ジョン・クラシンスキー
監督と俳優が夫婦。ハリウッドでこのパターンは、多そうで少ない。結ばれる確率は高いものの、夫婦になって破局してしまうケースも目立つからだ。両者の方向性や才能の違いで、いろいろあるようで……。逆にうまく行っているカップルを挙げるなら、スティーヴン・スピルバーグ監督とケイト・キャプショー、「バイオハザード」シリーズなどのポール・WS・アンダーソン監督とミラ・ジョヴォヴィッチ、サム・テイラー=ジョンソン監督と『キック・アス』や『GODZILLA ゴジラ』のアーロン・テイラー=ジョンソンあたりか。そして現在、このパターンで最も活躍がめざましいのが、ジョン・クラシンスキーとエミリー・ブラントかもしれない。
クラシンスキーは俳優から監督業に進出し、長編2作目のホラー映画『クワイエット・プレイス』を特大ヒットに導いた。同作にはブラントと夫婦役で出演し、続編も作られた。そしてブラントは『プラダを着た悪魔』以降、次々と話題作に出演し、『オッペンハイマー』でアカデミー賞助演女優賞にノミネート。ハリウッドでトップの地位を築いた。ジョン・クラシンスキーの最新監督作『ブルー きみは大丈夫』にも、ブラントは声の演技で参加。『ブルー』は、12歳の少女ビーが、子供にしか見えない“想像上の友人=イマジナリー・フレンド”と交流する物語。ファンタジーながら、大人の観客の胸を締め付け、全米でも大ヒットした。『クワイエット・プレイス』とはまったく違うジャンルを成功させたジョン・クラシンスキーに、作品に込めた思いや、エミリー・ブラントとの関係、あの大物キャストの起用などについて聞いた。
ーー『クワイエット・プレイス』から一転し、こうしたジャンルの映画を撮ったのは、何か大きな理由がありそうですね。
「『ブルー きみは大丈夫』の構想はかなり以前からあったのですが、本格的に作ろうと思ったきっかけは、コロナによるパンデミックです。僕とエミリー(・ブラント)には2人の娘がいて、そろそろ彼女たちと外の世界を繋ぐような映画を撮りたいと感じ、エミリーも同意してくれました。僕らは娘たちが遊んでいる姿を何年か見守っていたところ、パンデミックで彼女たちの遊びへの好奇心が薄れ、明らかに目の輝きも失われたことで、“今こそ何かをしなくては”と決心し、本作に取り掛かったのです」
ーーということは、主人公のビーのキャラクターにあなたの子供たちが投影されていたりするのでしょうか。
「そこはちょっと違います。現実の彼女たちを参考にしたわけではなく、“こうなってほしい”という思いをビーのキャラクターに込めました。心の強さと繊細さを併せ持ち、質問することを恐れず、まわりの世界を受け入れる。娘たちには、そんな人間になってほしいのです」
ーーあなたのそんな思いは彼女たちに届きましたか?
「娘たちはビーを演じたケイリー(・フレミング)に夢中になったので、僕の願いも間接的に届いているでしょう。ケイリーを我が家に呼んだ時、彼女たちはサンタクロースが現れたかのように大興奮でした(笑)」
ーー主人公は12歳の少女ですが、ストーリー自体は大人の観客にアピールする部分が多いですよね。そこは意識的だったのですか?
「はい。たとえば80歳の人が観ても、自分の特別な場所に戻ることができる。そういう目的でこの映画を作りました。イマジナリー・フレンドのデザインから小道具、セットに至るまで、誰もがどこかに“懐かしい”と感じるテイストを入れ込んだつもりです。見本にしたのは『E.T.』や『グーニーズ』。子供たちが主人公で、彼らの友情が基本テーマでありながら、親の離婚など大人の事情もきちんと描くことで、世代を超えて愛されましたよね? 日本の作品でいえば、スタジオジブリのアニメなんかが、まさにそのパターン。『ブルー』では蓄音機でレコードをかけるシーンなど、あちこちにノスタルジーを感じさせる演出を盛り込んで、大人の観客の琴線に触れるようにしました」
   


ーージブリの話が出ましたが、メインで活躍するイマジナリー・フレンドのブルーは、『となりのトトロ』を意識してデザインしたのでは?
「たしかに『トトロ』は本作の参考になった映画のひとつですが、ブルーのデザインには直接的な影響を受けていません。この映画を作るにあたって、僕は児童心理学者に話を聞き、子供たちが自分に必要な何かをイマジナリー・フレンドとして創作すると知りました。たとえば学校でいじめられた場合、守ってくれたり、抱き締めてくれたりする存在が求められ、それがブルーのデザインになったわけです。色はパープルなのに名前がブルーなのは、娘たちとの会話がヒントになりました。以前、彼女たちに好きな色を聞かれ、僕は正直に“ブルー”と答えたところ、“違う。パープルでしょう!”と反論されたんです。なぜかわかりませんが、そのやりとりで僕の好きな色もパープルに変わってしまいました。この経緯は、映画の中にもジョーク的に取り込んでいます」
ーーそうでしたか。日本の観客は、ブルーとトトロを重ねると思うので……。
「あっ、でも僕はジブリ作品と深い縁があります。『風立ちぬ』の英語吹替版で本庄(主人公の親友)役を担当しました。本当にラッキーで光栄な思い出です」
ーー大人の観客向けということで、本作にはジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ブラッドリー・クーパーら大スターたちの声の演技も話題です。ブラッド・ピットもクレジットされていますが、キャスティングの経緯を教えてください。
「通常のやり方でオファーしました。ブラッドに“イマジナリー・フレンドの声で作品に参加してくれませんか?”と連絡したところ、“光栄なので、ぜひやらせてほしい”と、とても丁寧な返事をもらえたんです。本当に、いい人。こちらこそ光栄でしたよ」
ーーブラッドが演じたキャラは、『デッドプール2』に彼がカメオ出演した際の役柄に似ています。『ブルー』にはデッドプール役のライアン・レイノルズが出演しているので、その縁でブラッドも参加したのかと思いました。
「違うんです。『ブルー』にブラッドをキャスティングした後に、『デッドプール2』でも彼が同じようなことをしていたのを思い出しました(笑)。とにかくブラッドは寛大な人で、本作が面白い世界になるように、いろんなアイデアを出してくれましたね。物語に共感してくれたようです」
   


ーーそしてイマジナリー・フレンドのユニコーンの声を演じたのが、エミリー・ブラントです。『クワイエット・プレイス』が夫婦共演だったように、つねにおたがいの作品に協力するのですか?
「僕はエミリーの“世界一”のファンという立場。ですからあえて彼女が出る作品の脚本を読んだり、未完成の段階で映像を観たりはしません。彼女は自分の経験で演技に入り込みますから。そしてエミリーも、僕に対しては同じようなスタンスだと思います。僕も監督の仕事を家に持ち帰らないようにはしていますが、つねにコミュニケーションをとっているので、彼女は僕の精神状態を把握しています。本作の場合、NYのコニーアイランドやマンハッタンの路上で大規模なロケを行う際には、僕のプレッシャーを察したようで彼女はサポートしてくれました。僕が映画監督としてこの地位にいるのは、間違いなくエミリーのおかげ。僕に大きなインスピレーションを与える人であり、もし彼女に会っていなかったら今の自分は存在していません。本当に幸運です」
『ブルー きみは大丈夫』6月14日公開
監督・脚本/ジョン・クラシンスキー  出演/ライアン・レイノルズ、ケイリー・フレミング 、ジョン・クラシンスキー 声の出演/スティーヴ・カレル、マット・デイモン、エミリー・ブラント、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、オークワフィナ、サム・ロックウェル、ルイス・ゴセット・Jr
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取材・文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
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