阪神が14日、愛知県豊橋市で行われた中日戦に2−4で逆転負けを喫して首位から陥落した。2−1で迎えた8回無死二塁で中日の送りバントを処理した坂本誠志郎(30)の送球を三塁の佐藤輝明(25)が落球。ここからピンチが広がり逆転を許してしまった。サトテルの相次ぐ守りのミスにSNS上では「2軍に落とせ」の声が殺到する異常事態に。連覇を果たすためにはなくてはならない戦力だが…。

 「あれで終わりよ。あんなプレーばっかり出る」

 豊橋市民球場に駆けつけた虎党が凍り付いた。
まさかのミスが起きたのは1点のリードで迎えた8回だ。ここまで1失点に踏ん張っていた村上が、先頭の岡林に二塁打を許し、中日ベンチは、この日、3安打の田中にバントのサイン。そのバントは、キャッチャーの前でバウンドし、処理した坂本は落ち着いて三塁へ送球した。タイミングは完全にアウト。しかも坂本の送球は、滑ってくる走者の足元への“ど”ストライクだったが、タッチを焦った佐藤がグラブに当てながらも落球してしまったのだ。
一死一塁となるはずが、無死一、三塁とピンチが広がり、流れは一変。村上は続くカリステに同点タイムリーを浴び、一死満塁となってから「内野も前進でしたし、そんなに強振することなくコンパクトに振ろうと思って打席に入った」という石川に、ボールゾーンに落とすフォークをバットの先ですくわれた。その打球はライト前へ落ちる勝ち越しの2点タイムリーとなってしまった。
スポーツ各紙の報道によると、岡田監督は佐藤の落球場面に触れ、「いけた(三塁でアウト)と思ったけど、あれで終わりよ。キャッチボールやからな。あんなプレーばっかり出るんやから」と、その雑なプレーを嘆いた。
佐藤は4回にも一死から石川の三塁を強襲した打球に足もグラブも動かすことができずにスルー。記録はヒットとなったが、事実上のエラーを犯していた。岡田監督は、村上の今季初登板となる4月2日の横浜DeNA戦でも佐藤のミスが足を引っ張っていたことを指摘した。佐藤はその試合で、牧の正面のゴロを弾くタイムリーエラーを犯して村上は負け投手となった。
この日の落球で早くも今季6個目のエラー。
実は7点差をひっくり返された11日の横浜DeNA戦でも平凡な正面のゴロを一塁へ悪送球。このエラーがきっかけとなって大逆転を許した。
岡田監督は勝ち負けに一喜一憂はしない。野球にミスが出ることも織り込み済み。技術や能力で補えない失敗を責めることはしない。だが、その中身はしっかり精査していて、集中力や気持ちの持ち方で防げるミスについては看過しない。その横浜DeNA戦のベンチで指揮官は“激オコモード”で、緊迫感をチーム全体に伝えたという。だが、サトテルにはそんな空気が伝わらなかったのか。また同じケアレスミスで勝ちゲームを負けに導いた。
SNSやネット上では、ニューヨークヤンキースのファンよりも手厳しいことで知られる虎党から佐藤の2軍落ちを要求する声が相次いだ。
「チームの士気にかかわるから2軍へ落とせ」
「もう2軍でもええんちゃうの 打撃どころか守備は言い訳できんて」
「攻守に精彩を欠く佐藤は2軍調整が必要かも」
「2軍に落として若手にチャンスを」
「気持ちが入っていない。2軍でメンタルからやり直せ」
一方で「スタメンは外してもらいたいが、2軍にいけとまでは思わない」という“2軍に落とせ”コールに反発する意見も少なくはなかった。

 岡田監督は、昨年6月25日に不振の佐藤を2軍に落とした。6月24日の敵地での横浜DeNA戦でスタメンから外れ、出番がないまま試合後に2軍行きを通告された。岡田監督が佐藤を2軍に行かせた理由は、不振ではなく、スタメン落ちを宣告された後の態度にあった。佐藤は試合前練習のノックにも参加せず、試合中は、ベンチで声も出さずにロッカーに引っ込んでモニターを見ていた。
「こりゃあかん」と感じた岡田監督は、すぐさま2軍落ちを決断した。
「“なんでオレがスタメン落ちなんや”と不満だったのか。それともなんも考えていなかったのか。理由はしらん。途中出場の準備をする前にベンチの前に座って、声を出してスタメンではない選手がチームのために何ができるかを考えなあかんやろ。もちろんプロ野球はアマチュア野球とは違う。ひとりひとりが個人事業主よ。でも個人競技ではない。目標はなんや。アレやろ。タイトルホルダーが何人出ようと、勝たなきゃ、その価値なんかないやん。野球人としてあるべき姿が佐藤には欠けとったんよ」
岡田監督はプロ野球選手としてのあるべき姿を2軍落ちという荒療治で佐藤に伝えたかったのである。最短10日間で1軍に戻ってきた佐藤は、8、9月と打ちまくりリーグ優勝を加速させる原動力となった。
では、今佐藤にもう一度、2軍落ちという荒療治を科せば、彼の何かが変わるのか。まだ打率は.209で3本塁打、17打点の数字しか残せていない。この日は2安打を放ち、6回に右中間を破った二塁打から逆転劇につなげたが、ボール球を振るという悪いクセが完全に修正されたわけではない。それでも佐藤は連覇を狙うためには必要な戦力である。3年連続で20本塁打以上をマークした、そのポテンシャルに疑いはない。スランプがないとされる守備で最低限の仕事さえすれば、岡田監督は我慢して起用を続けるだろう。だが、今その最低限の仕事ができていないという危機的状況にあることも確かである。
ただこの日に限って言えば敗因は佐藤のミスだけではなかった。
8回、岡林に打たれたライトオーバーの二塁打が逆転劇を許す発端となったが、ライトの森下は打球の判断を誤り、一瞬、前へスタートを切っていた。1点差の8回。状況を考えると頭上を抜かれる長打だけは絶対に避けねばならない場面だった。森下の頭の中にその「注意書き」があったのかどうか。捕球できていれば超ファインプレーだったが、森下の守備力からすれば、ベストな動きできていれば、その可能性は十分にあった。

 さらに佐藤の落球で無死一、三塁となって、カリステに同点タイムリーを打たれた村上―坂本のバッテリーの配球もいただけなかった。カリステはボールゾーンの落ちるボールに弱い。5回の第3打席ではワンバウンドになるフォークに手を出して空振りの三振に倒れている。
カウント3−1からバッテリーはストレートでファウルを打たせた。だが、フルカウントになってバッテリーはカリステがフォークを狙っていると考えたのだろう。裏をかいた配球で続けてストレートを選択したのだ。しかも、村上のコントロールが甘くなった。外角高めに浮いたストレートをライト前へ弾き返され同点とされた。
セ・リーグでタイトル獲得経験のある評論家は、「外国人選手に対して裏をかく配球はいらない。フォークで三振を取りにいってよかった。また村上は勝負どころでのコントロールが甘かった」と指摘した。
岡田監督は球数が100球を超えた村上を8回も続投させた。桐敷がブルペンにいればバトンタッチだったのかもしれないが、同点にされ、なお、無死一、二塁で細川に四球を与えて満塁になっても動かなかった。そこまでの中田、石川への投球内容から判断しての続投だったのだろう。中田は、ここまでまったくタイミングが合わず3打席凡退。石川も三塁強襲のヒットは打っていたが、前の打席ではフォークに手を出しての三振だった。村上は、中田を三振に斬ってとったが、石川にタイムリーを許した。そのボールゾーンに落とすフォークは悪い球ではなかった。今日15日は豊橋から名古屋へと戦いの場を移す。先発は左腕の大竹。嫌なムードを断ち切りたい重要なゲーム。岡田監督は、サトテルの処遇も含めて、どう動くのだろうか。
(文責・RONSPO、スポーツタイムズ通信社)