ドジャースの大谷翔平(29)の元専属通訳だった水原一平容疑者(39)は、大谷の口座から1600万ドル(約24億5000万円)以上を違法賭博で作った借金を返済するために騙し盗った銀行詐欺の罪で連邦捜査当局に訴追されたが、米NBCスポーツがその訴状にある疑問点を指摘、「(指摘部分が)グレーのままなら大谷が潔白でいることは難しくなる」と報じた。水原容疑者と違法なブックメーカーを運営していたマシュー・ボウヤー氏との携帯メールのやりとりにある「cover job(肩代わり)」と「Technically(厳密に言えば)」という2つのワードに注目したものだ。

 「とても奇妙な部分が残る」

 まだ白黒ついていないというのか。それだけ今回の問題の闇が深いことを示しているのかもしれないが、米NBCスポーツが、水原容疑者を訴追した連邦当局が公開した37ページに及ぶ訴状の中にある問題点を指摘した。
同メディアは「水原容疑者は1600万ドル(約24億5000万円)を大谷から盗んだとして訴えられた。連邦捜査当局は、水原容疑者と大谷の携帯電話を調べた結果、両者の間で(賭博に関する)やりとりがなかったことが分かった」とした上で「彼らが対面でその状況について話していたかもしれず、もしくはプリペイド式の電話を使っていたのかもしれない。おそらく連邦捜査当局は、それについて考慮した結果、大谷が何かを知っていたと見なす理由が見当たらなかった」と付け加えた
連邦捜査当局は、開幕シリーズのあった韓国からロサンゼルスに戻ってきた水原容疑者と空港で接触し本人の捜査協力の同意を得た上で携帯電話を没収した。大谷にも携帯電話の提出及びデジタルデバイスへのアクセス許可を得て、両者の間で2020年から2024年にわたって交わされた9700件に及ぶ膨大なメッセージのやりとりを日本語に堪能な特別捜査官と日本語の語学者の協力を得てチェックした。また水原容疑者の携帯からは、違法なブックメーカーとのやりとりも解読され、生々しいメッセージが訴状で明らかになっている。
それでも同メディアは「すべてのことについてとても奇妙な部分が残る。水原容疑者は数百万ドルを盗むには十分近いところにいたが、大谷は水原容疑者が行っていたこと、そのお金で何をしていたかを知らなかった」と指摘。水原容疑者とボウヤー氏と思われるブックメーカーとのやりとりの疑問点を指摘した。
ドジャースが韓国でパドレスとの開幕シリーズを迎えた2024年3月20日前後のメッセージのやりとりで、水原容疑者はボウヤー氏と思われる「ブックメーカー1」に「記事を見たか?」とのメッセージを送った。ボウヤー氏は「見たよ。だがすべてがでたらめだ。言うまでもなくお前は彼(大谷)から盗んでいない。(大谷が)肩代わり(cover job)したということは分かっている」と返信した。水原容疑者は「厳密に言えば(Technically)彼から盗んだ。もう(私は)終わりだ」と返した。
大谷の口座から450万ドル(約6億8000万円)が違法なブックメーカーに送金されていたという捜査当局からの情報をつかんだESPNから水原容疑者は3月19日に取材を受けており、同じ情報をつかんでいたロサンゼルスタイムズ紙が、その事実をスッパ抜いた。このタイミングで追い詰められた水原容疑者が、ボウヤー氏に送ったメッセージと見られる。

 NBCスポーツは「ブックメーカーは『肩代わり(cover job)』と呼んでいた。水原容疑者は『厳密に言えば(Technically)私は盗んだ』と言った。この言葉の1つ『Technically』が際立つ。水原容疑者は、盗んだか、盗んでいないかのどちらかだ。『Technically』の言葉は連邦当局が発表したほど白黒がハッキリしていないのでは?という臆測を呼ぶ。もしすべてがグレーであれば、大谷が潔白でいることは難しくなる」と指摘した。
訴状では、水原容疑者が、どうやって大谷の口座に無断でアクセスして1600万ドル(約24億5000万円)もの送金を行ったかの手口が具体的に明かされていた。大谷になりすまして銀行に電話をかけて口座のロックを解除したことや、大谷の資産を管理していた会計士や金融の専門家に「大谷が非公開を希望している」と嘘をつき、口座にアクセスできないように工作していたことも判明している。また「ニューヨークタイムズ紙」が報じた記事によると韓国の開幕戦後にホテルの会議室で大谷と1対1で会い、すべてを告白した水原容疑者は、罪を逃れるために「借金を肩代わりしたことにしておいてくれないか」と懇願して大谷に拒否されている。
プライベートなメッセージのやりとりでボウヤー氏が「(大谷が)肩代わり(cover job)したことがわかっている」とメッセージしたり、水原容疑者が「厳密に言えば(Technically)」と返したことが問題視されるのはわかる。だが、水原容疑者は、おそらくボウヤー氏にも「大谷が肩代わりしてくれている」と嘘をつき、掛け金の上限額のアップや、さらなる信用賭けを勝ち取っていたのだろう。「大谷にバラすぞ!」と追い込みをかけられていた相手に「盗んでいた」などの弱みは絶対に見せない。そう考えるとボウヤー氏が「(大谷が)肩代わり(cover job)したことがわかっている」と発言するのは納得がいくし、水原容疑者が「盗んだ」ことを初めて胴元に明かす際に「厳密に言えば(Technically)」と言い訳をしたとも考えられる。
同メディアは「もし(水原容疑者が)大谷の口座から盗むに十分近い存在でありながら賭博行為自体を秘密にできる人間だったという以上のことであるならば、彼はハッキリと(真実を)言う必要がある。さもなくば彼は大谷から多額の盗難を働いたことで厳密にそして実際に罪を負うことになるだろう」と記事をまとめた。
連邦当局は「大谷は被害者である」と断言。水原容疑者は訴追された翌日に法執行機関に出頭して身柄を拘束され、ロス連邦地裁で保釈審問が行われ、大谷との接触禁止、パスポートの返納、ギャンブル禁止、ギャンブル依存症の更生プログラムの受講などを条件に2万5000ドル(約380万円)の保釈金で保釈されている。司法取引の交渉中であるため罪状認否は5月9日に行われるが、連邦当局に訴追された内容を否定して無罪を主張することはないだろう。
またUSAトゥデイによると、この問題を調査しているMLBも、連邦当局の捜査が終わり次第、速やかに大谷の事情聴取を行い、不正がなかったことを明らかにして幕引きをはかる見込みだという。