阪神が4月30日、マツダスタジアムで行われた広島戦に7−1で逆転勝利、3連勝で貯金を今季最多の「6」に伸ばして首位をがっちりキープした。先発の村上頌樹(25)が1失点完投、4番の大山悠輔(29)が3四球を選び打線をつなぐなど、2023年に優勝したチームの勝利パターンが戻ってきたが、注目は4安打&全打席出塁した5番のシェルドン・ノイジー(29)だろう。ここ5試合の打率は.526。なぜノイジーは覚醒したのか。そこには沖縄キャンプ前日に岡田彰布監督(66)が授けた教えがあった。

 「ノイジーえらいわ。どうしたんやろ」

 2023年の優勝パターンが戻ってきた。
エースの村上が秋山に「ビックリした」という先頭打者アーチこそ浴びたが、“スミイチ”に終わらせての112球の完投勝利。狙われていると察知すると、3回以降、ストレート中心の配球を変化球中心に切り替えて、カープ打線を散発に抑えた修正能力も見事だった。
打線も昨季リーグナンバーワンの獲得数を誇った粘り強い選球による四球が点を線にした。4番の大山は3四球。そのすべてが得点に絡んだ。ひと回りは、各球団ともに阪神への与四球対策を練り、意図的にストライクゾーンで勝負してきたが、打線の調子が上がってくるとやはり粘られて四球でつながれる。マルチ安打の坂本は、3打点を稼いだが、こういう下位打線のつながりも含めて、岡田監督が浸透させた阪神の野球は、2024年にもそのままあてはまってきた。
特筆すべきはノイジーだった。4安打&全打席出塁の大活躍。
スポーツ各紙の報道によると岡田監督も「ノイジーはえらいな。どうしたんやろ。わからんけど」と、驚きのリアクションを示したという。
2回一死から四球を選び、坂本のタイムリーで同点ホームを踏むと、4回には無死一塁からレフト前ヒットでつなげた。カウント2−1からの4球目に床田が外角へ投じた微妙な変化球がストライクと判定されると、なにやら、その場で不満を口にして怒りを隠さなかった。こういう態度を表に出すときのノイジーは、ほぼ打てなくなるが、この日は、次の内角球をつまりながらもレフト前へ運び逆転劇につなげた。
6回にもまったく同じパターンで先頭の大山が四球を選ぶと、コンパクトに振ってセンター前ヒット。一死一、三塁から、坂本のライトへのファウルフライを1点差だったにもかかわらず広島の野間がキャッチする選択をして貴重な犠牲フライとなった。7回には、一死満塁で2番手の益田からレフト前へタイムリー。9回には先頭打者としてライトへ流し打ち。なんと全打席出塁しての4安打の固め打ちである。
これで5試合連続ヒットとなり、ここ5試合での打率は驚異の.526。トータルの打率も3割に乗った。開幕スタメンを前川に明け渡すなど、開幕から17試合では、スタメン出場は9試合に限られていたが、2年目の助っ人が完全に覚醒したと言っていい。
なぜか。
岡田監督は「ちょっとバットが立ってきている」と指摘した。

 球団は当初ノイジーを1年限りで解雇する方針だった。守備力はあるが、レギュラーシーズンの成績は、133試合、打率.240、9本塁打、56打点で、推定1億8000万円の年俸からすれば、あまりにも物足りない数字だった。岡田監督も残留をフロントに訴えることもしていなかった。
だが、日本シリーズでは、第6戦で現在ドジャースの山本由伸から先制ホームランを放ち第7戦では0−0で迎えた4回一死一、二塁に宮城大弥からも先制の3ラン。38年ぶりの日本一を引き寄せる価値ある一撃で残留アピールに成功した。岡田監督は、山本と対峙した第1戦の5回に無死二塁からノイジーに初めて右打ちのサインを出したが、それに応えてライトへ深いフライを放ち、タッチアップで走者を三進させた。岡田監督は、この進塁打を評価して、フロントに具申し、一転、残留が固まった。ただ条件をつけた。減俸と打撃改造。寝かせて構えているバットを立てることを条件にしたのだ。
しかし、2月の沖縄キャンプの前日に両者が話し合った際にノイジーは「メジャー時代にそれで打てずにクビになったトラウマがある」として、バットを立てて構えることを拒否した。
岡田監督は、こう説いた。
「バットを寝かせて構えてもええんよ。問題はテイクバックでトップの位置に入るときに立たせておく必要があるということ。そうしないとヘッドが立たず、ボールを下から叩くことになってゴロやポップフライしか飛ばんよ」
ノイジーは、その説明に納得したそうだが、キャンプ、オープン戦と通じて、あまり変化は見られなかった。一方で結果を出し続けていた前川を岡田監督が開幕スタメンに抜擢したのも当然だった。
だが、ここにきてノイジーに変化が出てきた。
阪神OBの評論家は、「ヘッドが立ち、バットが最短距離を通って上から出るようになっている。しかも強引に引っ張ることはなく、センターから右方向の打球を意識してコンパクトにスイングできるようになってきた。長打は期待できないが、これだけチャンスをつなげることができるなら軽打でいい」と分析した。
テイクバックの際に、しっかりとバットが立ち、ヘッドが立った状態でスイングができるようになってきたのである。“岡田の教え”を実践できるようになったのが好調の理由と言っていい。
ついに打率は.303となり3割に乗った。1本塁打、6打点は、まだ期待に応えているとは言えず、ホームランの怖さがないのも物足りないが、“マシンガン”のノイジーもいいだろう。
あとは、スタメン復帰した佐藤の目覚めを待つだけ…。この日は最終打席にレフト前ヒットは打ったが、ボール球に手を出す悪い癖はまったく修正されていなかった。