西武に浮上の気配が見えてこない。5月27日に松井稼頭央監督(48)を休養させ渡辺久信GM(58)が兼任の監督代行に就任する電撃人事を敢行してセパ交流戦に突入したが、11日のベルナドームでの広島戦に1−2で敗れて今季2度目の8連敗。借金は45年ぶりに「22」まで膨らんだ。かつて西武を日本一に導き黄金時代を築いた大御所の広岡達朗氏(92)は「これは一時しのぎ。来年からは監督を新しくして出直さねばならない」と緊急提言。次期監督として西武OBでソフトバンクの監督として3度のリーグ優勝、5度の日本一を経験している工藤公康氏(61)を推薦した。

 松井稼頭央監督を途中休養させた電撃人事の効果もなし

 1点を追う9回二死二塁。最後のバッターの源田壮亮の打球がファーストへ飛んだ。源田は一塁へ決死のヘッドスライディングを試みたが、アウトをコールされ、しばらくその場を立ち上がれない。
泣いていた。
先発して7回を2失点と踏ん張りながらも報われなかった今井が駆け寄った。何かを話しかける。今井達也も泣いていた。
悪夢の8連敗。今季2度目だ。
「今日はライオンズが主導権を取る気持ちで試合に挑みましたが、相手の先取点で試合の流れが相手にいってしまいました。でも、そこで気持ちを切らさずに最少失点に抑えることができたことはよかったです。その後、6回に四球が重なり無駄な球数を投げてしまったことは反省点です。また2盗3盗と許す場面もありましたので、次回はしっかりと防げるように修正していきます」
今井の広報談話だ。
先のパ・リーグ最下位の西武と交流戦最下位の阪神が激突した“ワーストシリーズ”で3タテを許した。8日の第2戦では、昨年オフに宮川哲とのトレードでヤクルトから移籍した元山飛優を4番に据え、9日の第3戦では支配下登録したばかりの奥村光一を1番、2年前の現役ドラフトで阪神から獲得した陽川尚将を4番に置いたが、8回一死まで才木浩人に対してなんとノーノー。「足がつった」という才木がインターバルを取った直後に代打の山野辺翔がライトフェンス直撃の三塁打を放ち、なんとか屈辱は避けられたが、結局、ゼロを9つ並べた。
11日は、その山野辺を2番に抜擢、4番には“おかわり君”を据えるなどまた打線を組み替えたが、5月の月間MVPに輝いた床田寛樹に対して7回まで無得点。8回一死から途中出場の佐藤龍世が右中間スタンドに放り込んだ2号ソロによる1点しか奪えなかった。
開幕から低空飛行が続き、早々と自力優勝が消滅した松井監督を事実上、途中解任し、11年ぶりに渡辺GMを現場復帰させる電撃人事を敢行したが、その効果は今のところ出ていない。交流戦の成績は3勝10敗で最下位。西武OBで、1982、1983年と連続日本一となり、西武の第一次黄金時代を築いた広岡氏は、まずこの監督人事に驚いたという。
「松井は負けが込んでパニックになってしまったのかもしれない。誰がどう決断したのか知らないが、野球の現場を知らないフロントが決めたとすれば見通しが甘い。西武が勝てないのは、戦力が整っていないことと、監督、コーチが、ここ数年、根気のある徹底したコーチングができているか、どうかの問題。采配うんぬんの問題ではないだろう。まず松井の体制で、なんとかするのが球団の社長、代表、GMの仕事。現場を知っていてフロントの責任者の1人である渡辺が、11年ぶりに現場に復帰するなんて考えもしなかった。ありえない人事だ」

 渡辺GMは、広岡氏が監督時代の1983年のドラフトで1位指名した選手。4球団が競合した高野光を指名したが、ヤクルトにクジで負け、ドラフト会場のテーブル上での緊急会議で、広岡氏が「時間はかかるがボールが速くて何しろ負けん気が強い」と渡辺指名を決めた。渡辺をこの世界に導いた恩師だけに「自分がGMとしてのチーム作りに失敗しておいて今さら監督はないだろう」と遠慮はない。
ここ数年、浅村栄斗が楽天、秋山翔吾がメジャーを経て広島、森友哉がオリックス、山川穂高がソフトバンクへと打者の主力が流出し続けているが、代わりの主軸となるべきニュースターは出てきていない。「ドラフトとコーチングのセットでの土台作りが機能していない」との見立てが広岡氏にはある。明らかに戦力が不足している。
今季は野手ではコルデロ、アギラーの2人を獲得したが、不調と怪我などもあり、松井監督の休養時点では、2人は共に2軍落ちしていた。渡辺GMは代行監督に就任すると自らがGMとして獲得にかかわったコルデロをすぐに昇格させたが、結局、6試合で1本のヒットも打てずに6月3日に2軍落ち。現在交流戦でのチーム打率は12球団最低の.172だ。
今井、隅田知一郎、ドラフト1位の武内夏暉の3本柱に高橋光成、ボー・タカハシ、渡邉勇太朗、松本航、現在故障で2軍調整中の平良海馬らの先発陣、外国人のストッパーのアブレイユに関してはリーグでもトップ級ではあるが、その布陣を生かし切れていない。今季0勝と調子の上がらない高橋光成は、渡辺GMが指揮をとってもまだ修正できないままだ。
広岡氏は来季の監督交代を進言する。
「渡辺は一時しのぎ。来年からは新しい監督で出直さねばならない。2軍監督の西口(文也)が候補の1人らしいが、その方式で監督をさせた松井でさえ我慢できず、2年もやらせずにクビにしたのだから、今の苦境を任せるのには荷が重い。私は西武を代表するOBでソフトバンクで優勝、日本一を経験している工藤を推す」
広岡氏は球団OBの工藤氏を強力プッシュする。
工藤氏も広岡氏が監督就任直後の1981年オフのドラフト6位で指名した。熊谷組へ進むことが内定していたが、強引に下位指名し、3年目に広岡氏の発案で、米国の教育リーグで武者修行をさせている。西武でエースとして活躍後、ダイエー、巨人でも日本一となり、優勝請負人と呼ばれた。その後、横浜、そして2010年には西武に復帰して48歳まで現役を続け、2011年の1年の浪人生活を最後に現役を引退した。
引退セレモニーが行われたのは2012年4月7日の西武ドームでの西武対ソフトバンク戦の始球式。工藤がマウンドに立ち、当時の監督だった渡辺GM兼監督代行がキャッチャー、ソフトバンク監督で西武OBの秋山幸二氏が打席に立った。

 工藤氏は、2015年から7年間、ソフトバンクの監督を務め、リーグ優勝3度、日本一5度の成績を残した。Bクラスに終わったのは、最終年度の1年だけ。あとはすべて2位以上という好成績を収めている。
「彼はルーキーの頃に生意気で勘違いしていたが、私はアメリカに行かせた。ハングリーな野球を知ることで野球への対峙の仕方を学んだ。昔のダイエー、巨人、横浜と、いろんな球団の飯を食いソフトバンクの監督としても成功したが、今一度、外へ出て勉強している。外から野球を見て、もう一度、ユニホームを着たときには、こうしたい、ああしたいというものも出来上がっているだろう。低迷している西武を立て直すにはもってこいの候補者じゃないか」
広岡氏は愛弟子の工藤氏を推すが、他にも2軍監督の西口氏、西武OBで西武監督、ロッテ監督、中日ヘッドなどを歴任した伊東勤氏、そして松坂大輔氏らへの待望論もある。
次期監督へうまくバトンタッチをするためにも今季土台を作っておかねばならない。まずは連敗脱出。背水の西武は今日12日の広島戦の先発に隅田を送る。
(文責・駒沢悟/スポーツライター)