ドジャースの大谷翔平(29)の口座から違法な賭博で作った借金を返済するために1600万ドル(約24億5000万円)以上を騙し盗った銀行詐欺の罪で訴追された元専属通訳だった水原一平容疑者(39)がメジャーリーグ機構(MLB)から永久追放処分を受ける可能性があることをUSAトゥデイ紙が報じた。敏腕記者で知られるボブ・ナイチンゲール記者が伝えたもので現在、この問題を調査中のMLBは、連邦当局の捜査が終了次第、速やかに大谷の事情聴取を行い不正の疑いを晴らす予定だという。

 過去にはピート・ローズ以外に球団フロントが永久追放になった例も

 当然と言えば当然だろう。水原容疑者が2度とMLBで通訳の仕事ができなくなる可能性が出てきた。USAトゥデイのナイチンゲール記者が「水原容疑者が(MLBから)永久追放処分を受ける可能性がある」と報じた。
水原容疑者は11日に連邦捜査局により大谷の銀行口座から1600万ドル(約24億5000万円)以上を盗み、違法なスポーツ賭博への「飽くなき欲求」のための資金調達に充てた銀行詐欺の罪で訴追された。水原容疑者は2018年に英語の話せない大谷に同行してアリゾナ州の銀行で口座開設を手伝い、2021年から違法な賭博への借金が膨らんでくると大谷の銀行口座の連絡先を水原容疑者の電話番号と水原氏に関連する匿名のメールアドレスに紐づくように変更し、大谷を偽って銀行に電話をかけて、銀行員を騙し大谷の銀行口座から違法賭博関係者への電信送金を行った。
2021年から今年の1月にかけて、1日に数十回、最終的に1万9000回以上の賭けを行い、1回あたりの平均で1万2000ドル(約184万円)以上を賭け、総額で1億4000万ドル以上(約214億円)は勝ったが、1億8000万ドル(約276億円)以上は負けて違法なブックメーカーのマシュー・ボウヤー氏に差し引き4060万ドル(約62億円)の借金を作った。
だが捜査当局が水原容疑者の携帯電話などに残されたメッセージのやりとりを調査したところ野球に賭けた形跡はなかったという。
MLBでは、選手、コーチ、スタッフらが自らが所属するチームの野球賭博に関与した場合に永久追放処分を科すことをルールで定めており、過去に1920年にブラックソックス事件でジョー・ジャクソンら8選手、1989年にはメジャーでの通算最多記録4256安打を放ったピート・ローズが永久追放処分となっている。水原容疑者は、そのルールの違反には該当しなかったが、MLBは賭博以外でも、事件が悪質の場合は永久追放処分を科すケースがあり、古くは1921年にジャイアンツに所属していたベニー・カウフ外野手が自動車窃盗の罪に問われると永久追放処分とした。
水原容疑者のような球団職員に対して永久追放処分を科すケースもあり、2017年には他球団のスカウティングレポートのデータを不正に盗んだ罪でカージナルスのスカウト部長だったクリス・コレア氏、また海外選手の獲得に関する規則を破り、契約金が低額であるようにごまかし、16歳以下の選手を他球団と契約できないようにしたブレーブスGMのジョン・コッポレラ氏が永久追放処分を受けている(その後、復権)。
通訳だけではなくマネジャー兼運転手まで務めていた人物が選手の口座から巨額を盗んだ今回の事件は前代未聞で、永久追放処分が科せられてもおかしくない“重罪”だろう。
水原容疑者は訴追された翌日に法執行機関に出頭して身柄を拘束され、ロサンゼルス連邦地裁に出廷して、パスポートの返納、大谷との接触禁止、ギャンブル依存症の更生プログラムの受講など数多くの条件をつけられ2万5000ドル(約380万円)の保釈金で保釈されている。
またナイチンゲール記者は、この問題を調査しているMLBが、連邦当局の捜査が終了次第、速やかに大谷の事情聴取を行い、不正がなかったとの調査結果を発表して幕引きを行う見込みであることを伝えた。

 MLBは連邦当局の訴追会見を受けて「連邦検事局が水原氏を銀行詐欺で起訴したことは承知している。その調査によると、大谷は詐欺の被害者と見なされており、彼が違法なブックメーカーでの賭けを許可したという証拠はない。また調査では水原氏の野球賭博への関与は見つからなかった。本日開示された情報と、すでに収集したその他の情報を考慮し、さらなる調査が正当化されるかどうかを判断するために刑事訴訟の解決を待つ」とコメントしている。
連邦捜査局は、大谷から携帯電話の提出と、デジタル機器にアクセスする許可を得た上で、4月2、3日と2日間にわたって事情聴取を行い、水原容疑者との9700件に及ぶテキストメッセージのやりとりを日本語をネイティブに操れる特別捜査官と、日本語の言語学者の協力を得て徹底的に調査した。その結果、スポーツ賭博に関与するやりとりは一切なかったことが確認されている。大谷は3月25日の記者会見で水原容疑者に口座へのアクセスを許可したことなど一切なく、ずっと嘘をつかれ、騙されていたことを証言し、スポーツ賭博及び野球賭博への関与も否定。連邦当局の会見では検事が「大谷は被害者である」とわざわざコメントを出した。
ナイチンゲール記者は「大谷は、親友を選ぶ趣味と、自らの家計に関して認識が甘かったという点だけが有罪だった」と皮肉を込めて付け加えている。
ただ家計に甘かったという点については、訴状でも明らかになっている通り、大谷は、口座の管理を会計士や金融の専門家に任せており、決して無頓着でいたわけではなかった。その会計士や金融の専門家が税務の関係上、年俸が振り込まれていた口座をチェックすることを求めたが、水原容疑者が対応して「税務上の問題が起きるような取引はなく、大谷自身が非公開を希望している」とアクセスを拒否。外部のチェックが入らないように工作していた。大谷は、年俸の支払いとは別にスポンサーフィーなどが振り込まれる口座を持っていて、そちらへは、本人も管理を任せていた会計士らもアクセスできていたようだが、1600万ドル(約24億5000万円)以上の大金を盗まれていたことには気がつかなかった。
銀行詐欺罪は、最大禁錮30年、もしくは同罰金100万ドル(約1億5300万円)、あるいは両方が科せられる重罪。ただ水原容疑者の代理人弁護士のフリードマン氏は、罪を認めた上での司法取引の交渉を行っていることを明かしており、ニューヨークタイムズ紙によると「6年から10年の実刑に軽減される可能性がある」という。罪状認否は5月9日に行われる予定となっている。