ドジャースの大谷翔平(29)が3日(日本時間4日)、本拠地で行われたジャイアンツ戦で放った移籍第1号の記念ボールの扱いが大騒動に発展している。ゲットしたドジャースファン女性のアンバー・ローマンさん(28)がサイン入りの帽子2個、ボール、バットと引き換えに大谷に戻したが、当人が球団から圧力を受けるなど酷い対応を受け大谷との面会を拒否されたたことを暴露した。メジャーでは過去にも記念ボールを巡って様々なトラブルがあった。ドジャースは記念ボールの返還交渉手順を見直す方針を示したが、米球界全体で取り組まねばならない問題だろう。

 ジャッジの記念ボールには特別のマークが

 大谷の移籍1号の記念ボールを巡る問題が大騒動に発展した。
米スポーツサイト「ジ・アスレチック」や「ドジャースネーション」などが暴いた真相によると、記念ボールをゲットしたローマンさんは、数人の警備員に取り囲まれ、夫のバレンズエラさんとも引き離されて別室に連れていかれた。もしボールの返還交渉に応じない場合、球団はそのボールを本物だと公式認証しない方針を伝えられ、プレッシャーをかけられた中で、帽子2個。バット、ボールとの交換を強要されたというのだ。ローマンさんはせめて大谷に会いたいと求めたが拒否されたという。「ジ・アスレチック」がオークションの専門家を取材したところによると記念ボールが売りに出された場合「10万ドル(約1500万円)を超える」値打ちがついたという。
ロサンゼルスタイムズ紙によると、ローマンさんの怒りに慌てたドジャースは、改めてローマン夫婦を球場に招待し「より貴重な記念品」を手渡すことを約束して和解した。当然、大谷が直接対面して手渡すことになるだろう。またドジャースは記念ボールの返還交渉の手順を見直す方針を示したという。
実は記念ボールを巡るトラブルはこれが初めてではない。米「ニューズウィーク」は過去のトラブル史を紹介した。最近では、2022年にロジャー・マリスの持つア・リーグの年間最多本塁打記録の61本を破る62本を放ち、MVPに輝いたヤンキースのアーロン・ジャッジの記念ボールだ。
59号の記念ボールを持っているのは、ブルワーズのファンのブライアント・ジャンコさん。ジャンコさんは球場にはいたが、自分でキャッチしたわけではなくそれをゲットした男性から1万5000ドル(約227万円)で購入したのだ。ジャンコさんがポッドキャスト番組「ザ・チェイス」に出演して明かした目撃談によると、その瞬間、ヤンキースの関係者がブルワーズの関係者と一緒にやって来てジャッジからと思われる4つのサイン入りボールと4つのサイン入り帽子をその男性に交換条件として提示しようとしていた。だが、その男性は交換に応じなかった。ある人は1000ドル(約15万円)の現金を提示したという。ジャンコさんは、その男性からボールを購入後、公式認証を両球団に求めたが拒否された。その後、ジャンコさんはニューヨーク・ヤンキース博物館の館員とメジャーリーグ機構(MLB)とメールでやり取りした。MLBは、証明できるチームにそのボールを戻すように提案したが、そのボールは「MLBの所有となり彼の手元には戻らない」とのことだった。
ニューヨークタイムズ紙によると、ジャッジのボールには2つの特別なマークが施されていたという。MLB鑑定士のディーン・ペロレイル氏が明かしたもので、その1つは肉眼で確認できる型番だったが、もう一つ特別な技術が必要とされる秘密のマークがあった。ジャンコさんは、ポッドキャスト番組「Outkick」内でブラックライトの元で撮影し、その特別なマークが浮かびあがったボールの写真を披露している。

 60号は、キャッチしたヤンキースファンの大学生がジャッジのサイン入りバットとボールとの交換で球団へ返却した。記録に並んだ61号の記念ボールは、左翼スタンドのデッキに当たって、すぐ下のブルージェイズのブルペンに落下。ブルージェイズのブルペンコーチのマット・ブッシュマン氏が手にした。ブッシュマンコーチは、すぐさまヤンキースに返して最終的にはジャッジの母親の手に渡ったらしいが、同コーチの奥さんが、米FOXスポーツのリポーターのサラさんで「ボールを誰かに渡したら離婚だわ」とツイートし、そのユーモアがファンの喝采を受けた。ちなみに60号と61号の記念ボールには、MLBが持つテクノロジーによってしか見えない特別な3つ目のマークが施されていたという。
そして記録更新の62号は、キャッチしたコーリー・ユーマンスさんが手放すことを拒否。ジャッジが「戻ってきたらいいけど、これはファンのお土産だ。素晴らしいキャッチをしたから、そのファンの権利だ」と語ったことから、球団の承認を受けて、オークションに出されることになった。300万ドル(約4億5000万円)で買い入れるという申し出を拒否して、オークションに出された結果が、半額の150万ドル(2億2500万円)だった。
全米を巻き込んで大騒動となったのは、2001年にジャイアンツのバリー・ボンズが放った年間最多本塁打記録を更新する73号の記念ボール。スタンドに飛び込んだボールは大争奪戦となって、日系のパトリック・ハヤシさんが持ち帰ったが、その後「自分が最初にキャッチした」と主張するアレックス・ポポフさんがハヤシさんを提訴したのだ。のちに「100万ドルのホームランボール」という映画にもなった。626日に及ぶ法廷闘争の結果は、2人の共有財産とされた。ボールは、その後、売却されたが、手数料込み51万7500ドル(約7700万円)と、予想された100万ドル(約1億5000万円)の約半額だった。
2015年にヤンキース時代のアレックス・ロドリゲスの通算3000安打目となった本塁打の記念ボールをライトスタンドでゲットしたザック・ハンプルさんは、タフネゴシエーターだった。返却を拒否して、ロドリゲス、ヤンキースと長い交渉を行い、数々の条件を引き出した。ハンプルさんが支援する団体にヤンキースが15万ドル(約2250万円)を寄付することや、サイン入りユニフォーム、サイン入りバット、ヤンキー・スタジアムのバックステージを見学できるVIPツアーに、この年のオールスターのチケットなど、ごっそり持っていった。

 米サイト「ヘビー」は、2022年9月23日にドジャーススタジアムでアルバート・プホルスが放った通算700号の記念ボールの行方について紹介している。ボールをキャッチしたファンは、マーロウ・リールさんで、ドジャースのスタッフはリールさんにボールを記念品と交換するのではなく、意外にもボールの認証を申し出たという。リールさんはボールを保有することを選択した。リールさんは「ゴールディン・オークションズ」と共同契約を結び、プホルスの貴重な所有物を最終的に36万ドル(約5400万円)で売却した。プホルスは歴史的なホームランボールを手元に残すことにこだわらず、当時、オレンジカウンティ・レジスター紙の取材に「お土産はファンにあげればいい。彼らがそれを保有したいなら何の問題もない。彼らがそれを返したいと思っているなら、それは素晴らしいこと。でも結局のところ、私は物質的なことにはこだわらない」と答えている。
プホルスの通算703号の記念ボールをキャッチしたのは、マイク・ハッチソンさんだ。交換にサイン入りボールを提案したが断られ、そのボールの認証を求めたが、両チームともに拒否。ハッチソンさんは、「がっかりしている」とテレビ局WTAEのインタビューに答えた。
また偽造を防ぐための認定作業は、MLBの鑑定士が行い、最終的に銀色のテープを貼るそうだが、プロセスがわずらわしく、記念ボールを認証が拒否されるケースがあるという。
記念ボールが高額で取り引きされるコレクター市場が発達している米国ゆえ避けられないトラブルだろうが、米球界全体として何らかのルール作りが必要なのかもしれない。