「原爆肯定派」。
広島と長崎に投下され、多くの人の命を奪い、街をめちゃくちゃに破壊した原爆。
悲惨な出来事を、「肯定する」なんてありえないと思いませんか。

作家・小手鞠るいさんの「ある晴れた夏の朝」は、アメリカの高校生8人が、原爆肯定派と否定派に分かれてディベートする物語です。
原爆の是非をめぐって、日系、ユダヤ系、中国系、アイルランド系…さまざまな背景をもつ高校生の男女が意見をぶつけ合います。

討論が深まるにつれ、「肯定派」はなぜそう考えるのか。真実は?誰のどんな思惑で?次々に疑問がわき、討論の渦に巻き込まれるように、物語に引き込まれました。

2018年、偕成社から出版されたこの物語を原作とした舞台が、8月に岡山市で上演されます。

アメリカの高校生が原爆の是非を討論 その狙いは…

広島の隣県、岡山に生まれ、現在アメリカニューヨーク州で執筆を続ける小手鞠るいさんに、「ある晴れた夏の朝」に込めた思いや舞台への期待について聞きました。

特別展「小手鞠るい 本の世界」9/8〜11/17 吉備路文学館

ーアメリカの高校生による原爆の是非をめぐるディベート。人種や育った環境はもちろん、世代によってもとらえかたは違うと思います。2004年の夏、8人の高校生に討論させる狙いはどのようなところにあったのでしょうか。


(小手鞠るいさん)
「話し合うことの大切さ、意見を交わし合うことから見えてくる何かがあるということを、日本の読者に伝えたいと思いました。これが本書の隠れた狙いです。

日本ではなかなか、他人と議論を戦わせるということができない、というか、しない、というか、そういう空気が蔓延していると思います。それはそれで、悪くも良くもないわけですが、アメリカではとにかく、日常においても、仕事場においても、活発に意見交換をします。

子どもも大人も、です。上司と部下であっても、議論の場では対等。日本人は対立を恐れて、すぐに『わかるわかるーその気持ちー』などと言って話を濁しますが、こちらではそういうことはまったくなく、本音でストレートに意見を言い合って、たとえ猛烈な反論を展開しても、それが終わればハグをして別れる・・・みたいな感じで、友情は壊れません。

というようなことが、日本の読者に伝わったらいいなーと思っておりました」

「一冊の本には人を動かす力があり、人を変える力もある」

ー作中の「一冊の本には人を動かす力があり、人を変える力もある」という文章がとても心に響きました。英語版も出ていますが、小手鞠さんに届いた反響の中で印象深いものがありましたらお教えください。


(小手鞠るいさん)
「被曝なさった方の係累の方、遺族の方、戦争体験者の方々からの絶賛が特に嬉しかったです。このような方々の反響はとても多く、大きかったです。

『よくぞ書いてくれた』『こういう作品を待っていた』というような声です。
『原爆が落とされる前に、日本がどんな戦争をどこでやっていたのか、忘れてはならない』というような声です。

日本は唯一の被爆国。平和を祈りましょう・・・と叫ぶだけでは平和は実現しない、と戦争体験をなさった方々は思われていたのではないかなと推察します。(あくまでも推察ですが)

あとは『この作品をアメリカ人にも、世界中の人たちにも読んで欲しい』という声も多かったです。この声を受けて、英語版の出版が実現しました」

アメリカの高校生による討論を日本人俳優が日本語で演じる舞台

RSK

小手鞠るいさんの「ある晴れた夏の朝」を原作とした「劇団うりんこ」の舞台が、8月2日、岡山で上演されます。

ー舞台化されることへのお気持ち、期待、これから観る人へのメッセージをお聞かせください。

(小手鞠るいさん)
「舞台化は去年に実現していて、東京と名古屋で大反響がございました。みなさん、最後の方で涙されるようです。親子で観に来られている方も多かったようです。

今年は、京都、宮城、そして、8月の岡山公演と続きます。舞台を観る前にぜひ、原作を読んでいただきたいです。見た後にも、本を読み返して欲しいと思っています。

そして、英語版もぜひ読んでいただきたいです。舞台と原作では、アメリカ人の台詞は日本語になっていますが、英語版ではそれが生の英語で読める(聞ける)わけです。これはもう絶対!です(笑)
『On A Bright Summer Moring』(偕成社)です。日本国内で、英語版が流通している作品はかなり稀有です」

さらに、この作品は7月9日に文春文庫になります。

RSK

(小手鞠るいさん)
「文庫になることによって、読者の幅がなおいっそう広がっていくのではないかと期待しています。この文庫には、岡山出身・大安寺高校卒業の金原瑞人さんの素晴らしい解説が付いています。本作の誕生秘話を語った、私のあとがきも付いています」