ハリウッド作品の王道ジャンルのひとつにラヴコメがある。最も人気を集め、黄金期と言われたのが、1980年代の終わりから2000年あたりで、『恋人たちの予感』(1989年)、『プリティ・ウーマン』(1990年)、『めぐり逢えたら』(1993年)、『フォー・ウェディング』(1994年)、『ノッティングヒルの恋人』(1999年)といった名作、ヒット作が次々と生まれた。これらのラヴコメは、いま改めて観てもそのプロットに素直に引き込まれる。同時にこの時期のラヴコメは、出演スターの魅力を最大限に引き出し、メグ・ライアン、トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラントらの代表作を誕生させた。
  
しかし2000年以降、ラヴコメのヒット作は減少していく。もちろん映画は作られていたものの……。人気を呼ぶ作品は散発的で、かつてのようなブームが起きることはなくなった。ラヴコメを代表作とする人気スターも極端に少ないのが現状。とはいえラヴコメを観たい人が減ったわけではない。むしろ少数精鋭になったことで、砂漠のオアシスのような輝きを放つ作品が誕生する。この『恋するプリテンダー』は世界興収が2億ドルを超えたので(同様のラヴコメ系では2018年の『クレイジー・リッチ!』以来)、そんな一本になるかもしれない。
  
ラヴコメが面白く加速する条件はいろいろあるが、そのうち大きなポイントは“偶然の出会い”そして“再会”。『恋するプリテンダー』は、その流れが完璧だ。出会いの場所は、どこにでもありそうな街角のカフェ。きっかけは本編で確かめてほしいので詳しく書かないが、弁護士を目指すビーと金融マンのベンが急接近するも、ちょっとした行き違いで一度はきっぱりと別れる。しかし数年後、彼らはシドニーでの同じ結婚式に出席することになり、諸事情で恋人のフリをする運命に……という物語。ラヴコメとしては王道の展開と言える。
  
設定からして、何となく先が“読める”あたりもラヴコメらしいが、予想どおりに行きそうで行かなかったりする迷走感も楽しめる本作。周囲のキャラの個性や、いい意味でベタなギャグの数々(誰もが知っている超名作へのオマージュも!)、そして舞台となるシドニーの名所やリゾートの美しい風景など、あらゆる要素が観ているこちらの気分を上げる。しかし最大のポイントは、主演2人の魅力であるのは間違いなく、ここで人気俳優+ラヴコメという成功の法則ができあがる。
  
ビーを演じたのは、シドニー・スウィーニー。映画はクエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タム・イン・ハリウッド』でマンソン・ファミリーの少女の一人を演じているが、ドラマでは大活躍の彼女。とくに学園ドラマ「ユーフォリア/EUPHORIA」ではセンセーショナルな演技が話題に。同ドラマは、今をときめく若手スター、ゼンデイヤも出演しており、スターへの登竜門となっている。ビーを演じたスウィーニーは、上昇志向が強く小悪魔的であり、どこかズッコケた部分も持ち合わせるなど、まさにラヴコメのヒロインとして理想型。彼女は本作で製作総指揮にも名を連ねており、間違いなく今後のハリウッドで存在感を発揮していきそう。そのポテンシャルを感じさせてくれるのが『恋するプリテンダー』だ。
  
そしてスウィーニーと同じくらい注目したいのがベン役のグレン・パウエルである。あの『トップガン マーヴェリック』で若きパイロットの一人、ハングマンを演じたので、見覚えのある人も多いはず。仲間の乗った僚機を見捨てたり、反逆的な行動もとるハングマン役をクールに演じたパウエルは、その後、朝鮮戦争を背景にした『ディヴォーション:マイ・ベスト・ウィングマン』でも米海軍のパイロットを好演。シリアスな役が続くかと思いきや、『恋するプリテンダー』でいきなりラヴコメに進出し、まったく違う持ち味を押し出した。ベンは金融マンで、おしゃれなアパートメントで暮らし、料理も得意。シドニーへ行けばサーフィンを楽しむなど、憧れのライフスタイルを体現するキャラだ。イケメンのパウエルはハマリ役なのだが、本作では無意味に裸になったり、ブッとんだ演技に体当たりでチャレンジしている。ある日の撮影では、用意された衣装が靴下だけ……ということもあったそうだ。アメリカの雑誌で紹介されたように、じつはパウエルはバキバキの筋肉が自慢。それを楽しそうに披露するパウエルと、相手役スウィーニーのやりとりは、ラヴコメらしいテンションの高さで、2人の最高のケミストリーを実感できることだろう。
  
リゾートをバックに、いまハリウッドで最も勢いのあるスター俳優2人の共演。それだけでスクリーンが生き生きとしたエネルギーに溢れる。そんな事実を『恋するプリテンダー』は改めて教えてくれるのだ。
『恋するプリテンダー』5月10日公開
原案・脚本/イラナ・ウォルパート 製作・監督・脚本/ウィル・グラック 出演/シドニー・スウィーニー、グレン・パウエル、アレクサンドラ・シップ、ガタ、ハドリー・ロビンソン 配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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文=斉藤博昭  text:Hiroaki Saito