プロボクシングのIBF世界ライト級王座決定戦が12日に豪州パースで行われ、元3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコ(36、ウクライナ)が、元ライト級4団体統一王者のジョージ・カンボソス・ジュニア(30。豪州)を11ラウンド2分49秒にボディショットでキャンバスに沈めてTKO勝利。3年7か月ぶりに王座に返り咲いた。ロマチェンコは、スーパーバンタム級の4団体統一王者である井上尚弥(31、大橋)との対戦論争が巻き起こっているビッグネームの一人。次戦は5月18日にWBO世界同級王座決定戦に挑む3階級制覇王者エマヌエル・ナバレッテ(29、メキシコ)か、WBC世界同級王者のシャクール・スティーブンソン(26、米国)との統一戦が有力視されているが、WBA世界同級王者のガーポンタ・デービス(29、米国)もXにて対戦を呼び掛けるなど、ロマチェンコの復権で“ライト級ウォーズ”が面白くなってきた。

 ボディショットで元4団体統一王者を沈める

 やはりロマチェンコは強かった。
11ラウンド。敵地に乗り込んだロマチェンコは右を打ってからサイドに動き左ストレートを顔面にヒットさせて巻き込むようにしてカンボソスを倒した。このビッグマッチのレフェリーを任されたJBC所属の中村勝彦氏はスリップと判断したが、もうカンボソスに反撃する力は残っていなかった。右フックから強烈な左のボディショット。元4団体王者は、たまらずヒザをついた。なんとか立ち上がったが、コーナーにつめてラッシュし、もう横向きになってしまっていたカンボソスに再び左ボディをお見舞いするとうずくまるようにダウン。中村レフェリーが間に割って入り、TKOを宣告するのとほぼ同時に陣営から白いタオルが投げ込まれた。
「私は再び世界王者にカムバックした。この勝利は(セコンドに入っていた)父に捧げたい」
ロマチェンコは、関係者、スタッフ、家族、対戦相手のカンボソス、そして、今なおロシアとの戦禍にある母なるウクライナに感謝の意を伝えた。
「今日はノックアウトを狙えた。『ノーマス・チェンコ』ではなかった」
1年前にライト級の4団体統一王者のデビン・ヘイニー(米国)に挑戦したが、0−3判定で敗れた。物議を醸す判定だったが、一方で限界説も流れていた。ロマチェンコは、ロベルト・ディラン(パナマ)が、シュガー・レイ・レナード(米国)に試合放棄のTKO負けを喫した際に発した「ノーマス(もうたくさんだ)」という有名な言葉を使って、自らの復活を宣言した。
1ラウンドからロマチェンコは、スピードとテクニックで圧倒した。ジャブに、サウスポースタイル独特の左からの逆ワンツーを交えたコンビネーションをテンポのいいボクシングの中で自在にヒットさせた。プレスをかけてサイドへ常に動くのでガンボソスは何もできなかった。途中、ボディを強振して、ペースを奪い返そうとしたが、ステップバックで交わされ、8ラウンドには右目上をカット。10ラウンドまでの採点表は、日本の染谷路朗を含むジャッジの2人が99−91とロマチェンコを支持。もう一人も98―92というほぼワンサイドゲームだった。
「私のプランは相手に合わせることだった。私が戦いの間にやったことだ。力強くフィニッシュしなければいけないことはわかっていた。最後の3ラウンドで、私は、それをやったんだ」
ロマチェンコはそう試合を回顧した。
一方のカンボソスも「私はやれることをすべてやった。彼は強敵だった。歴史に残る最強ボクサーの1人だ」と完敗を認めてロマチェンコに敬意を示した。

 試合前には東京ドームでルイス・ネリ(メキシコ)を倒した井上と、3階級も違うロマチェンコとの対戦論争が盛り上がっていた。リング誌が制定しているパウンド・フォー・パウンド1位に輝いたモンスターの強さを示すように、階級を超えた無謀なマッチメイクを求める声がファンや関係者の間から、ひっきりなしに飛び交った。だが、元WBO世界スーパーライト級王者のクリス・アルジェリ(米国)が、米ProBox TVに語った「井上が今ホットな話題になっているから、このような論争に人々が振り回されている。井上は122ポンド級(55.34キロ、スーパーバンタム級)に上げたところ。彼がすぐに130ポンド級(58.97キロ、スーパーフェザー級)、135ポンド級(61.23.キロ、ライト級)に上げるとは見ていない。135ポンドでガーボンタ“タンク”デービス(WBA世界ライト級王者)と戦えば?という話も出ているようだが、そういう論争はやめて欲しい。ロマチェンコも井上戦に興味は抱いていない」という意見が正論だろう。
ロマチェンコの王座奪還で盛り上がってきたのは、荒唐無稽な井上戦ではなくライト級ウォーズだ。
トップランク社のボブ・アラムCEOは、さっそく対戦候補にWBC世界同級王者のスティーブンソンの名前をあげた。5月18日には3階級制覇王者のナバレッテが、アマ時代にロマチャンコと同じウクライナの代表メンバーだった18戦無敗のデニス・ベリンチクと、WBO世界ライト級王座を争うが、勝って4階級制覇に成功すれば、有力な次期対戦候補となる。またWBA世界同級王座は、これまた井上との対戦論争が起きている29戦無敗の“KOマシン”のデービス。そのデービスは試合途中にXに「フランクをやっつけた後に対戦したい」と投稿した。デービスは6月15日に18戦無敗のフランク・マーティン(米国)との防衛戦が決まっているが、彼もまたロマチェンコに挑戦状を叩きつけた。ライト級の王座統一の動きが本当に熱くなってきた。
またアンダーカードで行われたWBC世界スーパーフライ級暫定王座決定戦では、元WBO世界スーパーフライ級王者のアンドリュー・マロニー(豪州)が、元WBC世界ライトフライ級王者のペドロ・ゲバラ(メキシコ)に1ー2判定で敗れて引退を示唆した。この試合を裁いたのもJBCから派遣された福地勇治氏だった。