プロボクシングのスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)に、WBAが突如、同級1位で元WBA&IBF世界同級王者のムロジョン・アフマダリエフ(29、ウズベキスタン)との対戦を指令したが、共同プロモーターのトップランク社のボブ・アラムCEO(92)は陣営が指令を拒否する方向であることを示した。米英の専門メディアが報じたもの。アラム氏はWBAのベルト返上の可能性も示唆している。陣営では9月に都内で予定されている次戦の対戦候補を元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(37、アイルランド)に1本化している。

 WBAのスーパー王者には指名試合の義務はない?!

 モンスターに突如、謎の対戦指令が降りかかった。
WBAが井上陣営に同級1位のアフマダリエフとの指名試合を指示。交渉期限は7月14日までの30日間で合意に達しない場合は入札になるという。WBAの指名試合の期限は9カ月以内で、井上が同タイトルを獲得したのは、WBA&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)を倒した昨年12月26日。指名試合の期限は9月25日になるが、そもそもタパレスから獲得したWBAのベルトは、スーパー王座で、スーパー王座には、指名試合の義務はなく一応の期限は設けられているが、それも18か月。ボクシング関係者からは「非常に珍しいケース。WBAがなぜ突然このような指令を出したのかわからない」との声が出ている。
井上陣営も当初、対戦オファーをしていたIBF&WBOの世界同級1位で指名挑戦者であるサム・グッドマン(豪州)が7月の調整試合を優先させ、“敵前逃亡”したため、対戦相手をWBOの2位で元IBF同級王者のTJ・ドヘニーに切り替え、すでに交渉を終えて1本化していたため、この指令に困惑した。何もアフマダリエフとの対戦自体を拒否しているわけではなく、この試合をクリアした場合、次の12月の有力な対戦候補として考えていた。WBAサイドにもその意向を伝えてあっただけに、突然の指令に驚きを隠せないというのが実情だ。
一方のアフマダリエフ陣営は、小躍りし、米専門サイト「ボクシング・シーン」によると、マネージャーのワディム・コルニーロフ氏は、9月21日に英国のウェンブリー・スタジアムで開催される元ヘビー級3団体統一王者のアンソニー・ジョシュア(英国)対元WBA世界同級王者、IBF世界同級暫定王者のダニエル・デュボア(英国)のアンダーカードに井上vsアフマダリエフ戦が組み込まれることを熱望した。
「そこで戦うのが理想的だ。井上対アフマダリエフが大きな国際大会に組み込まれるのはとても興味深い。本来、井上はタパレスと戦った後、(ルイス・ネリではなく)M.J(アフマダリエフ)と戦うことになっていた。井上はスペクタクルなボクサーでパウンド・フォー・パウンド・ファイターの一人だが、他のパウンド・フォー・パウンドのエリートボクサーがそうであるように彼は他のトップランキングの選手と戦う必要がある」
さらに「タパレスとネリは、ともに敗戦経験があり、ストップされたこともあるボクサー。彼らがパウンド・フォー・パウンドにふさわしい相手だったのか」と批判までした。
アフマダリエフもインスタグラムで「井上よ。準備はできているか。レッツゴー、チャンプ。レッツゴー」とのメッセージを伝えた。
そんな中で井上陣営の共同プロモーターであるトップランク社のアラムCEOが英専門メディア「ボクシングニュース」の取材に応じて注目発言を行った。
「それ(井上対アフマダリエフ)が行われる可能性はない。この男(アフマダリエフ)は誰だ?誰も聞いたことがない。我々は無名の男と戦うつもりはない。井上は日本にとって非常に大きな存在だ。3つのタイトルを持っていても4つのタイトルを持っていても井上は同じだ」

 指名試合を拒否することでWBAからベルト剥奪を命じられれば返上も辞さないという姿勢を示唆した。
リオ五輪の銅メダリストでもあるアフマダリエフは、2020年1月に米国マイアミでWBA&IBF世界同級王者のダニエル・ローマン(米国)に挑戦して僅差の判定で2冠を獲得し、その後、母国で岩佐亮佑との防衛戦にも成功したが、昨年4月にタパレスに1−2の判定で敗れて王座から転落。井上との対戦機会を失った。再起戦となる昨年12月のWBA世界同級挑戦者決定戦にTKOで勝利してランキング1位となるなど、高度なスキルと共にキレのあるパンチと回転力を持つ実力派ボクサーではあるが、アラムCEOが指摘するように世界的な知名度は低い。
米専門サイト「ボクシングシーン」もアラムCEOがWBAの指名試合指令を拒否する考えを示したことを伝えた上で、井上の今後のプランに精通している2人の関係者の話として「井上はWBAの指令を拒否して9月に日本でタイトル防衛戦を行う。次戦の契約が締結されたことは確認されていないがTJ・ドヘニーが対戦相手と考えられている」と報じた。
井上自身も、2階級4団体統一を果たした後に「今後は、指名試合が絡んでくるので、ベルトを返上することになっても仕方がない」との意向を示していた。指名試合に縛られると戦いたい相手と対戦できなくなる可能性もあり、すでに4つのベルトをまとめ、東京ドームで元2階級制覇王者のルイス・ネリ(メキシコ)を6回TKOで撃破して防衛も果たした井上の価値は、もうベルトの数ではない。
井上の他に2階級4団体統一王者は2人いるが、彼らも4つのベルト維持には苦労している。ウエルター級の4団体を統一したテレンス・クロフォード(米国)は指名試合を拒否したことでIBF王座を剥奪され、ヘビー級の4団体と統一したことで、井上を抜いてパウンド・フォー・パウンドの1位にランキングされたばかりのオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)も、IBFの指名試合を拒否して、12月21日にタイソン・フューリー(英国)との再戦を優先したことで、ベルトの剥奪を警告され、指名試合延期の特例許可を申請している。
果たしてWBAはどんな反応を見せるのだろうか。