ドジャースの大谷翔平(29)が2試合ぶりの27号2ランを放ち、通算500打点をマークした2日(日本時間3日)のダイヤモンドバックス戦後に16日(日本時間17日)にテキサス州アーリントン「グローブライフフィールド」で開催される米球宴での本塁打競争を辞退する考えを明らかにした。昨年9月に行った右肘手術のリハビリへの影響を考慮した判断。デーブ・ロバーツ監督(52)は「彼一人がメジャーリーグの責任を背負う必要はない」と支持し、ロサンゼルスタイムズ紙が、現状のルールでは、余りにも選手の肉体への負担の大きい本塁打競争の中止論を訴えるなど、波紋が広がっている。

 昨年9月に手術した右肘のリハビリへの影響に配慮

 当然の決断だった。
大谷は、6−5で逆転サヨナラ勝ちしたダイヤモンドバックス戦後に米球宴の前日の15日(日本時間16日)に開催される本塁打競争への参加を辞退する考えを明かした。MLB公式サイトによると「色々と話をしている途中ですが、右肘のリハビリがあり、今回はおそらく出ない方向で進むんじゃないか」とコメントした。
大谷は1点を追うダイヤモンドバックス戦の7回無死一塁で飛距離433フィート(約132メートル)という特大の逆転27号2ランを右中間スタンドに運び、確信歩きどころか、確信仁王立ちした。ナ・リーグの本塁打争いのトップを独走。あっさりとメジャー通算500打点をマークした姿に誰もが忘れてしまっているが、彼は昨年9月に受けた右肘の靭帯修復手術のリハビリ途中なのだ。
MLB公式サイトによると、ロバーツ監督は、医療スタッフの意見なども聞き、球団の総意としての決断であったことを明かし、大谷の不参加を擁護した。
「彼は優勝するためにドジャースにやってきた。彼1人がメジャーリーグの責任を背負う必要はない。彼は自分の責任を理解しているが、今はリハビリの途中。ドジャースでプレーするために契約し、今最善のケアをするのが仕事だ。リハビリのない通常のときであれば、彼は参加しただろうと思う。しかし(本塁打競争では)スイングを繰り返して強度がかかり、どんな選手にとっても特別なもの。もし、そのとき(大谷に)何かが起きたとすれば、ショウヘイやドジャースだけでなく、ファンたちにとっても本当に残念な出来事となる」
10年7億ドル(約1134億円)の巨大な契約を結んだ大谷が、もし本塁打競争の参加で、右肘に異常が出て、10月のポストシーズン出場に影響が出るようなことにでもなれば一大事。ドジャースが球団としてストップをかけるのも当然だろう。
大谷は、これで3年連続の不参加となった。
2015年からルールが変更された米球宴での本塁打競争は、準決勝までは3分間、決勝では、2分間の時間制限の間に「打てるだけ打つ」という、いくら体力のあるメジャーリーガーでさえも大きな負担のかかる過酷なもの。昨年まで平均で一人43スイングも行っていた。
大谷は2021年に標高1600mにあるクアーズフィールドでの米球宴の本塁打競争に参加し、1回戦で当時ナショナルズのファン・ソト(現ヤンキース)と対戦。最初の3分間は、40スイングで16本。1分間のボーナスタイムでは、15スイングで6本を放ち、延長戦へ突入。1分間で15スイング中6本をマークするも決着がつかずに最後は3スイング勝負の再延長で敗れた。大谷でさえ疲労困憊で膝に手をつき肩で息をしていた。

 あまりにも肉体への負担が大きく、過去に本塁打競争で故障を負ったり、無理なスイングで打撃フォームを崩して後半戦に調子を落とす選手が相次いだ。そのため今季からルールをマイナーチェンジ。時間制限に加えて、準決勝までは最大40球、決勝は最大27球と球数を制限。また延長戦は、準決勝以降からとなり、1回戦で本数が並んだ場合は、最長飛距離で順位付けするなど、スイング数の負担を減らすように様々な工夫がなされたが、現在32本でア・リーグの本塁打争いでトップを独走しているアーロン・ジャッジが、早々と不参加の方針を表明するなど選手からの不人気に変わりはなかった。ジャッジは2017年を最後に不参加を続けている。
本塁打競争は、8人が参加して行われるが、現段階で参加を表明しているのは、ア・リーグでジャッジに次ぐ26本を放っているオリオールズの遊撃手グンナー・ヘンダーソン一人だけ。
ロサンゼルスタイムズ紙は、大谷の不参加表明を受けて「大谷も辞退した。もう本塁打競争は中止にすべきだ」とのタイトルをとって中止論を展開させた。
同紙は大谷の不参加表明を「オールスターの1日前に開催されるイベントにとって何たる喪失だろうか。野球界にとっても何たる喪失だろうか。野球にあまり関心のないファンの誰が、グンナー・ヘンダーソンの本塁打競争を見るためにテレビをつけるのだろうか?」としながらも「大谷の決断は、野球界の宣伝の義務に対する職務怠慢と見なされるべきではない」と理解を示した。
またロバーツ監督のコメントを紹介しつつ「大谷はポストシーズンでのプレーを望んでいる。オールスターウィークは、野球界にとって最大の舞台ではない。10月がその舞台なのだ。大谷が本塁打競争で勝った、もしくは参加するだけで、数日間は野球界に(ファンの)興味を引き寄せることができるかもしれない。しかし、大谷がプレーオフで圧倒的な力を披露することは、人気を落としているこのスポーツの軌道を変えることになるかもしれない」と説明。
「大谷は、右肘の修復手術のリハビリ段階にあるため、本塁打競争の参加はチームの幹部、トレーナー、医師の承認次第だと、くぎを刺していた。言い換えれば、この判断は、彼が期待されているマウンドへの復帰を考慮してのものだろう。二刀流選手は来年には投球を再開すると見込まれている。そして大谷は、10月のポストシーズンの戦いにたどり着きそこでプレーを披露するということに賭けたのだ」
そして、同紙は、これだけ選手に負担をかける本塁打競争は、もう中止にすべきだとの主張を展開させた。
「もうメジャーリーグは本塁打競争を中止にした方がましだ。大谷が不参加を表明した今、その(開催する)主旨はいったいどこにあるのだろうか?」
本塁打競争が、球宴ウイークを盛り上げるイベントの華であるのであれば、本塁打の打てるスターが登場しなければ価値はない。今後は、選手への負担を減らして、辞退者をなくすための、さらなる大幅な方式変更が必要になるだろう。