理がちょっと笑わせようとして……(笑)。

井口 「ゴキゲン」って言っちゃってるしね(笑)。

新井 え、ゴキゲンじゃない? 「白日」、めちゃめちゃゴキゲンなファンクでしょ?

勢喜 確かに!

新井 超アップビートだよ、あんなの!

勢喜 バラードと思って聴いてるヤツがいるっていうことがさ、ヤバイよなあって思う。

井口 でもいろんな聴き方ができる曲だからさ。頭で言ったらバラードじゃん。

常田 まあ、あれはバラードだよね。

新井 え? あれバラードなの!?

勢喜 マジで?

全員 (爆笑)。

常田 バラードじゃないと売れないからさ。


2010年代の音楽的流れをKing Gnuの視点から語る

ーこの特集にちなんで、2010年代に関してもお伺いさせてください。「2010年代の音楽文化の流れ」と言ってもいろんな切り口があるけれど、ひとつは、ジャズやブラックミュージックが他のジャンルと接近してポップスに昇華していった流れが世界的にあったと思うんですね。King Gnuはその流れをどう体験していたのか、ということを改めて教えてほしくて。

新井 今27歳だから、僕らの10年前と言うと高校生のときなんですよね。そう考えると、そのときに聴いていた音楽がルーツになっていると思いますね。ジャズとヒップホップを新しい次元でつなげたキーマンが2010年代に出てきて、まあそれよりも前からそういう流れはもちろんあったけど、よりまた違う次元でのビートやコードのアプローチが出てきた。実際、その人たちがケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』(2015年3月)で使われて、すげえ名盤が生まれた、というのもひとつの象徴でしたよね。で、今度は僕たちがそれをルーツにしながらミュージシャンをやっているっていう。



勢喜 うん、そうだね。

ー新井さん、勢喜さんは、King Gnuが始まる前はジャズセッション界隈でも活動されていましたけど、当時って閉鎖的なものを感じたりとかしてました? なぜ今ポップスをやっているのか、という話にもつながるのかなと思うんですけど。

新井 ああ、ありましたね。閉鎖的なコミュニティっぽいとこだなと思うのは、「ジャズだね」という言葉があって。差別とまではいかないけど、「あいつはジャズだ」「あいつはジャズじゃない」みたいなことが、すごく狭いコミュニティの中で言われてたんです。特にジャズマンのあいだでそういう風に言う風潮が、まあ今でもあって。しかも、ジャズしかやらないミュージシャンに対して「ジャズだね」「ジャズじゃないよね」って言うんですよね。ジャズ以外もやるミュージシャンには言わない、みたいな、そういう言葉のニュアンスがあって。でもそれが、石若駿によって拡張されたというか。駿は間違いなくジャズドラマーなんですけど、それが彼にはもう当てはめられなくなった。ジャズ以外もやるタイプ、だけど間違いなくジャズドラマー、みたいな。ここ5年くらいで、「ジャズ」のマインドに対しての広がりが起こり始めてるんじゃないかなって思います。

ー石若さんが、その変化のキーパーソンでもある?

新井 全部が全部そうとは思わないですけど、間違いなく一端は担っていると思いますね。

勢喜 そういうところにいた人たちも、見せ方が上手くなったよね? ステージングの仕方というか、外向いて売ろうっていう気持ちが出てきているというか。時代に寄り添っているんですかね。

ーなるほど。King Gnuは2017年にスタートしているわけですが、ジャズが他ジャンルと混ざるのがひとつの「盛り上がり」ではなくもはや「定着」したところで、さらにクラシックや現代音楽の要素も入れて、しかも日本の大衆歌にまで引き上げよう、という文化的前進をやってくれたバンドだと思っているんですね。

常田 そんな感じでもないよ、ふふふ(笑)。まあ、いわゆるブラックミュージックとしてドロップしていないのが、他のバンドとは圧倒的に違うかなと思うけど。

新井 そうだね。

常田 2010年代に、ブラックミュージックが世の中を引っ張っていたのは間違いないと思いますけどね。

勢喜 うん、そうだね。

常田 いろんな形に落とし込まれてた感じかな。日本のポップスもそうですし。ヤマタツさん(山下達郎)が再評価されたりしたのもそうだし。

勢喜 確かに。そう思ったら、日本の音楽もついていってるんだなとか思ったりするけど。

常田 いや、つまり今に始まったことじゃないってことよ。ヤマタツさんの時代にも、そういう流れでやってた人がいた。別に自分たちの世代が特別なんてことはまったくないっていうくらい、俯瞰して見てます。本当にもうひとつ行こうと思ったら、それだけではそうはいかないってことだとも思うし。もう一歩俯瞰して活動しないと想像以上にはいかないというか。そういうのは各々が考えるべきだなと思いますね。


・Best Players of The Decade:King Gnuが選ぶ、2010年代のベストプレイヤー

ロバート・グラスパー
ジェイムス・ブレイク
ケンドリック・ラマー
ティグラン・ハマシアン

ロバート・グラスパーは歴史を変えた人。(勢喜)

インタビューの中でも話したように、それまでA Tribe Called Questとかもいたけど、新たな次元でジャズとヒップホップをつなげた人はまさしくグラスパーですね。(新井)

ジェイムス・ブレイクは、もう、音楽からなにからガラっとトレンドを変えた天才。(常田)

もう「ジェイムス・ブレイク以降」って言えちゃうくらいのものを生み出した。ケンドリック・ラマーも、「ケンドリック・ラマー以降」って言えちゃう。(新井)

ティグラン・ハマシアンは、僕が彼のピアノプレイに影響を受けてます。感覚的に好きというか、本当に素晴らしいし、かっこいいんだよな、あの人。(井口)

・Best Album of The Year:King Gnuが選ぶ、2019年のベストアルバム

Bon Iver 『i, i』


また今回のアルバムのために引っ越して、スタジオを建て直したという話を聞いて。前回のアルバムもスタジオを建てて、エンジニアを家族ごと引き寄せたらしいんですよね。しかもノイズを入れるためにめちゃくちゃ時間をかけたりしていて。僕らが今年こういう状況だった真っ只中に、そういうクリエイションのスタンスで作られた新譜が届いて、しかもそのスタンスがすごく伝わってくる内容で、「こうあるべきだ」って思わされました。しかも、今まで以上にボン・イヴェールのルーツとエレクトロが高い水準で混ざっていたので、素晴らしかったです。(新井)


2020年代の展望、King Gnu&millennium paradeとして

ー大きい質問になっちゃうんですけど、2020年代に対してなにか描いていることってありますか?

井口 頭が電脳化して、ネットと人がつながって……。

常田 はははは(笑)。

勢喜 でもこないだのmillennium parade(以下、ミレパ)のライブのとき(12月3日なんばHatch、12月5日新木場STUDIO COASTにて開催)、お客さん全員が3Dサングラスしてこっちを見て「ウワー!」ってなってたじゃん?

常田 あれは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』感あったよね。

勢喜 そう。あれは2020年を感じたかもしれない。

常田 確かに。

ーミレパに関しては、今どういうモチベーションですか?

常田 ミレパは考え方がちょっと違うかな。でもPERIMETRONに関しても、King Gnuと同じで、プロジェクト単位でのチーム編成をもう一回固めるじゃないけど……なんて言うのかなあ……オリジナリティや個性があるものを作ることに人生を賭けるというような気合いの入った座組みを、もう一度組み直さなきゃいけないなっていう感じ。俺たち世代の『AKIRA』を作るじゃないけど、そういうのを目指してたやつらが集まってたはずなのに、やっぱりいろんなことに追われて、ちょっとなあなあになりだしてたので。PERIMETRONもKing Gnuと同じで、各々の知名度が上がってきて、いろんなところから声がかかるようになって。「このままじゃちょっと埒明かねぇな」みたいなのは、多分、King Gnuのこの4人も、PERIMETRONも、みんな思ってるんじゃないかな。まあでも、PERIMETRONにとっては、こないだのミレパの東阪ツアーがいい機会だったかな。

ーちなみに、12月6日にリリースしたミレパの新曲「lost and found」に対して、「今までで一番いい曲が書けた」とコメントされてましたが、それはどういう基準で「いい」と考えられてますか?

常田 あれがいい曲と思わねえヤツとは友達にはなれねぇっていう(笑)。それくらいミレパはストロングスタンスだから、ミレパの場合は。2020年代について、ceroとかSuchmosはなんて言ってるんですか?

ーceroは、アジアの話をしてくれていますね。国をまたいで、アジアとして結託して、エキサイティングな音楽を作っていくようになれば、というような。

常田 ああ、間違いないですね。アジアは本当にキーになってくると思いますね。日本の音楽業界は日本だけでマーケットがデカイから、「ジャパニーズゲットー」の状態なんで。動いていかないと、完全に乗り遅れちゃってますよね。

ーミレパとしてはもちろん世界が目指すところだと思うんですけど、King Gnuとしてもアジアを攻めたい気持ちがありますか?

常田 うん、2020年はKing Gnuもアジアツアーをしたいですね。まあでも、柔軟にやって行きたいです。2020年は、もう一回熱を取り戻す年になるのかな。俺個人としては、思い入れのあるものをもっとやっていきたいなっていうのがある。やっぱり、どうしても偏ってしまうこともあるから。跳ねる曲をやった方が宣伝効果的にもいいし、とか。そういうのでこの1年やってきたかなと思ってて、でもそれで掴めた客ももちろんいるから、一長一短みたいなものですよね。だから別に「しくったな」とは思ってないし。

ーこれを経て次にやれることも、絶対にあるだろうし。

常田 うん、そうですね。

井口 『CEREMONY』はやっぱり売らなきゃいけないアルバムだと俺は思うから。「白日」とかタイアップ曲が多く含まれたアルバムとして、バッとドカンと一回届けて。だからやりたいことは次のアルバムでやるんじゃないんですか?




<INFORMATION>


『CEREMONY』
King Gnu
アリオラジャパン
発売中

King Gnu
東京藝術大学出身で独自の活動を展開するクリエイター常田大希が2015年にSrv.Vinciという名前で活動を開始。その後、メンバーチェンジを経て、常田大希(Gt, Vo)、勢喜遊(Ds, Sampler)、新井和輝(Ba)、井口理(Vo, Key)の4名体制へ。2017年4月、バンド名をKing Gnuに改名し新たなスタートをきった。独自のポップセンスと色気が凝縮されたトーキョー・ニュー・ミクスチャーと称されるサウンドはもとより、盟友クリエイティブレーベル「PERIMETRON」と制作するMV・アートワークで注目を集め、ライブチケットは毎回即完。2019年1月にアリオラジャパンよりメジャーデビューアルバム『Sympa』をリリースし、翌2月には日本テレビ系土曜ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」主題歌「白日」を配信リリース。2019年最大級のロングランヒットを記録中。8月に「飛行艇」(ANA「ひとには翼がある」篇TVCMソング)、10月に新曲「傘」(ブルボン「アルフォート」CMソング)を配信リリースした。
https://kinggnu.jp/