プレミアリーグの最終節が19日(日本時間20日)に行われ、日本代表DF冨安健洋(25)が所属する2位のアーセナルがエヴァートンに2−1で逆転勝ちしたものの、首位のマンチェスター・シティもウェストハムに3−1で勝利したため、20シーズンぶりの優勝を逃した。前半43分には、冨安が執念の同点ゴール。英メディアは「巧みなフィニッシュ」「チームを活気づけた」と評価し、後半終了間際にチームは勝ち越したが、4連覇を達成したマンチェスター・シティに勝ち点で2ポイント届かなかった。

 グランダーのクロスに右足を振り抜く

 奇跡は起こらなかった。それでも、最後まで逆転優勝の夢を繋いだ。冨安のゴールとともに、アーセナルのホーム、エミレーツ・スタジアムが熱狂を取り戻した。
左サイドバックで先発していた冨安が、今シーズン2ゴール目を決めて試合を振り出しに戻したのは前半43分。エヴァートンの直接FKがMFデクラン・ライス(25)の頭に当たり、ゴールに吸い込まれる不運な形で先制点を献上してからわずか3分後だった。
右サイドを細かいパス回しで崩した直後。ゴール右のポケットを突いた、ノルウェー代表マルティン・ウーデゴール(25)がマイナス方向へ折り返したグラウンダーのクロスに、左サイドからゴール中央へシフトしてきた冨安が右足を一閃。鮮やかなダイレクトシュートをゴール左隅へ突き刺した冨安は、何度も雄叫びをあげて味方を鼓舞した。
首位のマンチェスター・シティに勝ち点2ポイント差の2位で迎えた最終節。アーセナルが逆転優勝し、20シーズンぶりの美酒に酔う条件はエヴァートンに勝ち、シティがウェストハム戦で引き分け以下に終わるケースしかなかった。
しかし、シティは前半開始早々の2分、そして18分とイングランド代表MFフィル・フォーデン(23)が連続ゴール。ホームのエティハド・スタジアムを早くも優勝モードに導き、スマートフォンで途中経過を知ったアーセナルのサポーターを落胆させた。
しかし、冨安の同点ゴールとほぼ同じ時間にウェストハムも1点を返した。選手採点でウーデゴールと並ぶチーム最高の「8」を冨安につけた英メディアの『Sky sports』は、一気に盛り上がったリーグ優勝の行方を次のように伝えている。
「ウーデゴールの折り返しから冨安の巧みなフィニッシュでガナーズ(アーセナルの愛称)が同点に追いつくと、すぐにエティハド・スタジアムでもウェストハムがゴールを決めたと報じられた。その瞬間からエミレーツ・スタジアムは息を吹き返した」
しかも、ウェストハムが立て続けにゴールを決めて同点に追いついた、という誤った情報も伝わった。そのときの光景を英紙の『The Guardian』はこう伝えた。
「ミケル・アルテタ監督とガナーズのサポーターが切望した奇跡は、ほんの数十秒の間ながら、実際に起こるかのように見えた。しかし、デイヴィッド・モイーズ監督に率いられるウェストハムが同点に追いついた、という情報が偽りだとわかっても、ガナーズサポーターの心拍数を落ち着かせるのに何の役にも立たなかった」

 まるでジェットコースターのように情報が錯綜し、サポーターの感情が刺激されたスタジアムの光景を、英公共放送『BBC』も次のように伝えた。
「開始数分でフォーデンがゴールを決めたニュースが流れ、落ち込んでいたエミレーツ・スタジアムのスタンドは、冨安の同点ゴールで再び活気づいた。ウェストハムが同点に追いついたという噂も広まり、ガナーズの逆転優勝を祝う気の早いサポーターの様子がカメラにとらえられた。ガナーズの一部サポーターは近くにいたジャーナリストたちに、エティハド・スタジアムの実際のスコアを教えてほしいと話しかけたほどだった」
しかし、後半14分にMFロドリ(27)が追加点を決めたシティは、リードを再び2点に広げる。対するアーセナルは、同44分にドイツ代表FWカイ・ハフェルツ(24)がゴールを決めてついに逆転に成功する。実はこのときもウェストハムが1点を返していたが、直後にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入して取り消された。
その後はともにスコアが動かないまま、アーセナルとシティがともに勝利して全日程を終えた。DFガブリエウ(26)の負傷退場に伴い、後半14分からは左センターバックに回った冨安は4試合連続のフル出場を果たしたが、プレミアリーグ史上初の4連覇を達成したシティに勝ち点に2ポイント届かなかった。
英大衆紙『THE Sun』は、終盤戦でシティと壮絶なデッドヒートを演じた、アーセナルのミケル・アルテタ監督(42)の試合後のコメントを伝えている。
「これらはすべて、選手たちが信じ始めたから起きた。辛抱強くなってきたし、私たちがやろうとしていることを理解してくれた。すべての功績は、素晴らしい選手たちとスタッフのおかげだ。いまは休息を取り、シーズンを反省し、このチームを鼓舞し続けるときだ。私たちはいま以上のものを求めていくので、この結果には満足しない」
アーセン・ベンゲル監督(74)のもと、26勝12分けと無敗で頂点に立った2003-04シーズン以来となる20年ぶりのプレミアリーグ優勝は逃した。それでも無敗優勝時の勝ち点90に迫る89ポイントを積み重ね、怪我から復帰した冨安が左サイドバックに定着した終盤戦を6連勝でフィニッシュした軌跡は、来シーズンの逆襲へ繋がっていく。