中日―阪神戦(15日・バンテリンドーム)は0−0のまま延長戦に突入する緊迫のゲームとなった。阪神が延長11回に近本光司(29)のタイムリーで奪った1点を守りきり1−0で勝利した。中日の立浪和義監督(54)は9回無死二塁から守護神のライデル・マルティネス(27)を投入する勝負手を打ちピンチを乗り切ったが、その流れを生かすことができなかった。勝敗を分けたポイントはどこにあったのか。

 近本はカウントを追い込まれることを望んでいた

 0−0の緊迫ゲームが動いたのは9回だった。
阪神がここまで3安打無得点と抑え込まれていた小笠原から、先頭の中野が右翼線を破る二塁打で出塁したのだ。次打者は岡田監督が、「3番の打率が悪い。近本が一番打点をあげているから」と12日の横浜DeNA戦から3番に据えて3試合目となる近本。ここで立浪監督が動いた。
97球の小笠原から守護神のライデルにスイッチしたのである。
思い切った勝負手にバンテリンドームがざわついた。しかも、立浪監督は、近本を申告敬遠。塁を埋めて大山、ノイジー、渡邉との勝負を選択したのである。
セ・リーグでタイトル獲得経験のある某評論家は、中日ベンチの狙いをこう解説した。
「1点を取られたら終わりのケース。近本の後に右打者が3人並ぶ。後攻めのチームが、同点の9回に守護神を切るのはセオリーだし、ライデルであれば、3つのアウトを取れると考えたのだろう。近本は得点圏打率が高いし、何でもできる。中日からすればタイムリーだけでなく一死三塁の場面を作られることも避けたかっただろう。塁を埋めて守りやすくすることもあり敬遠という選択は当然の策だったと思う」
ライデルは期待に応えた。
絶不調の大山を153キロの高めのストレートで空振りの三振に斬りノイジーもストレートで押し込みセンターフライ。2軍落ちした佐藤に代わって昇格してきた渡邉はストレートに強いのが長所だが、ライデルのそれには振り遅れていた。最後は内角にズバッとストレートを決めて大ピンチを切り抜けたのである。
流れは中日にあった。
だが、その流れを堰き止めたのが、2軍調整から再昇格して以来、見違えるかのように調子を取り戻している虎の右腕の石井だった。9回のマウンドに上がると、途中出場の三好、石川、山本を三者連続三振。立浪監督が、勝負手で作ったムードに冷や水を浴びせた。
そして11回である。
4番手の左腕の齋藤から1番で起用されている森下が左中間を破る二塁打で出塁した。続く中野はバントを連続で失敗したが、見送ればボールの外角の変化球をうまく引っ掛けて一、二塁間にゴロを打った。田中が回り込んで好捕したが、代走植田が三塁へ進塁。価値ある進塁打である。
9回に敬遠された近本は「先頭で森下が二塁打を打ってくれたので、絶対チャンスに回ってくるなと思っていた。中野も気持ちを出してバントしようとしてくれましたけど、結果的に進塁打を打つことができたので、これは絶対打たなあかん」と決意したという。

 ただその気持ちは少し空回りした。
「初球に凄い空振りをしました」
初球の見送ればボールの外角スライダーに手を出して空振りした。2球目の外角ストレートもファウルにして簡単に追い込まれてしまった。
だが、近本はその打者不利のカウントを歓迎していたという。
「ランナーが海(植田)だったので何とかバットに当てようと思っていたので、追い込まれたほうがいいのかなと。楽しく打席に入っていました」
バットに当てるだけなら、すべてのストライクに手を出さねばならないカウントの方がシンプルに対応しやすいと考えたのだ。
対する齋藤の3球目の外角スライダーはボールになった。ここまで全球が外角だった。4球目に加藤は内角にミットを構えた。だが、齋藤は、そこを攻めきれず投じたシュートは逆球となってボール。加藤は続く5球目も内角を要求。齋藤のシュートは真ん中低めへと流れてファウルになった。齋藤のシュートは明らかにコントロールできていなかった。内角を攻めきれていなかったのである。しかし加藤はカウント2−2からの6球目も内角高めにミットを構えた。3球連続の内角要求。そのシュートはまたしても逆球となった。浮いたわけではなく低めのギリギリのボールゾーンに向かったが、「逆球には球威がなくなる」の定説通り、「バットに当てること」を考えていた近本がバットの芯を合わせて糸を引くような打球がライト前へ。この1点が決勝点となった。
前出の評論家は「齋藤は内角を攻めきれていなかった。なぜキャッチャーはその日の状況を把握して配球に生かさなかったのか。逆球になることは予測できた。すべては結果論ではあるが、3球続けての内角球要求は疑問だ。もしかすればキャッチャーのリードで近本のタイムリーは防げていたのかもしれない」と分析した。
スポーツ各紙の報道によると、立浪監督は、防御率0.00だったサウスポーが喫した初黒星を「責めることができない」とかばった。
一方の岡田監督は、「こういうゲーム展開は、やるべきことをきっちりとやった方に点が入るよ」と振り返ったという。
中日は好投の大竹を攻めて6回に無死二塁のチャンスを作った。
だが、5番打者の中田はショートゴロに倒れ、走者を還すどころか進塁させることもできなかった。次打者の石川はショートゴロ。もしランナー三塁ならば1点は入っていた。二死から山本の三塁を強襲したライナーも佐藤に代わって三塁を守っていた渡邉の好守に阻まれた。
岡田監督は、このイニングを「やるべきことができていなかった」対照的な例として持ち出したという。
阪神が1点差ゲームをモノにしたのは、これが10試合目。対する中日は1点差負けが4試合目。昨季の優勝チームと最下位チームの違いの一言では片づけられない。ただ、この差が混セを抜け出すチームの差につながっていくのかもしれない。