特集は2005年、吉井川の上流に完成した苫田ダムについてです。30年以上に渡って住民による阻止運動が繰り広げられた苫田ダム。現在、ダムのある岡山県鏡野町では阻止運動の資料を集めた展示会が開催されています。

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完成からまもなく20年。なぜ展示会を開くことになったのか。反対闘争の歴史とダムが抱える課題を取材しました。

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児島湾の上流90キロ。貯水量は県内3位を誇る苫田ダムです。水害や渇水対策を理由に計画が明らかになったのは1957年でした。

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(武田英夫元県議)
「集落に住んでいた人を知っているから、やはり辛い」

かつて県議として住民らとダム反対闘争に関わった武田さん。通い詰めた旧奥津町の中心部は今や水の下。ダム湖は奥津湖と名付けられています。

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(武田英夫元県議)
「(沈んだのは)500戸ですから。2000人ぐらいです。年寄りから若い人まで含めて。2000人と言えば大きな集落ですから」

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建設計画が明らかになると住民は反対運動を開始。その後、合併で誕生した奥津町の議会は、町の方針である町是に「苫田ダム絶対阻止」を掲げます。反対運動もあり、当初、計画はなかなか進みませんでした。

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(当時の住民)
「田んぼもあれば山もある。先祖を守っていかなければならない。水が溜まっても逃げない。そんな弱虫でないよ」

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しかし、1980年代に入り対立は激化します。3期目に入った長野士郎知事が、強硬にダム計画を推し進めようとしたのです。

(長野士郎元岡山県知事)
「Q今後どうされます?」
「そりゃまた会いに来ますよね。あんまり派手に来られちゃ困るということを言っていたなあ」

行政がとったのは兵糧攻めでした。国は翌年、水没地区を河川に指定。町への補助金を完全にカットしたのです。

(日笠大二元奥津町長)
「なんちゅうかな、いじめいうんか、とにかくいじめていじめていじめ抜かれた感じがするな」

建設に反対する歴代の奥津町長は抗議の意味も込めて次々と辞任。反対闘争は激しさを増していきます。

「『蛇に睨まれた蛙ですわ』ほんまに。ここの地区の人がな。水没者の人が」
「Q蛇は誰ですか?」
「国か県か長野(元知事)か」

(長野士郎元岡山県知事)
「これを世間では自治に反するとかね、いろいろ言いすぎるということ一面はありますね。そうじゃないんです。やはりその、大きな利益のために一定の所で譲歩してもらわなきゃならん」

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古里を守りたいと県庁に推しかけた人々。しかし、県は硬軟を織り交ぜ揺さぶりをかけました。1世帯当たり平均1億円とも言われる補償金。

「どんなんですか皆さん」

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一枚岩だったはずの反対闘争は徐々に瓦解していきます。苫田ダムを巡る歴史を改めて問いたい。武田さんたちは今当時の写真や記事、裁判資料などを集め資料展示会を開催しています。ただ、伝えたいのは昔話ではないといいます。

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(武田英夫元県議)
「写真に映っている人の単なる思い出ではなく、今の若い人、下流で生活している人にダム問題を考えようと」

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多額の補償金による切り崩しや地域の高齢化。「町是」の柱でもあったダム阻止条例が廃止されたのは1994年でした。

「町民の意識も変化し、大方の同意も得られた中で阻止特別委員会条例の廃止を…」
「賛成諸君の挙手多数であります。よって本件は原案の通り可決されました」

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30年以上に及ぶ闘いに幕が下り、504世帯がダムの底に沈むこととなりました。

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「試験湛水を開始することを宣言いたします」

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約2000億円の総工費と1つの町を引き換えに苫田ダムは完成します。ダムのほとりにひっそりとかつての団結の碑が移設されています。

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(武田英夫元県議)
「奥津の人の全員の、全員の名前なんです」
「理不尽な者に賛成させられたという思いは今でももって暮らしている方、賛成の方、反対の方含めておられると思いますし」

そして、苫田ダムは今なお課題を抱えています。

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(武田英夫元県議)
「そういう人からみれば必要だからダムをつくったのに、水が余っているのは余計に理不尽な訳ですよ。40万トンいるからダムをつくったのに、30万トンも残っているのでは何のダムだったのかと。そういう思いを今回の取り組みを通じて感じた」

(スタジオ)
ー長い反対闘争の末、完成した苫田ダム。しかし、その水は、余っているんです。苫田ダムによって利用できる水の量は1日40万トン。現在、岡山県と市や町による団体が買い取っていますが、実際に使用しているのは2022年度で約8万トンです。

ー例えば利用の多い岡山市では、約10万トン分の契約を結び、年間21億円を払っています。ただ実際に使われているのは4万トン余り…。半分以下なんです。

ー水の供給能力はかなり大きいのですね。一方で需要が増える見込みは低く、現在進めている水を取り入れる施設の工事は休止する予定になっています。

ーさらに自治体の負担軽減や将来、水を使う可能性も考慮して県は毎年約6億円もの予算を計上しているんです。
「大雨の季節、ダムは治水の役割も担っているので、単純に価値を判断することはできませんが、自治体による水道料金の値上げのニュースも増えています。見通しが甘かったのではないかとも感じますね」

ー鏡野町で開催中の資料展示会にはかつての住民が多く訪れ、写真を見て涙する人もいるとのことです。人口減少社会が進むなか、その歴史から学ぶことは多いのではないでしょうか。